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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
ここまで改稿済み
63/105

3-(36) ヌナニア軍の戦い・急・上

 国軍旗艦瑞鶴こくぐんきかんずいかくとヌナニア軍本隊の真上に現れた敵の大規模二足機集団。

 ヌナニア軍と天儀てんぎを刺すための紅飛竜の乾坤一擲の一撃だったが、そこにはすでに対処の部隊が置かれていた……。


 ことの始まりは、時間はさかのぼって――。

 李飛龍りひりゅうの艦隊が正面の敵を完全に押し、花ノ美(かのえ)とアバノアが総司令天儀の怒りを買う前の出来事だ。

 

「なに義成よしなり。敵が陣形内部で二足機の集結を開始しただと?」

「はい。天儀総司令。総司令部機動部隊サクシオンは、一時間以内に敵二足機集団からの攻撃をうける可能性があります」

「根拠となった情報は?」

「敵陣形内に深く侵入した偵察の報告と、あと電子戦科が敵の通信を解析したものがあります」

 

 そういって、俺は天儀総司令のコンソールへデータを転送した。それを見た天儀総司令はすぐに、

「敵旗艦の鉄扇羅刹てっせんらせつから各艦宛への通信か」

 と、俺の送ったデータの内容を口にした。


「はい。これになんらかの兵器に対する装備転換の指示と、集結位置の座標などが含まれたデータがありましたので」

「装備転換と集結となると、まずもって二足機への指示しかないな」

「はい。そういうことです」

「敵は二足機を直掩ちょくえんでの運用しか考えていなかったから、装備転換は対艦装備への変更だな。なるほど、いま、敵陣内で集結している敵二足機集団は俺達への攻撃ようか」

「だと思われます。どうされますか?」

 

 誰がどう見ても対処が必要だ。偵察の情報では集められている数は100規模。こちらも相応の二足機を集めて対処するのがベターだと思うが……。


「アクセルがまだいたな?」

「はい。あいつは捕虜護送の準備が整わず出発は延期。アクセルは巡洋艦大淀じゅんようかんおおよどで後方待機しています」

「よっし。あいつに対処させよう」

「いうことを聞きますかね?」

「あいつは暇で腐ってんだろ。そんなときに、ひと暴れできるんだ。やってくれるさ」

「……以前提出した俺の報告書はお読みいただけましたか?」

「アクセルについてのか?」

「はい。どうも、あいつは軍から肉体の調整をうけているようです。それもかなりレベルの高いやつです。あいつの精神が不安定なのもそのせいかもしれません」

「……バイオソルジャーか」

 

 バイオソルジャーとは、さまざまな肉体調整。つまりは肉体改造をうけた軍人のことだ。遺伝子改造から、義体化まで様々。負傷して手を失ったから義手にするのではなく、戦闘で有利なので手を切り落として小銃の仕込まれた強力な義手をつけるといったことがなされるので、世間では定期的に問題になっている。

 

 いや、星系軍は倫理をきわめて重んじる組織なので、軍内でも糾弾されることが多い。だが、科学者は研究を続けたく予算がほしい。そんな科学者とマッディな軍人が結びついて、この手の研究はやまないのだ。

 

 ――線引きが難しいのだ。

 

 過去に、失明を見えるようにする研究などは民間でも歓迎されるたし、有用な医薬品も4年に一度のペースで発表され、さすがは軍の有能な研究者、などともてはやされたりする。

 天儀総司令は、バイオソルジャーにどういう考えをもっているのか……。俺は、

「総司令は反対ですか?」

 とストレートに聞いていた。

 

「昔はそうだったが、いまは……」

「いまは?」

「目の前に存在するものを否定するのは愚かだ。自分の理解できないものを迫害していいわけじゃない」

 

 積極的な賛成ではないが、否定もできないといったところか、と俺は思った。これは微妙な問題だ。そもそも俺達がこうやって宇宙に長時間いても平気なのは、遺伝子改造がなされているからだ。やはりアウト・セーフの線引が難しい。そういえば、天儀総司令を信奉している国家親衛隊インペリアルもバイオソルジャーの一つだったな……。


「それよりお前の報告書には気になる研究機関の名前があった」

「ピット・アタナトイですか」

 

 天儀総司令がうなづいてから、

「アクセルを研究したやつの名前はわからんのか?」

 と、いった。


「すません。まだ……」

「そいつは間違いなく黒だ。見つけ次第断罪する」

 

 そういうと天儀総司令はマイクと手にとって、モニターの操作を開始。

 

 が、そこに、

「巡洋艦大淀からの通信です!」

 という通信兵の声。天儀総司令は通信を許可した。


『オーッス! こんばんはー、こんにちはー。アクセル・スレッドバーンだ。総司令官殿。艦隊上空に曇り空の注意報だぜ。こいつが、とんでもない豪雨をお見舞いしてくれて土砂崩れなんてこともありうる危険な雨雲だ』

「……ああ、アクセルお前も敵の動きを掴んだか」

『掴んだも何も。お前が、いま、モニターに表示している写真の一枚は、俺が放った偵察ドローンの撮影だぜぇ』

「わかった。つまりお前は、一時間後ぐらいにくるであろう敵二足機集団の迎撃がしたいんだな?」

『いいね。話が早いぜぇ』

「大淀は高い指揮管制機能と高い防空能力を有しているから適任だ。わかった許可しよう。迎撃の二足機部隊はこちらで用意する。そいつらもお前が指揮しろ」

『へー、すんなりご許可とはありがてえ』

「自薦は大歓迎さ。とくにお前のような優秀なやつからはな」

『ふん。自薦ついでにお願いだ。いま、俺の大淀の近くには防空護衛艦4隻が漂ってるがー』

「そいつをつかいたいのか?」

『ああ、貸してくれ』

「許可をしたいが、あれは無理だ」

『なんでだよ! 新鋭の防空駆逐艦だろつかわせろよ!』

「人員不足でクルーが乗っていない。お前が欲しがっている防空護衛艦4隻は、ほぼ無人だ。だから後方で待機させてあるんだよ」

『チッ……。いや、それは、それでつごうがいいのか? やっぱ貸してくれよ総司令殿』

「どうやってつかう気だ?」

『ヒ・ミ・ツだ』

 

 あまりに舐めた態度だ。さすがにこれには、いままで発言を自重し黙っていた俺も許せなかった。思わず俺は、

「おい、アクセル自重しろ!」

 と叫んだが、アクセルはわるびれない。


『お、義成か。47番ちゃんがイキってるねぇ』


「47番?」

 と天儀総司令が俺を見てきた。

 

「俺の星系軍士官学校時代の番号です。この数字に関しては、深くは問わないでください……」

 

 天儀総司令が、

 ――あ、察し

 という顔をしたぞ。くそ、そうだよ。黄金の二期生は47人! そのなかで俺は47番! 与えられる番号は成績順! つまりビリだ!

 

『いいから艦のライセンスをよこせよ。オレは、つかいてえんだ!』

 

 しびれを切らしたように叫ぶアクセル。天儀総司令は判断しかねるようすだ。

 俺は無茶を言うなと思った。

 

 なぜなら4隻には、操艦に必要な最低限の人数しか乗艦していないのだ。つまり砲手や機銃手といった戦闘用の装備を担当する人員などが皆無。戦闘員とよべるのは電子戦科が1,2名だけだろう。

 こんな艦をつかうとなると遠隔操作なり自動操作になるが、このような状態では仮想空間防御が極めて脆弱。敵の特殊電子戦部隊にピンポイントに攻撃をされると簡単に乗っ取られかねない。

 アクセルは遠隔操作でつかいたいようだが、これはこれで数名が乗艦しているのが逆にまずい。この状態で、遠隔操作での戦闘参加はおそらく規定違反。勝手に艦が動きだし戦闘を開始。どう考えても中の人間はたまったものではない。生きた人間を棺桶に詰め込んで船から海に放りだしてから、綱で引っ張って運ぶにひとしい行為だといえる。

 

「大淀には余剰の乗員はいません。大淀から乗員を割いても4艦の内一隻だって動かせません」

 と俺は、許可を与えるか悩む天儀総司令に助言したが……。

 

「アクセル一つ約束だ」

『ああ?』

「4艦に乗っている乗員を絶対に大淀に移せよ」

「……わかったぜ」


 このやり取りを横で聞いていた俺は驚天動地だ。

「実質無人の艦の使用許可なんてダメです! 敵に乗っ取られたら責任問題ですよ!」

 と、すぐさま天儀総司令に考えを変えるように迫った。少人数が乗っていても問題だが、無人も大問題だ。コントロールを乗っ取られるリスクが大きすぎる。間違いなく査問委員会なりで問題にされる。


『うっせぞ! 義成聞こえてんぞ! 余計なこと吹き込むな!』

「アクセル。お前こそ自重しろ!」


 吠える俺の肩にポンっと手が置かれた。天儀総司令だ。俺は天儀総司令に、もういいからさがれ、とうながされ渋々黙り込んだ。


『絶対にコントロールは奪われねえからさぁ。いいだろぉ』

「それはいいんだ。お前がつかうといった以上は面白くつかうだろう。だが、使い方によっては問題になりかねん。遠隔操作で戦闘させた艦に、数名が実質監禁状態だったと野党の代議士にバレたら、政府が議会で糾弾されることもありうるからな」

『あぁ!? 野党が怖くて戦争なんてやってのんのかテメエは!』

「……体当たりとかさせるなよ? 新品だし、戦力の無駄遣いはできん」

『心配性だぁ。だが、安心しろって普通につかう。きっと完品で返してやるさ』


 俺は、無人、遠隔操作の時点で普通じゃないと苦く思ったが、もうこれ以上なにをいっても無駄そう。それに天儀総司令には、なにか考えがあるとも思った。


「まあ、擦ったぐらいは不問にする」

『おやさしいこって。じゃあ早く送ってくれ』

「まあ、慌てるな。いま、パスを発行している」

 

 そして数十秒後、発行された使用許可と4隻のライセンスを受け取ったアクセルは大はしゃぎで、

『よっしゃ。ライセンス、ゲット! 二割ぐらいの確率で無傷だ。祈ってな』

 といって一方的に通信を切ったのだった。


「あいつめ……。くそ、俺が査問委員会で新品新鋭の防空護衛艦を浪費したと糾弾されたらどうすんだ……」

「だからアクセルをつかうのはよしたほうがいいと助言したんです」

「だが、適任だ。お前の報告書にあったことが事実ならな」


「……超IoA能力に、同時にいくつものことを思考可能な人工的に作られたマルチタスクな脳。人工的に作られた軍人。人として最も軍人進化した新人類。ここまでバイオソルジャーの調整ともなると、もはや人体実験。アヘッドセブン序列一位のアクセルに箔をつけるためのプロパガンダ(物語)で事実とは思えませんが」

(*IoA=インターネット・オブ・アビリティ:人間の能力がネット接続された機器)


「でも、あいつには不思議な能力があるんだろ? 義成お前はそれを以前体験したらしいじゃないか」

 

 天儀総司令にいわれて俺は思いだした。星系軍士官学校卒業以来の再会。瑞鶴での通路の出来事。あのとき、あいつは艦メインコントロールに侵入して、限定的な範囲とはいえ艦内の重力を操作しているように見えたが、そもそもそんな事が可能なのか? アクセルの能力はもっと別なものかもしれないな、と俺は思ったのだ。


「自分の調べではピット・アタナトイが、生体演算装置サイコ・プロフェッサの研究をしていたところまでは突き止めました。生体演算装置サイコ・プロフェッサとは、フィクションの産物。いわば空想科学ですが、FS作品では超高度な演算処理能力による実体化力があるとされていますね。実体化力とは、数式を現実の物理的力ベクトルに転化する力です」

「……それは頭の中の計算式が、生体演算装置サイコ・プロフェッサを介することで、空間に物理的な力として発現するということか?」

「えっと、すみません。解説できるほどの科学的な知識は自分にはありません」


 天儀総司令が、一瞬、眉間にシワをよせてから沈黙した。

 ――倫理的な問題でアクセルの起用を迷っているのか?

 と俺は感じた。とはいっても天儀総司令が問題に感じているであろう点は、アクセルの酷虐こくぎゃくな人間性じゃない。アクセルの周囲を取り巻く非人間的な環境をよしとしていない。そう感じた。一応、いまならアクセルへの指示を撤回できる。だから迷っているのだろう。


「……二足機の対艦攻撃ルートは多種多様だ。サクシオン航空艦隊に大半の二足機を割いてしまっているので俺の手持ちで、この敵の襲来への対応に参加できる二足機は限られている」

「限られた戦力を効率よくつかう必要があるというわけですね」

「そうだ。アクセルの頭の回転が恐ろしいほど早いのは事実で、この任務に最適だ。あいつは間違いなく司令官向きの思考回路をしているしな」


 結局、天儀はアクセルを起用することに決めた。

 なお、ヌナニア側では、この敵二足機集団を〝紅竜航空隊こうりゅうこうくうたい〟と名付けられた。天儀が偶然目にした映像の敵機が赤かったのだ。加えて紅飛竜から〝飛〟を抜いたという陰険さもある。

 ――あんな奴に翔ぶが如く、という意味の〝飛〟は不要だ。

 という天儀の敵への冷えた感情が、表にもたげたのが紅竜航空隊という名称だった。

 

 そして時間は経過。いま、紅飛竜が放った二足機部隊は、天儀麾下の左翼集団を捉えていた。

 ヌナニア軍の陣地でも大規模な航空戦が開始されたのだ。


『襲来の敵機数は114機と断定!』

 という偵察機からの報告をアクセルは、大淀の指揮座でうけた。痩身のこの男が、足を組みゆったりと座する姿は傲慢不遜ごうまんふそんそのもの。だが、しっかりとシートベルトで座席に体を固定している姿は憎めない。


 アクセルの左右には国家親衛隊インペリアルが2人。無表情で立っている。

 前の戦いでアクセルが一人だけ負傷したためだ。

 ――若大将は、なにもないところで転んでお怪我するたちらしい。

 ということで、国家親衛隊インペリアルは、転んで怪我しても俺たちの責任と2人を配置したのだ。アクセルはうんざりしたが、好きにさせておいた。きっちり体を座席に固定していても不測の事態はありうる。IoA能力を駆使し深く艦とつながるとやはり、自分の肉体のほうが疎かになる。


 そう。アクセルはここでもIoA能力による自身の脳と指揮管制システムとの接続をおこなっていた。二足機150機と大淀および防空護衛艦4隻は、文字通りアクセルの直接指揮下だ。アクセルの意思が、この戦力の進退として具現化する。

 

 なお、紅竜航空隊120で出撃したが、機体の不調などで6機がすでに母艦に戻り脱落。ゆえに114機だ。


「はーん114ねぇ。かき集めてそれだけって少なくねーか。こっちの150のほうが多いじゃねーか。ま、油断はできないんだけどな。二足機戦は水物。数で優位な側が押されることもあるから困るぜ」


 座するアクセルの目には、いま、ブリッジの風景と整然と隊列組んで進んでくる敵機の群れが重なって見えている。カメラから映像データを脳の後頭葉に流しているのだ。つまり正確には〝目に見える〟というのはおかしいのだが、いま、アクセルが脳で認識しているのは二つの風景が重なったものだ。


「へッ。今回は、前回みたいに各種システムに全部直接入力なんてとろい真似はほとんどないぜ」


 そう。いかに脳と機械を直接つなぐIoA能力といっても俺が考えたことが即そのまま機械の動きとして反映されるわけじゃねえ。高度な電子機器になればなるほどな。

 

 動かすには、一つ一つ入力作業が必要。例えるならデスクトップのスタートメをクリックして、すべてのプログラムを展開。そして、そのなかから必要なソフトを機動して、そのソフトを操作するってわけだ。ハイテク上で、うんざりするほどのアナログ作業だ。

 

 だが、今回は敵がくるまでに十分時間があったからな。想定される自体に応じての2564通りのプログラムを組んでおいた。これだけで万事あらゆることに対応可能ってわけじゃねーが、俺が一つ一つ入力するような作業は大幅に減らされるって寸法だ。

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