4-(10) フライヤベルクの動静(3)
参月義成は、いま、総旗艦アマテラスの食堂でうどんをすすっていた。かつおだしの素うどんだが、
――このさっぱりとした出来がたまらないな。
手打ちという太めの麺は、柔らかめだがコシは失われていない。絶妙だ。そして、なんといってもこのうどんのきもは、薬味として刻まれた柚子の風味。この柚子は、乾燥フルーツを刻んだものではなく、なんと艦内で調理師が育てているものだそうだ。
「柚子うどんは艦の名物だぜ義成。絶対にこいつを食っていけよ」
と義成は勧められるまま注文してみたが、調理師が差しだしてきたうどんの上には、刻まれた皮がパラパラと散らされ白い太麺の上にちる黄色い皮は、さしずめ雪原に散った黄金。
そしてスープも絶品だ。果実の部分が刻まれて入れられているようで、手始めに一口ためしてみるかと、スプーンでスープを一口ふくんでみれば爽やかな酸味が口の中に広がり食欲がますます増進。倍増された食欲。その勢いで麺を箸でつまんで一気に口のなかへ。麺は柔らかく優しい味。柚子の酸味が霧散し、酸味が消える前にまたスープを救って一口。またすぐに麺。
――確かにうまい。
無言で食す義成。義成と同席していた男子2人は、夢中になってうどんを啜る義成を見て思わず笑っていた。笑う2人は、一見すると義成と同年代に見えるが28歳の軍歴8年。星間戦争にも参加しているベテラン兵だ。
――案内役を付けて欲しい。
という義成の要望をうけた戦線司令官シャンテルが手配した人員だった。
「そんなにうまそうに食べてもらえば勧めたかいがあったってもんだぜ。でもさ義成は国軍旗艦からきたんだろ。普段からいいもの食えてるはずだ。あそこのコックは一流ばかりだって話だし」
といったのは、黒髪の青年。無精髭が愛嬌のマコト。そしてマコトの言葉に、
「いやー。マコトはわかってない。総司令官の側近って寝る間もないほどの激務だろ? 普段は固形の栄養食ばかりじゃないのか。仕事しつつボリボリかじってるんだよ」
と応じたのは、茶色の髪の毛にそばかすが愛嬌のマッケンジー。
「それってブラックじゃんか。主計部に職場環境の改善要望をだすべきだね」
「まあ戦場だからなぁ。最前線で、まともに勤務ローテーションが機能してるのって、俺達ロイヤルネイビーぐらいだっていうしな」
「クイーン・シャンテル万歳ってとこだな。マッケンジーくんも大好きな艦隊の姫君は慈悲深い」
「なにいうんだマコトだって姫君の大ファンだろ。だが、職場環境の改善は、ラ……、じゃなくてカミロ副司令の段取りもいいんだよ。姫君の方針だけじゃ現場にゆとりおを、なんていっても末端の俺達のまで反映されないって」
「それな。でもやっぱりシャンテル戦線司令は、まさに救世乙女だ。あの人が着任してくるまで、フライヤベルク戦線はブラック勤務の極み。地獄だったからなぁ」
「というかマッケンジー。クイーンシャンテル号の外装を塗り直すって話はどうなったんだ? 俺は船外活動しなきゃならないから早めに予定をしっておきたいんだが」
「いや、総旗艦がピンクはまずいんじゃないかって話になってて保留されてる。親衛隊はどうしても塗り直ししたいと、今度は艦政本部に再要望だ」
「へー。戦線司令官権限じゃなくて、正式な手続き踏んで塗り直しにしたのか。むしろそのほうが審査とおらないだろ?」
「だから親衛隊の連中は、書類完璧に揃えてやるって躍起になってるよ」
「難しいんじゃないか。なあ、義成もそう思うだろ?」
突如マコトに問われた俺は、口から麺をはみ出させながらキョトン。2人の話の内容は大体把握できているが、うどんに夢中で不覚にも自分に話題が振られるなど思ってもいなかった……。
そう。俺は、案内役に付けられたマコトとマッケンジーの2人と、かなりの短時間で親密となっていた。情報源となる相手と良い関係を構築する。それもできるだけ短時間で。これは特殊工作員のスキルの一つだ。だが、今回にかぎっては、マコトとマッケンジーの2人が、とても気のいい気さくなやつらだったという理由が大きいな。
――気軽にいこうぜ。
最初の挨拶を済ませたあとのマコトのこの一言が決定的だった。俺はこの提案を喜んで受け入れ、お互いの立場をわきまえたうえでのラフな関係作りに成功していた。
向こうはベテラン兵の良い先輩。こちらはエリートだが気取らない男という感じかな。そもそも俺はエリートといっても星系軍士官学校では最下位の48番。不本意だが、俺の身にまとう落ちこぼれ独特の空気が、彼らの警戒をといた可能性も高い。
俺が最初挨拶したときの2人は、
――これが黄金の二期生……!
超エリート目の前にしたとき独特の固い表情をしていたからな。
「なあ義成。塗装のし直しって正式手続き踏んだら無理なんだろ? 工廠の連中がいってたぜ」
「ああ、なら艦政本部ではなく総司令部へだしたらどうだろか」
「え、いいのかそれ?」
「総司令官にはそういった許諾をだす全権限が与えられているからな。つまり――」
「天儀総司令がOKといえば問題ないのか」
「そういうことだ」
これなら艦政本部に、塗り替えの許可申請をだすよりはるかに簡単に通るだろう。というか俺が思うに、天儀総司令は、軍艦がピングだろうが虹色だろうがなんでもいいはずだ。強力な砲をぶっ放せ、電子戦のための出力が高く、しかも足が速い。あの人は軍用宇宙船の見た目にはあまり頓着がない。……と思うぞ。
だが、2人は、
「人食い鬼かあ……」
と浮かない顔だ。
――シャンテル戦線司令と天儀総司令にはなにか因縁があるのか?
と俺は推測しつつも、2人の会話を聞いていて浮かんだ疑問を口にすることにした。
「そういえば2人とも親衛隊といってたが、ここにも国家親衛隊が配置されているのか?」
「あー、違う違う。そっちのじゃない」
マコトの否定に、俺はますます疑問顔だ。別の親衛隊が、ヌナニア軍には存在するのか。だが、そんなエリート部隊は聞いたことがない。俺のそんな疑問顔に答えてくれたのは、マッケンジーだ。
「親衛隊といったら宇宙ゴリラが有名だもんな。でも、うちでいう親衛隊は、クイーンシャンテル親衛隊だ」
「……クイーンシャンテル親衛隊?」
「ここにきたときに見なかったか? QCって金の縁取りしたバッチ付けてるやつら。あれだよ」
「ああ――!」
「そういうわけさ。親衛隊といってもシャンテル戦線司令のファンクラブみたいなもんだけどな」
「宇宙最強のファンクラブだけどな。武装してっから」
「まとまった数がいて優秀なものが多いからラン、じゃなくてカミロ副司令が最近になってQC親衛隊っていう正規な戦闘集団を作っちまったんだ。俺もマコトも、もちろんシャンテル戦線司令のファンクラブには参加してるんだが、QCのバッチ持ってるやつらは正式に部隊編成されたやつらだけなんだ」
「な、なるほど……」
と答えた俺は動揺気味。巨大な戦場では、一つの戦線司令官に巨大な権限が与えられるが、これは現場が勝手をしだすという危険性も孕むことはいうまでもない。武器弾薬。それに資金も足りないと、最前線が催促するままに政府が物資を送ってみれば、現場では遊園地を作っていたなんて馬鹿げたことありうるのだ。つまり俺がいいたいのは、
――こ、これは戦力の私物化では?
という危惧だ。だが、マコトもマッケンジーも俺のそんな危惧に気づかないのか色々戦線の内情を語ってくれた。そして食事が終わるころには――。
「義成も瑞鶴に帰る前に、ファンクラブ入ってけよ。柚子うどんとシャンテル戦線司令のファンクラブ。ここじゃあこの2つが名物だ」
「そうそう。マッケンジーのいうとおりだぜ。柚子うどん食って、ファンクラブ入らなきゃむしろここになにしにきたって感じまである」
「いや、戦いにきたんだろ!」
俺が呆れていうと2人は、
「あ、そうだな」
と笑っていた。そして別れ際には、
「てか義成は、シャンテル戦線司令と直接会えたんだろ。羨ましいぜこのやろう」
という言葉で見送られ、俺はマコトとマッケンジーと別れたのだった。彼らには俺の案内以外にも普段の軍務がある。あまり拘束しては悪い。
――カミロ参軍事については、あまり聞けなかったな
いくら階級と立場を越えて交流する仲となったといってもまだ初日。強引に、カミロ参軍事ってどんな人なんだ? なんて聞けばぶち壊し間違いなし。
俺が見るに、マコトもマッケンジーもバカじゃない。むしろ勘がいいよう見える。2人とも天儀総司令とフライヤベルク戦線との関係に、微妙な隙間があることも承知しているだろう。しかもカミロ参軍事は、露骨に素性を隠している。そんななかで俺が、カミロ参軍事について聞けば、勘がいい2人は、俺が総司令部から送られてきたスパイだと感じて口を閉ざしてしまうはずだ。
――ま、だが色々わかったこともある。
良くないことが多かったが、フライヤベルク戦線はかなり強固な連帯感が醸成されているというのは間違いない。戦場では、兵員達は自分たちの乗る艦や部隊に〝あだ名〟をつけるものだが、ここでは、総旗艦アマテラスは、クイーンシャンテル号と呼ばれ、クイーンシャンテル号、もといいアマテラス直属の艦隊は、女王陛下の艦隊なんて呼ばれている。若干まずいような気もするが、高官から末端まで幅広い層からの忠誠心が厚いということは悪いことじゃない。
――総司令部がどう判断するのかは不明だがな。
天儀総司令だけじゃない。六川軍官房長や、星守副官房は、この状況をどうと捉えるだろうか。一連の状況は、フライヤベルクの戦力が総司令部のから命令を受け付けずに独断で行動しだす兆候という可能性はないのか。俺は、そんなことを考えつつ与えられた自室へ戻った。
レアル・カミロとは何者か。与えられた部屋に入った俺は、これを調べることにした。
艦隊の姫君。部下から女王とも慕われるシャンテル・ノール・セレスティアが、信頼し副司令官に任命したくなるような人物の正体は誰なのか。今後、フライヤベルク戦線で滞在する間に調べていくつもりだが、まず手近でできることをしてしまうのも手だ。つまり、持ち込んだ端末による検索。
検索といってもネットワークには繋がれていない。アマテラスでのあらゆる通信は、アマテラスの電子戦科に監視されているだろう。俺がここで、端末をネットワークに繋いで、
『シャンテル・ノール・セレスティア』
なんて検索バーへ入力してカチっと実行すれば、それはアマテラスの記録に残る。ただちに問題検索ワードとして、電子戦科司令室に警告が鳴り響くなんてことはありえないが、義成という男がアマテラスへきてなにをしていたのか、と調べたときに一目瞭然だ。
つまり、いまから俺が調べ物のために利用する情報は、俺がアマテラスへ持ち込んだ端末にあらかじめ仕込んでいたものを利用する。これで俺がアマテラス内で、なにを調べたかまったくわからないということはないのだが、簡単には調べられないのも事実だ。
――情報の持ち込みにもチェックがあるのでは?
という疑問があるだろうが、それには肯定だ。安全管理上の問題だ。艦へ持ち込むあらゆるものは必ずチェエックを受ける。それは情報とて例外ではない。悪意ある攻撃を避けるためという理由もあるが、乗員の個人的な携帯機器は本人が気づかぬうちにウイルスなどに感染している可能性などあるからだ。むしろこれのほうが多い。
だが、軍高官や俺のような特命を受けた人間が、機密を持参するという場合もある。その場合、軍事機密の入った情報端末を、一般の情報科が確認するのは、それはそれで問題があるので、特別な立場の人間は、持ち込みたい端末がウイルスなどに感染していないかあらかじめチェックを済ませたという証明書を発行してもらい情報の詰まった端末を乗り込む艦へ持ち込むのだ。
俺は、持ち込みした自身の端末を起動し、
『シャンテル・ノール・セレスティア』
というワードで検索。そうするとかなりの件数がヒットした。
『父親は、アルバ・セレスティアル』
有名人じゃないか。旧セレニス星間連合時代の惑星ミアンノバの首長で、その治績から聖公といまでも尊敬を集めている人物。聖アルバ公は、敬虔な宗教家でもある。とにかくこの人は、所得格差に悩む惑星ミアンノバを救済しようと生涯運動を続けた偉い人だ。
なるほどシャンテル戦線司令に、人を制するような威が備わっているのはやはり血筋が理由だったか。聖アルバ公の娘なら、あの純白のようなおしとやかな人格はうなづける。
『母親は、リナ・ノール』
とても有名な女優らしいが俺はしらないな。なるほど俺が生まれる前に死んでいるのか。人気も旧セレニス連合内にとどまる感じだな。シャンテル・ノール・セレスティアのノールは、母親の姓なのか。というかリナ・ノールと聖アルバ公はかなりの歳の差カップルだな。なんだ聖公なんて尊敬されていても、アルバさんやることはやってるんじゃないか。……いけない。下賤なことを考えてしまった。他に血縁者はいないのか……。
血縁者をしりたいなら手っ取り早く父親の情報を開くにかぎる。そこにはアルバ・セレスティアルの両親と兄弟、そして子供の名前が書かれているはずだ。若いシャンテル戦線司令からみて親しい血縁者となれば、祖父祖母までの三世代ぐらいだろうし、聖アルバ公のほうが有名人なので、こちらのほうが情報が充実しているだろう。
ただ俺は、さして期待せずに、アルバ・セレスティアルの情報を開いた。なぜなら俺はシャンテル戦線司令のカミロ参軍事の態度から、カミロ参軍事の正体をシャンテル戦線司令の思いの人、という憶測を持っていたからだ。血縁者では、彼氏にはなれない。
聖アルバ公の情報が表示された。俺は、家族構成の欄に目をやった。
「へー。シャンテル戦線司令には兄弟がいるのか。って、これは……!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
義成がアマテラス艦内で驚くなか、国軍旗艦瑞鶴の総司令室では、総司令官の天儀が映像をともなう通信をおこなっていた。
天儀の通相手は、ジト目の美人千宮氷華。電子戦司令局長。火水風いわく怒らせるととっても怖い人だ。
『あら天儀さんはご存じない。……うふふ』
「ああ、ご存じないので義成に命じて調べさせている。誰なんだレアル・カミロとは」
『…………』
「だんまりしていないで教えてくれよ。六川も星守も教えくれん。あいつらは絶対にレアル・カミロの正体をしっているぞ。なにせ元軍警の高官だし、それでなくとも六川はヌナニア軍の組織づくりの裏方を担い、星守はその手伝いをしたはずだ。2人ともいまのヌナニア軍の人事に精通してるはずだろ」
天儀が口にした2人は軍官房部。軍官房部といえば、総司令官を綿密に補筆する組織。総司令官である天儀のために身を粉にして働いてくれる人々が配置されているはずなのだが……。
『………サボタージュですか?』
「いや、2人は俺のために熱心に働いてはくれているが、信頼はしてくれていないようだ」
『つまり天儀さんは人望がない。可愛そうです。……うふふ』
いま、氷華にあるのは、自分だけが天儀を助ける存在ということを確かめる愉悦感。大事な存在。忙しいなかの貴重なプライベート通信。もったいぶって最大限に、この愉悦感を楽しみ抜いきたい。
――それに困る天儀さんを見ているのはとても面白いのです。
だが、こんな千宮氷華の公私混同は、天儀からしたら困ったものだ。いや、そもそも天儀がオフタイムのプライベート通信で、仕事の話をもちだしたので、この場合は千宮氷華の態度が正しいのか? とにかく氷華は、困る天儀をみて面白そうにするだけだ。
けれど、氷華だって天儀が嫌いなわけじゃない。むしろ好きで、
「同情ありがとう……」
とげんなり顔の天儀が、モニター内で頭を抱える姿を見ていたら捨てておくには忍びない。
――ちょっと意地悪しすぎましたかね
と反省しつつ、
『ヒントです』
と口にした。
「ヒント?」
『ええ、フライヤベルク戦線の司令官は誰ですか?』
「そんなものはしっている。シャンテル・ノール・セレスティア」
『ご名答。正解です』
「はぁ。やはり君は、俺が困る姿を見て楽しんでるだけじゃないのか?」
『そんなことはありますけど、ありません。天儀さんから見て、シャンテルの軍事的能力はどうですか?』
「……」
『さあ、いいにくでしょうが答えて。それがさらなるヒントになりますよ」
「ない」
『ない?』
「シャンテル戦線司令は組織管理には優れた能力を持つようだが、戦闘を指揮の採点をするなら10点だ」
『10点満点中ということはないでしょうね』
100点満点のなかの10点ではお世辞にも高いとはいえない。それに氷華からすると、天儀の他人への戦闘指揮へ採点はとても辛口だ。しかも大抵の評価はゼロか満点。つまり、
――天儀さんは口では人に任せることが重要なんていいますけど。
私からいわせれば、天儀さんはことに戦闘指揮にかぎっては、まったく他人の指揮を信用していません。自分でやって、めちゃくちゃ勝って、自分の指揮が最高で、一番だと思っている妄想が激しい人です。ま、そんな尊大なところも可愛いんですけどね。
「……おい氷華。全部聞こえているぞ。そういうことは黙って考えて、心のうちにそっと収納しておいてくれ」
『……あら失礼。心の声が漏れていましたか』
「ああ、頼むぞ。あと、100点満点の採点じゃない。俺はもっと適正で公平に物事を見ている」
『あら意外。では、10点満点採点でしたか。シャンテルのお嬢さんは意外に軍事能力があるのですね。さすがは現場では女王なんて慕われるだけはあります』
「いや違う」
『あら違う?』
「一千万点中の10点だ」
ドーンっと自信を持っていう天儀に氷華は、
『酷い……』
と苦い顔だ。愛しの人といえども戦闘のこととなると、天儀の採点はあまりに冷酷すぎやしないのか。これでは部下からの信頼を失わないのか。などなど氷華は、天儀の彼女としてあまりに心配だ。
「君の彼氏なんだろ。そりゃあ酷いやつなんだよ」
『……最低です』
「とういかフライヤベルク戦線司令官へのシャンテル・ノール・セレスティアの指名は、そちらにいるミカヅチの決定なのだろ?」
『ええ、そうですね。いまの各戦線の司令官の決定は、未来型と呼ばれるAIのミカヅチの決定です。帝国側の宣戦布告と同時に、不意打ちでフライヤベルクを占領れ、それから天儀さんが着任するまでミカヅチが、この戦争の指揮をしていましたからね』
「それが解せんのだ。ミカヅチは、なかなかの軍事的プレゼンスをもっているのに、なぜ一番重要ともいえる戦線に素人を配置したんだ? シャンテル嬢は、従軍経験もあり、艦隊を指揮した経験もあり、軍籍も所持しているが、真っ当な軍人じゃない。まともな軍人なら彼女を司令官に任命したりは絶対にしない」
『……ふむ。けれど、従軍経験もあり、艦隊を指揮した経験があり、軍籍があれば、それはすなわち非の打ち所のない完璧な軍人では?』
氷華のもっともな指摘に、天儀が苦い顔だ。
氷華のいったことは、まったくもってそのとおりで、しかも艦隊指揮なんて誰もができるわけじゃない。ヌナニアの星系軍全体から見れば、士官学校出た成績優秀な一部のエリートだけに与えられる特権クラスの席。天儀がお嬢さんとよぶシャンテルは、100隻規模で編成された本格的な大宇宙艦隊を管理していた経験があるのだ。
だが、シャンテルが軍隊を指揮するにいたった経緯に問題がある。天儀としては、そのことをいっているわけで、もちろん氷華もシャンテルの経歴についてはよくしっているのだ。
つまり、氷華の言葉は、やはりプライベート通信で、彼氏の天儀を困らせて遊んでいだけということ、天儀としては、氷華はヒントなんて口にしたが、
――本当に答えに導く気があるのか?
と疑わざるを得なかった。レアル・カミロの正体のヒントなど嘘で、たんに自分とのプライベート通信を楽しんでるだけという落ちもありうるのだ。
「なあ氷華?」
『大丈夫です。あなたの氷華はからのヒントは本当ですよ。ミカヅチは本来指揮官に任命したかった人物を指名できなかった。法的な規制でね。それゆえのシャンテル・ノール・セレスティアの指名です』
「俺だって任命されたんだぞ。他に任命できないやつなんていないだろ」
『天儀さんの場合は、首相が指名して閣議決定で任命されましたから特別ですよ。そもそもカミロさんとは、指名された事情が全然違いますので』
「しかし法的規制で指名できないなんて、レアル・カミロってやつはどんな犯罪やらかしたんだ。日本刀を手に小学校にでも斬り込んで、大立ち回りでもしたのかこいつは」
『まあ近いかも?』
「マジかよ……。そんなやつはどんなに優秀でも即刻罷免だぞ」
『あら意外に倫理的。てっきり天儀さんは勝てればなんでもいいのかと。彼女としては心配ばかりの毎日なのに』
「なにをいう俺の愛読書は論語だ。倫理観は高い」
『どの口が……』
氷華が思いだしてみるに、出会いから数年は外でも内でも紳士的だったが、ときが流れるにつれて地がでだした。
――天儀さんは私にはいつも優しく気づかってくれるし紳士的ですけど……。
軍務では横柄なところが隠しきれなくなっていた。
『ふむ。でも、もう十分楽しみましたので、もう一つヒントです。いえ、これは答えになってしまいますかね』
「いいから早く答えを教えてくれ。俺が民法のクイズ番組は絶対に見ないのをきみも知ってるだろ。クイズ番組は答えやる前に、絶対に長いCM挟むからな。俺はむちゃくちゃあれが嫌いだ。そして、そんな俺はそろそろ限界だ」
『あら、早漏さん。天儀さんたら久しぶりの彼女との通信で、一刻も早く気持ちよくなってしまいたいと?』
「……頼むから可愛い口で、下品なことは口にしてくれるな……」
『あら、本当に嫌がってますね。美人が隠語を口にすると、ギャップで男は喜ぶと雑誌にあったのですが、天儀さんは自身の理想のタイプを相手に押し付けるタイプですか?』
「……いいから。とにかく、そろそろ教えてくれ」
『ふむ……。そうやってわからないことは、何でも人から教えてもらおうというスタンスは、頭が低いのではなく、ただの面倒くさがり屋。天儀さんの悪癖だと私としては思うのですが、しょうがないので答えに近いヒントを教えます。優しい彼女に感謝してくださいね』
「……助かる。感謝する」
『天儀さんは、レアル・カミロと戦ったことがあります。そしてレアル・カミロは、シャンテル・ノール・セレスティアが絶大に信頼する男でもある』
継いで氷華が、ダメ出しとばかりに、
『もうおわかりですね?』
と口にする前に天儀は、
「あ……!」
と叫んでいたのだった。
『はたして、あの方は天儀さんのために戦ってくれますかねぇ』




