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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
第三章 泊地パラス・アテネ
71/105

4-(1) 見えない犯人

「うんー……。うーん、うーん……。おかしい。なんだろうこれ。うーん……」


 つい10分ほど前から特命係室で響いているこのうめき声の犯人は、参月義成みかづきよしなりの幼馴染で、部下の王仕火水風おうじひみかだ。毛量が多く寝癖のつきやすい髪をきっちりセット。愛くるしい大きな瞳に形の良い唇。その唇にはキュートなピンクのリップ。逸脱しすぎないように気遣いながらも最大限のおしゃれ。忙しい軍務のさなか火水風が身だしなみの準備にかける時間は毎日なんと30分。それもこれも上司で幼馴染の義成のためなのだが……。

 

 ――義成さんったら全然気づいてくれないんですけどー。

 私が悩みのシグナルを放ち始めてから結構経ちますよね。しかも部屋には2人きり。部下で彼女としては、そろそろ「どうしたんだ?」ぐらいの一言が欲しいんですけど? 今日リップ変えてきたのだって気づいてくれないし……。


「あのー……義成さん。ちょっといいですかー」


 ついに火水風は、義成へ問いかけた。悲しいが仕方なし。物事に集中すると周りが見えない聞こえないということが義成にはあるのを、火水風はよくしっているのだ。なにせ幼馴染だから。……そして、

 ――彼女ですしね。


「どうしたんだ火水風?」

「これ何かおかしいんです」

「おかしい?」

「あ、義成さんのデスクに、いま、データ送るので見てみてください」

 

 ――サイバー空間に関することか?

 と義成は思った。なぜなら手続き上の書類でわからないことがあれば火水風は、すぐに聞いてくるからな。俺が火水風に任せている仕事は、総司令官のサイバーセキュリティ。そして簡単な書類作りの手伝い。後者でないならサイバー空間での問題ぐらいしか残らないが……。

 

「何だこのデータは?」

「定期的に、総司令官室に不正なアクセスがあるのを見つけちゃったんです。数日前に気づいて一応独自に防壁展開して防いでたんですけど毎回突破されちゃってて……。とにかく、いま、送ったのはそのログです。巧妙に隠されていますけど、これって絶対に外部からの不正操作です」

「それはわかるが……」

 

 そう応じつつ義成は戸惑った。いま、義成のモニターに表示されているのは数字と英文字の羅列。

 ――だが、ここまではいい。

 俺は、それを一見しただけで通信ログと、カメラへのアクセスだということぐらいはすぐにわかる。なぜなら俺は特殊工作員。スパイ活動のために、仮想空間セキュリティへの対策。つまりは基本的な電子戦科の教育をうけている。もちろん本職の火水風には、とてもおよばないし電子戦ができるかといえば難しいが。

 

 不正アクセス元は、泊地パラス・アテネの宙域の近郊とおおよそわかる。そして不正アクセスの対象は総司令官室内の監視カメラ。いわゆるIoC家電の乗っ取りというやつだ。カメラなんて乗っ取ってなにになるのか? といえばスパイ的には大いに意味がある。まず俺たちスパイが国家要人のカメラを乗っ取ってやることは、デスクのモニターを覗き込むこと。これは直接対処のデスクにハッキングを仕掛けるより遥かにローリスクで、確実に機密情報を得られる有効な手段だ。

 

 いうまでもないが国家要人。今回はヌナニア連合軍総司令官のデスクは機密情報の宝物庫といっていいが、ここに直接ハッキングを仕掛けてデータを抜き取るなんて芸当はスペシャルクラスの電子戦科兵員だってウルトラC級の離れ技だ。情報宝物庫のセキュリティは当然固く、防御壁は何重にも張り巡らされ、触れただけ攻撃側の設備が壊滅しかねない。

 ――ならばどうするか? 

 答えは簡単。モニターを覗き込めばいい。執務中の国家要人のモニターには、宝物庫のお宝が陳列された状態。つまりは情報が表示されているのだ。

 

 あとスパイが、国家要人の個室のカメラを乗っ取ってやることといえば、

 ――恥ずかしいシーンの入手だ。

 

 特に軍用宇宙船の場合は、総司令官室は総司令官個人の個室も兼ねる。当然、女性を連れ込むこともあるだろうし、恥ずかしくスキャンダラスなシーンはいくらでも考えられる。こういった痴態をゲットできれば成果上々。鼻毛を抜いてクシャミしたみたいなものでも、あまり人に見られんたくないシーンなのは事実。場合によってはつかえるわけだが……。

 

 俺が困ったのは、今回火水風から送られてきた画像データだ。火水風は丁寧にも不正アクセス者のカメラワークを再現し、乗っ取られたカメラがなにを写していたか画像データを添付してくれていた。画像には、一人の男だけが写っている。つまり天儀総司令の姿ばかり。なお、特に恥ずかしいシーンはない。普通にデスクに向かって仕事をしているだけだ。伸びをしている画像もあったが、それが恥ずかしいものかといえばまったく違う。いや、ただ、これだってスパイ活動の一環にはなりうる。生体データとかバイタル情報の収集というわけだ。健康状態だって手にできれば極めて有用だ。仮に相手の総司令官が重病とわかれば、大規模な作戦を仕掛ける大チャンス。作戦が成功する公算は、極めて高まる。

 

 が、今回の画像は、それとも違うので俺の頭の中はクエッションマークだらけとなっていた。画像はすべてのアングルがブロマイド的というか、絵になるような。そうだ。軍の広報誌で、〝執務中の天儀総司令官〟なんて見出しをつけて載っければさまになるようなものばかり。なんというか見るからに不審だが、これはスパイ的な不信感というより……。

 

「まるでストーカー?」

 と火水風が、俺が思ったことを口にしていた。


「だが、ストーカーだとしたら魔法使い級(ウィザードクラス)の電子戦の能力の持ち主だぞ。なにせヌナニア星系軍の総司令官室への不正アクセスだ。超危険人物として公安にマークされるようなブラックハッカーでも難しいだろう」

「そうなんですよ義成さん。こんな事できるのは国家に2人といないような凄腕の電子戦能力の持ち主の変態さんってことになるんですよ。でも、そんな凄腕が、こんなくだらないことしますか?」

「……考えにくいな。だが、やはりこの不正アクセスはスパイ活動というより、ストーカー的なものだ。同じ犯罪でも俺たちが危惧し警戒するような種類のものとは少し違う」

「アクセス元は、泊地パラス・アテネ近郊まで絞り込めたんですけどねぇ」

「今回の戦争で、戦闘地域と指定されているような宙域で、ヌナニアが支配するエリアか」

「そうなりますねぇ。敵のスパイが、ヌナニア国内からやってるんでしょか」

「現段階ではなんともいえないが……」


 俺も火水風も答えがでない。状況は謎しかない。解決策が見いだせない。

 ――ストーカーなら軍警察に通報するか?

 と俺が思ったところで特命係室の扉が開いた。


「あー疲れた。艦に残ると意外に仕事ってあるのね。雑務させられちゃって嫌になるわよ」

 

 そういって入ってききたのは焔ヶ原鬼美笑(ほむらがはらきみえ)。いうまでのなく俺のもう一人の部下で近所のお姉さん。ちなみに、特命係として専属で仕事をしているのはじつは俺だけだ。火水風は電子戦科との掛け持ちで、鬼美笑は情報科九課と掛け持ちだ。

 

 情報科九課の仕事は単純にいえば諜報活動だ。鬼美笑姉きみえねえは諜報部の諜報員。特殊工作員の俺と仕事は似ている。どちらもざっくりいえばどちらもスパイ。俺は単独行動が多いが、鬼美笑姉はチームでのスパイ活動が多い。


「鬼美笑に聞いてみよう」

 と俺がいった。


「名案です。亀の甲より年の功ってやつですね義成さん」

「ああ? 火水風あんた私をいま若干ディスったでしょ?」

「いえいえ、とんでもない。同い年の私と義成さんは、年長者の鬼美笑さんを尊重したのですー」

「ふん、まあいいわ。で、なんなのよ?」


 俺たちはさっそく鬼美笑姉に、謎の不正アクセスと不気味なカメラワークについて話した。


「つまり総司令官室のカメラに不正アクセスしてるやつは、いうなれば天儀を、ただ見てるだけっていいたいわけ?」


 俺たちからの説明を聞いた鬼美笑姉は、少し考える素振りを見せながらそういった。


「はい。諜報活動って色々で、一見まったく役立たないようなものも集めるって聞いてます。鬼美笑さんから見て、これって何の情報集めてると思いますかね」


 鬼美笑は、火水風の問には応えずに、

「義成。あんたはどう思うわけ?」

 と問いかけてきたので俺は首を振った。


「そう。わからないか。じゃあ、私もわからないわね。ストーカーじゃなきゃ健康状態を探ってるぐらいしか思い浮かばないけど」

「なーんだガッカリ。鬼美笑さんって普段から情報集めも流布も、そして解析も得意なんていってたから期待してたのにぃ」

「あら、いってくれるだわね。でも、解決策がないなんて私は一言もいってないんだけど?」

「え、犯人の目星がつくとか? 教えて下さいよ!」

「またガッカリさせたら悪いからいわないでおくわー」

「謝りますから。意地悪しないで教えて下さいよぉ」


 火水風が懇願すると、鬼美笑姉が教えてやるという雰囲気をだしたので俺も火水風も俄然興味で鬼美笑姉からでる次の言葉を待った。

 

「天儀に直接聞けばいいじゃない」


 思わぬ回答に、

「え……」

 と火水風は幻滅したように苦い表情になった。天儀総司令に聞いたってわかるはずがない。相手は巧妙にアクセス元を隠している国家に2人といないレベル、いや、FS小説にしか存在しないような凄腕なのだ。だが、俺の考えは少し違った。


「なるほど。それこそ名案だ。盲点だった」

「でしょ? そこの火水風ちゃんは幻滅顔だけれど、天儀に身に覚えがないか聞くのが手っ取り早いわよ」

「天儀総司令は、見た目は悪くないからな。難点は身長ぐらいだ。ちびではないが、高いとはお世辞にもいえない」

「あと性格もだわね。人間性に難点あるわよあの男は」

「……それには答えかねるが、とにかくまだストーカーと決まったわけじゃない。天儀総司令から聴取すれば、この不正アクセスしてきている人物と、その目的がわかる可能性がある。わからなくてもより絞り込めるかもしれない」


 思い立ったが吉日。俺たちはすぐに特命係室をでて、隣の総司令官室を訪問した。


「というわけで天儀総司令。この総司令官室は定期的にハッキングをうけています。ハッキングの対象を厳密にいえば総司令官室のカメラです」

 

 俺は、そういうと手にしていたタブレットに、件の画像データを20枚ほど並べて表示してから天儀総司令に手渡した。


「どれも男前が写ってる」

 と天儀総司令は冗談を口にした。


「なにか心当たりはありませんか?」

 と俺は率直に聞いたが、天儀総司令はまともに取り合うきはないようだ。


「これなんてよく撮れてるな。義成こいつを軍の広報に送れ。今度の記事に使わせよう」

「えっと……」

 

 黙り込んでしまった俺に変わって鬼美笑姉が、

「ちょっと、あんた、じゃなくて失礼しました。天儀総司令官殿。義成は、総司令官殿に身に覚えがないか聞いてるの。冗談いってないで答えてちょーだい」

 と強引に迫った。


「身に覚えだと?」

 と天儀総司令が面倒くさそうに問い返してきたので、俺はすかさず

「はい。失礼ですが、天儀総司令には敵が多い」

 と、はっきりといった。そう。天儀という男には敵が多かった。まずは皇道派こうとうは。グランダ帝国と星間連合が、一つの国家になるときに、グランダ皇帝をヌナニア皇帝に押さなかった天儀は不忠と恨んでいる集団。

 

 そして皇族暗殺での旧唐公派。こちらもグランダ系の勢力だ。最近俺もしったのだが、その昔、天儀総司令はグランダ皇帝の地位を望んでいた皇族を罠にはめて殺していた。いままで天儀総司令の経歴は、経歴抹殺刑ダムナティオ・メモリアのせいで、その個人情報に濃いモヤがかかっていたような状態だったが、ヌナニア総司令官に就任したことで、その経歴抹殺刑ダムナティオ・メモリアがうやむやになり始め、最近では色々なところで天儀総司令の情報が出回り始めたのだ。

 

 これ以外にも旧グランダ軍時代に強引なことを多数やっており、中々のヘイトを世間から稼いでいるということが徐々に判明してきていた。天儀総司令率いる旧グランダ軍に撃破された旧星間連合軍の出身者などは、個人的に恨みを抱いているものも多そうだ。……俺もこの人を兄の仇と殺そうとしたわけだしな。俺以外にもそんなやつがいてもおかしくはない。

 

 とにかくこの人は俺からいわせれば、星系軍人らしからぬ、という言葉がもっとも相応しい軍人だ。伝統的だけでなく汎人類的に倫理を重視する星系軍だ。これはヌナニア連合軍以外でも、どこの国家の星系軍も、いや、どこのスペースノイドも倫理観をつねに重視する。宇宙では感情のままに行動してはすぐに破滅してしまうからだ。何事も冷徹に、システマチックに。宇宙で生きることは人類にとって、いまでもそう容易いことじゃない。

 

 それが、天儀総司令ときたら星系軍人として高等教育をうけたとは思えないほどの野蛮さで戦っていた。

 

 ――国際協定? 破らなきゃいい。だが、グレーはやる。

 

 俺から見れば天儀総司令の戦い方は万事これだ。普通の星系軍人は、グレーもやらない。なお、天儀総司令の名誉のために、バレなきゃOKとまでは酷くないないと補足しておく。だいたい宇宙で不正をしてバレないのは難しい。何事も記録に残るからだ。宇宙船団丸々消失ぐらいしないと、その蛮行は消し去ることは無理。罪に問われるかは別として、宇宙で隠蔽はとても難しい。


 話を戻すと、ことは国軍総司令官の個室へのハッキング行為だ。流されていい問題じゃない。確実に対処が必要で、俺としては天儀総司令からはっきりとした回答がもらいたい。それで対応は変わってくるのだ。


「カメラが乗っ取られた。これをよくあるIoC家電への乗っ取りとお考えなら、その認識をあらためることをお勧めします。仮のこれが敵スパイからのハッキング行為なら、なんらかの諜報活動の前触れの可能性もあるのです」

 

 俺は少し脅すようにいった。つまりは総司令官の間取りなど情報を入手し、別の場所で忠実に再現し、そこで訓練する。理由は? 天儀総司令を暗殺するためだ。太聖銀河帝国内では、国軍旗艦瑞鶴の内装が忠実に再現され訓練場で、天儀暗殺の訓練が日々おこなわれているかもしれない。当然、天儀総司令は、俺のこういった言葉の意図を汲み取ったようだ。


「今回の戦争でヌナニア星系軍は、フライヤ・ベルク一帯にこれまでにない仮想空間防御網サイバースペース・セキュリティを構築している。初戦で遅れを取った代わりに、というわけではないが電子戦の強さはヌナニア星系軍の敵である太聖銀河帝国軍に対するアドバンテージだ。これを活かすために、ヌナニアはいままで防御一辺倒なりながら仮想空間での足場づくりに専念していたわけだが、そのかいはあった」

「それは初耳です」

「そりゃあそうだ。軍の最高レベルで決定された方針で、つまり最高機密でもあるからな。俺だって着任して報告聞くまではしらなかった」

「だからカメラが敵にハッキングされる恐れはないと?」

 

 俺の問に天儀総司令が頷いてから言葉を継いだ。


「あと一週間もしないで、ヌナニア星系軍のフライヤ・ベルクでの仮想空間サイバースペースの優位は決定的となる。今の時代戦場は同じ場所に2つある。俺たちがドンパチやる現実世界のそれと、仮想空間だ。つまり俺たちヌナニアは、現実世界では押されているよう見えて確実に取れる仮想空間での優位を成立させるという着実な戦略を取ったんだよ」

「だから大丈夫だと?」

「ああ、ハッキング対策は万全だ」


 天儀は事務仕事を再開しつついった。くだらないことでいちいち部屋にくるなといったふうで、俺のほうを見てすらいない。


 なお、昨今の宇宙戦争は三本柱でなりたっている。一つは、戦艦や空母などと分類される軍用宇宙船。もう一つは、人形で単座の戦闘機である二足機。そして最後の一つは、電子戦科がおこなう仮想空間での戦いだ。軍用宇宙船を足場に電子戦をおこない。二足機を自由につかって偵察、牽制や攻撃。最後には艦隊決戦。あくまで理想的流れだが、宇宙戦争とはこういったことをやるのだ。


 俺は、天儀総司令のハッキング対策は万全だという言葉に、すかさず、

「本当か火水風?」

 と火水風へ問いかけた。


「はい義成さん。ヌナニアの電子戦能力は、敵を上回ります。でもフライヤ・ベルク戦線は超大で、太陽系でいえば水星から火星までの範囲とい広範囲なのはやっぱりネックです。間違いなく、これまで人類が経験した規模の戦闘領域といっていいですね。従来の個々の艦と基地に頼ったサイバー空間セキュリティ戦略では、防御しきれないというのが電子戦司令局の結論でした……。えっと、これって、つまり既存の技術では解決不可能な問題だったはずですけどー?」

 

 俺は火水風の言葉を聞いてすぐに天儀総司令に迫った。


「ということですが天儀総司令?」

「なにがだ」

「仮想空間の専門家である電子戦科の火水風の見解では、フライヤ・ベルクで万全な電子防御網の構築するのは不可能といっています」

「いいじゃねーか。俺の写真ぐらい好きなだけ撮らせてやれよ!」


 しつこい俺に天儀総司令が業を煮やし投げやりにいったが、俺は一歩も引く気はない。


「ダメです。肖像権の侵害です。それに暗殺のための下準備だった場合由々しき事態です」


 俺の頑なな態度に、天儀総司令は苛ついたため息一つ。そして部屋に備え付けられたカメラへ向かって少し気取ったふうの決めポーズ。

 

 ――イラッ!

 と俺はした。この部屋のカメラは、いまも乗っ取られているかもしれない。それなのに天儀総司令は、謎のハッキング者へ向かって態々撮影してくれとばかりにポーズを撮ったのだ。もちろんこれは俺への挑発だ。

 むかっ腹がたった俺は、天儀総司令とカメラの間に入りじゃましてやった。


「どけ義成。俺が構わないんだから肖像権の侵害じゃない」

「ダメです。撮らせません!」

「はぁー! ド真面目面倒くさいなお前は!」

「脅しつけてもどきません。ことは総司令の命に関わる問題かもしれないんですよ」

「……義成お前は、つまりこの部屋のカメラが敵に乗っ取られていないとわかる根拠が欲しいんだな?」

「ええ、不明のアクセスの理由と、誰がやったか、かつそれが敵性行為ではないとわかれば素直に引き下がります」

「チッ……。わかったお前のためだけに電子戦科の責任者に聞いてやる。お前のためだけになッ」

「責任者とは、誰に聞くのですか?」

「そりゃあお前電子戦科で一番偉いやつだろ」

 

 ――はあ?

 と解せない俺の横で火水風が、え? という顔で青くなって、慌てて俺の袖を引いてきた。


「義成さんまずいですよ。止めてください!」

「なぜだ。いい考えだと俺は思う。この際だ。サイバー空間の責任者に問いただしてもらえば万事解決する」

「解決するって、ヌナニアの電子戦科の責任者が誰だかしってるんですか!」

 

 青くなっていう火水風の横では、俺と同じでいまいち火水風の慌てる理由がわからないといった感じの鬼美笑が発言した。

 

「えーっと、ヌナニア軍の電子戦科で一番偉いやつといえば電子戦司令局の司令局長よね。うへ、ヌナニアの軍三部の一角じゃない」


 ――軍三部。

 とは、ヌナニア星系軍で、軍の方針へ影響力のある三大組織のことだ。軍官房部、総参謀部、そして電子戦司令局。この三つの組織は、戦争をどう戦うか決められる組織といい換えてもいいだろう。その三つの組織のトップは、軍内で絶大な権力を持つ。


 苛つく天儀総司令は、自身で電子戦司令局のトップへ連絡を開始。

 それを見てますます青くなる火水風。

 なんか不味そうだわね、と表情を雲らせる鬼美笑。

 そして、いまいち事態を飲み込めず半信半疑の俺……。


「あぁどうしようぅ。出ないで出ないで。どうか不在でお願いします神様。司令局長は、めちゃくちゃ怖いんですからぁ」

 

 半泣きになっていう火水風。さすがの俺も、

 ――そんなにヤバイのか?!

 と若干ビビり始めたが、時既に遅しだ。事態は進行し、俺たちの右横に位置する壁の一部がスクリーンモードで起動。もちろん件の電子戦司令局のトップとの通信のためだ。そしてスクリーンが起動すると同時に映像が映し出されるスペースの左右に備え付けられた音響効果抜群そうなでかいスピーカーの電源も入った。これで映画なんて見たら最高だろう。さすがは総司令官室の美品は一級だ。

 天儀総司令が、座ったままで椅子をくるりと四分の一ほど回転させスクリーンの方へ向き。スクリーンに映像が映し出された瞬間。

 

『どきなさい――ッ!』

 とういう鋭い声が部屋に響いた。いや、とどろいていた。

 高級スピーカーからの大音量と、その剣幕に天儀総司令すら肩をすくめ。火水風なんて目をぎゅっとつぶって両手で耳をふさいでいる。俺も思わずビビって後退あとじさっていたのだった――。

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