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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
ここまで改稿済み
59/105

3-(32) 総司令は執念深く狡猾だった

「私を呼ぶときは鉄腕つけろっていってるでしょ」

「そっちこそ俺を呼ぶときはトップガンって呼ばいないくせに」

「いい、スモウボーイ。私とあなたじゃ撃墜数は、私のほうが上の上の上なんだけど?」

「はー。そりゃあ素晴らしい。俺のほうがラム(体当たり)での単独撃墜数上ですけどね!」

「ラムなんて変態二足機のオイ式以外できないじゃない。そのスコア無効よ。意味のない記録よ」

「ところがどっこい公式記録。軍の広報にもバッチリ載ってるんで残念でしたー!」

「あーら、スモウボーイ。有名無実の記録でイキってダサいわよ。だいたい体当たりなんて追突事故じゃない。事故って無事だったのを撃破ってどうなのかしら」

「戦場では最後まで立っていたほうが勝者。やれやれ、レティさんはこんなこともしらないのか」

「なんですって!」

「そのとおりじゃないですか!」


 国軍旗艦こくぐんきかんの総司令官室で、パイロットスーツの二人による大論争。いや、ガキの喧嘩に俺、参月義成みかづきよしなりと、俺の左右にいる花ノ美(かのえ)とアバノアは唖然としていた。

 言い争う一人は、抜群のプロポーションで翠眼すいがんのブロンドの美人。そして、もう一人はアジア系の爽やか男子風といった容姿だ。ブロンド美人からスモウボーイなんてよばれてるが、けして太ってはいない。むしろパイロットらしい精悍な体つきだ。


 俺の右側に立つ花ノ美(かのえ)が状況を見かねて、

 ――ちょっと義成とめなさいよ。天儀てんぎ総司令が困ってるわよ。

 と肘でつついていってきたが、不詳、参月義成。この状況に割って入るのは自殺行為だと確信できるぞ。お二人共それぐらいで……、なんて口にしつつ仲裁に入ってみろ。その瞬間に、部外者はすっこんでろ、と絶対に二人から同時にパンチが飛んでくる。

 

 だが、左側にいるアバノアまで、

 ――ほら、自爆は義成ぃの特技。早くやれですの。

 と、小声でけしかけてくる。

 いま、俺の両脇からは理不尽なプレッシャーだけ。女子二人に挟まれているのにまったく喜びがない……。

 そして、ついに天儀総司令がため息一つ。


「二人共……」

 と、やっと口を開いた。俺たち三人はホッとした。この場で唯一激しく言い合っている2人をとめられるのはこの人しかいない。

 だが、当の二人ときたら……。


天儀総司令ロード聞いてください!」

義兄にいさん聞いてくだい!」

 

 そう同時にいって、天儀総司令はしかめっ面。二人から大量のつばの雨が、顔面に降りそそいだからだ。

 

 これには辛抱していた天儀総司令もたまらなかったらしく、

「うるせえ!」

 と一喝。そりゃあそうだ。いままで、天儀総司令は、このくだらない大論争(ガキの喧嘩)は、いつ終わるのかと耐えていたんだからな。そして、天儀総司令の一喝で、とたん二人は停止。だが、悪びれたふうもない。ただ黙っただけだった。


「義成。そして花ノ美、アバノアに紹介しよう。二人は――」

 

 いいかけた天儀総司令が言葉をとめた。花ノ美が一歩進みでたからだ。


「存じています。お二人はエースパイロット。いえ、飛び抜けた撃墜スコア的には撃墜王といったほうが相応しいですね。で、こちらの美人さんは鉄腕レティことレティーツィア・ベッカート大佐。近衛連隊ロイヤルガードの隊長。愛機はボーイング社の傑作機。金縁のタイフーン・ヘルで機体の愛称はスカイ・グリプスです」


 花ノ美に紹介されたブロンド美人あらため鉄腕レティが、その絹のような金髪をかきあげた。ふわりと浮いて流れるブロンドは見ているだけでかぐわしい。

 

「そして、こちらの男性はトップガンと名高い林氷進介りんぴょうしんすけ隊長。率いるのは超重二足機を集中運用する隼人隊です」

 

 紹介された男は、

「どーも愛機は暗いレッドのカラーリングの赤熊しゃぐまです」

 と敬礼した。

 

 俺たち三人も敬礼した。なにせこの二人は前の戦争の英雄。とくに鉄腕レティのほうは軍の広報だけでなく、民間人の間でも有名だ。片腕の戦乙女。その美貌を引き立てるようなメタリックな義手。絵に描いたような典型的なヒーローだ。

 

 二足機とよばれる人形マルチロール戦闘機は、ロボット兵器なんてよばれることもあるが、その源泉はパワードスーツで、それに戦車と戦闘機の技術を組み合わせて開発された。

 

 軍で、もっとも華々しくもっとも戦果がわかりやすいのが二足機部隊。物事は見た目が一番。ミリタリーものの漫画やアニメでは、この二足機をテーマにしたものが多い。

 

 そして、世間でもてはやされるだけに、二足機乗りは能力抜群だが、とてもわがままなものが多い。二人をみればご覧とおりで納得だろう……。

 

「しかし、知りませんでした。あの有名な林氷隊長は、天儀総司令の弟さんだったんですね」

 

 社交的な花ノ美が、さっそく林氷隊長に話しかけていた。俺にはわかるぞ。これは場を和ませようとか、交流を深めて今後の戦いの連携をよくしようとかいうそれじゃない。花ノ美は、二足機にはっきりいって興味がない。この女の脳は大艦巨砲主義。宇宙戦争はスペースバトルシップの口径で決まると考えているフシがある。そう。花ノ美が林氷隊長に興味を持ったのは、彼が天儀総司令をよぶときに、

 ――兄さん。

 と、よんだからだ。俺のしるかぎり天儀総司令と林氷進介の血縁関係にはないはずだが、花ノ美は、天儀総司令のご兄弟にいい印象をあたいとばかりに、すり寄ったんだろう。

 

 花ノ美に話しかけられた林氷隊長は頭を掻きながら、

「ええ、まあね」

 とまんざらでもなさそうに応じたが、すかさずそこに天儀総司令からの訂正が入った。


「違うぞ花ノ美少佐。義兄弟だ。血縁もなければ、法的根拠もない。熱い友情からの兄弟だ」

「うそ。あの義兄弟? ヒゲモジャ三人がフルーツパーク(桃園)で誓い合うような方のですか?」

「ああ、そっちの義兄弟だ。な、義弟おとうとよ!」

「ふん。義兄さんには、いずれは姉ちゃんと結婚してもらって、俺とは法的な兄弟になってもらいますけどね」


 二人の関係をしった花ノ美ときたら、

 ――あーそうだったんですかー。

 なんて取り繕った笑い顔してるが、俺にはわかるぞ。お前いま引いてるだろ。義兄弟なんて時代劇かよって具合にな。俺も引いてる。いまどきこの人達は変だ。


「進介またその話か。お前は俺と会うと、姉の婚活の話か兵器の話しかせんな」

「姉ちゃんは、開戦前にまーた婚活で失敗こいてました。だからもう義兄さんにもらってもらうしかないんです。だいたいですよ。義兄さんが――」

 

 林氷隊長が天儀総司令に詰め寄るなか、花ノ美は花ノ美でアバノアへ耳打ちを開始。

 

「ねえアバノア。私が、その仮によ? 仮に天儀総司令といい関係になったら、あの変な隊長とも兄妹になっちゃわけ? 私いやなんだけど……」

「いえ、花ノ美お姉さま。その場合でも、あの変な隊長とは赤の他人。いえ、天儀総司令も赤の他人。なぜならお姉さまは、わたくしと――」


 なんだこれは。総司令部機動部隊サクシオンの高官が集まって、開始されたのは作戦の事前調整ではなく茶番。俺は傍観者の立場だけにあきれるしかない。

 

 ここで、

「ちょーっと!」

 という声とともにダーン! という音。鉄腕レティことベッカート大佐が机を叩いたのだ。一同は静まり返りベッカート大佐に注目した。ベッカート大佐は集まった視線を相手に、

天儀総司令ロードは、大事な用事があって私達をここへ集めた。違うの?」

 と俺達をギロリとひと睨み。

 天儀総司令が咳払いしてから、やっと本題が開始されたのだった。


「俺と飛龍の本隊で敵の本隊を正面から交戦する。小細工すると不利な状態で開戦となる敵が早々に戦いを放棄しかねんからな。真っ向勝負する」

「ように見せかけるですね? 義兄さんはズルイから」

「いや、見せかけじゃない戦う。飛龍が押すといっていたので、やるだろう。戦闘は有利に展開するが、これだけでは後退する敵の大半を取り逃がすリスクがある」

「なるほど。じゃあつまり義兄さんはどうしたいんです? 鉄腕と俺の二足機部隊で後退する敵を叩けってわけじゃないですよね」

「俺はサクシオンの航空戦力だけで、敵の右側に側面陣地を形成したいと考えている。つまり、進介とレティの二人にはサクシオンの航空兵力を以て臨時の航空艦隊を形成して欲しいわけだ」

 

 天儀総司令が自分の考えの核心部を述べていた。そして、

 ――できるか?

 というように林氷隊長とベッカート大佐を交互に見てから言葉を継いだ。


「つまり天儀総司令ロードの計画は、母艦の支援ほぼなしで二足機部隊だけで独立して戦闘しろというオーダーですね」

「そうだ」

「俺もわかったぞ。計画は艦隊から離れて二足機群だけで艦隊規模の戦力の形成だ。これは実行可能な計画なのかと、義兄さんは懸念している。宇宙会戦で二足機だけで側面陣地形成なんて前代未聞だからね」


「それも、そうなんだが――」

 と天儀総司令が懸念の色をだしたので二足機のエース二人は不思議顔だ。

 

「いまのやりとりに、なにか問題あったかしらトップガン?」

「いや、なにもないでしょ鉄腕レティ。問題は戦場でしか起きない。それを俺達二足機隊は、うまく処理するだけだ」

「君ら二人には問題ないが、後ろの新米三人が理解してない」

「え? ヌナニア星系軍士官学校。優秀なんでしょ。アヘッドなんたらで、いいなー。俺なんかより出世して、基地とか製造ラインとか自由に見られるだろうなー」

 

 俺はこの一言で理解した。林氷隊長は兵器オタクだ。しかもかなり面倒くさいタプの。


「女の子二人は、アヘッドセブンの3位と4位。あとそこの子は天儀総司令ロードの特別な側近。いまの聞いていてわからないわけ? いまのヌナニア新兵ってレベル低いんじゃないの。そんなのでサクシオンにいて大丈夫なわけ。意識が低いんじゃないかしら?」

「二人とも新兵相手に意地悪するな。最初は誰だってわからん。二人だってそうだったろ。生まれ落ちたときから撃墜王だったのか。お前らは仏かキリストか。違うだろ」

 

 天儀総司令のたしなめに、二人が表情を苦くして黙り込んだ。

 

「いい、俺が説明してやる」


「え、天儀総司令は二足機のことが、わかるんですか?」

 と俺は驚いて思わず口走っていた。艦長ともなるものは、全て兵器の運用に精通しているというのは建前で、やっぱりしらないことは多いからだ。もちろん全部を知る努力はするが、やはりその道の専門家にはかなわない。

 

 それに覚える知識は莫大で、広く浅くになりがち。ただ全部をしろうとする努力をし続けるのは間違いないので、総司令官の立場ともなれば、かなりの兵器に精通しているだろうが、ここには二足機のプロ中のプロがいるわけで、その二人を差し置いて説明できる知識が天儀総司令にあるはずがないのだ。

 

 だが、驚く俺に天儀総司令はあっさりと、

「わかるだろ。乗ってたからな」

 といってきた。この発言に驚いたのは、俺たち三人だけじゃない。


「そうだんったんですか。なるほど天儀総司令ロードは二足機にお詳しいわけです。もう、いってくだされば一緒に飛びたかったのにぃ!」

「そりゃあ義弟の俺も初耳です」

 

 林氷隊長もベッカート大佐も驚いてた。


「ああ、これ草刈くさかりにしか話してないか」

「草刈!!! キッー!」

「あー、草刈さんは特別だからなぁー……」

「二人共うるさい。全然話が進まん。いいか義成、そして花ノ美、アバノア。説明するぞ」

 

 俺たち三人は、ハイ、と切れよく返事だ。


「二足機は外洋宇宙での単独航行は想定されていない。その行動にはつねに母艦からのオペ-レーションやスポッターなどの支援が必要だ。ざっくりいうと小さな人形戦闘機は、視野も狭く、燃料も少ないし、食料だってほとんど積み込めないので母艦にすぐ戻れることが前提の範囲での行動となっている。母艦からかなり離れて戦うには、入念な準備と極めて高い技能が必要ってわけだ」

「でも、今回の天儀総司令の計画は、それほど本隊から離れて戦うようなイレギュラーな計画には思えません。母艦から、もっと遠くに飛んでいく任務もありますよね?」

「良い質問だ花ノ美大佐。だが、会戦で艦載機だけで独立した戦力を形成するのはやはり異例だ。普段の二足機が会戦やら艦隊決戦やらで、やっていることは、あくまで軍用宇宙戦の補助であり、攻撃も母艦の支援有りきだ」

「……なるほど確かにそうです」

 

 花ノ美が納得し、アバノアも納得している。俺は……。よくわからない。とにかく天儀総司令は、敵艦隊をサクシオンで正面から攻撃し、敵の側面を二足機部隊だけで攻撃する。これは前例がなく、少し難しい。これだけはわかった。

 

 そして花ノ美の反応を見た天儀総司令は、

「二人共できるか?」

 と林氷隊長とベッカート大佐にあらためて確認していた。


「いけますね。いまのオイ式は五型。五式重なんて呼ばれて、相変わらずの堅牢さ。普通の二足機とちがって質量もあるし、装備する火力も小型艦並。陣地を形成できるでしょう。ようは俺たち隼人隊って、鉄腕レティの連隊のバックアップをすればいいですよね?」


 清々しくすらいった林氷隊長に俺は驚いた。だって、この人は部屋に入ってくるときは、あれだけライバル心むきだしで、ベッカート大佐と言い争っていたのに、戦いとなるとあっさり自分を殺せている。

 

 チームのために自分を犠牲できるのは軍隊でなくとも異能だ。犠牲ってのは、もちろん死ぬことじゃない。全体の利益を考えて、自分を抑えられるってことだ。普通は自分が目立ちたいし、目立てないと損だと思う。どうしても人はこの感情を抑えられない。

 

 だが、この人は違う。さすがは天儀総司令と兄さん弟よと呼び合う仲だ。ただの兵器オタクの変人じゃない。この人は天儀総司令が、最も信頼する人かもしれない、と俺は感じた。

 

近衛連隊ロイヤルガードは、天儀総司令ロードの計画に賛同します。私たちが日々の艱難辛苦を耐え抜いたのは、この作戦のためだと心得ています!」


 林氷隊長につづき、ベッカート大佐も賛成。

 

 ――そりゃあそうだ。

 と俺は思った。なぜならこの作戦は近衛連隊ロイヤルガードが一番よく目立つ位置でつかわれる。敵を側面から襲う大規模航空隊の攻撃の要は、間違いなく鉄腕レティ率いる近衛連隊ロイヤルガードだ。天儀総司令は、鉄腕レティのあつかいを十分に心得ている。

 

 戦いの方針は巨大な艦隊のなかの一室でほぼ決定された。

 ――天儀総司令は自分に賛同するものだけを呼びつけたな。

 と義成は冷静に分析していた。君は特別だと、呼びだして、手を握ってねんごろに労って、天儀総司令がやったことは密儀。

 

 サクシオンで主力を成す皇道派こうとうはは、たくみに部隊の意思決定から排除された。保守的な彼らは、二足機部隊だけでの側面陣地形成に強固に反対したろう。それにこの作戦は、敵を側面から痛撃する二足機部隊が大手柄を断てる可能性が高い。皇道派こうとうはは欲張りで、それを許さない。

 

 このときのヌナニア軍の作戦は、ある意味談合で決まったといえる。国民軍の総司令官である天儀は独裁的だった。

 

 総司令部機動部隊サクシオンと紅飛龍の艦隊の距離は縮まり、トートゥゾネ宙域の運命を決する戦いは目の前に迫っていた。

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