3-(31) 決戦を控えて
「これは、これは勝利の女神のお二人のご登場だ」
わたくしと花ノ美お姉さまが、義成にいざなわれるように総司令官室へ入ると、出迎えてくれたのは目のさめるような貴公子。いまの軍服に古代の冠。冠の長い鳥の尾羽根が優美に揺れて、このアンバランスがにくいほど似合う美男子。
「あッ、李飛龍将軍!」
と、わたくしもお姉さまもすぐさま敬礼。
「花ノ美少佐はすごいですね。僕が1個艦隊をボロボロにして、やっと天儀総司令に褒められたのに、あなたはたった8隻で僕より褒めちぎられてますよ」
「あ、はいー。ありがとうございます。でも、怒られちゃうかもー。アハハー」
「え、そうなんですかアバノア少佐?」
そういって李飛龍が、わたくしを見てきたので、わたくしなんといっていいやら。
「ええ、まあ、その護衛艦2隻をゴニョゴニョー」
「ゴニョゴニョ?」
「ええ、ゴニョゴニョですの……」
李飛龍は、なんのことやらというお顔。こんな何気ない仕草が絵になって、花ノ美お姉さまの一筋のわたくしも思わず視線が釘付けになってしまうような有様。
そこに天儀総司令の、
「大方、二人は義成に脅されたんだよ。お前ら護衛艦2隻失って天儀総司令がカンカンだぞって感じでな。あのな義成それは問題ないといったろ」
というお言葉。わたくし思わず天儀総司令の顔を覗き込むように見て、
「あれ、ご立腹ではない?」
といってしまいましたの。
「ないな。ただ報告をしろ。いいことも、悪いこともだ。そして俺は、いま、二人からの報告を望む。良い報告だと期待しているぞ」
わたくしも、お姉さまもホッと一安心。すぐに挨拶して報告を開始。そして終わると天儀総司令からストライダー部隊の解散を命じられましたの。
「二人共よくやった。お前たちのお膳立ては、最高のものとなる可能性が高い」
天儀総司令に声をかけられホクホクのお姉さまのが、
「どういうことでしょうか? 」
と疑問顔。わたくしも、いま、自分たちが有利と理解しはいても勝ちを確信しているような天儀総司令の素振りまでは理解できなく、お姉さまと同様に、なぜ? という顔。
そんなわたくしたちを見て、回答をくれたのは貴公子の李飛龍。
「敵本隊からすれば戦艦を16隻もズタボロにされた上、敗北して逃げてくる戦艦6隻を収容したかと思ったら僕たちの総司令部機動部隊があらわれるということですよ花ノ美少佐」
「あー……あ?」
「花ノ美わからないって顔してるな。だが、飛龍のいうとおりだ。紅飛竜が戦闘準備のできていないところに、俺たちはなだれ込むわけだ。理想的にいけばの話だがな」
「いえ、わかりました。天儀総司令は、私達ストライダー部隊を追ってきた戦艦16隻を敵の強力な先遣隊と定義して、それを打ち負かした勢いで敵の本隊へ突っ込む。これで勝てる、ということですね?」
「そうだ。そして成功する公算はかなり高い。二人のおかげでな。いまから布陣しても遅えぞー。戦艦16隻は間違いなく敵の虎の子。中核の戦力だ。紅飛竜の艦隊には空母が少ないからな。太聖の隻眼女が戦艦の砲撃力で勝負を決する計画だったのは間違いない」
「紅飛竜は隻眼なんですか?」
「ああ、それもとびきりの格好いい麗人らしいぞ。部下たちからの忠誠心も厚いとのことだ。本隊戦で俺たちは優位を確保できる可能性が高いが、油断はできん。敵は頑強に抵抗してくるだろう」
「紅飛竜の人なりのデータ?! すごいです。太聖側の軍人の個人的なデータは情報部で、いま、必死にかき集めている状態だと聞いています」
「そこの男がびっくりするほど優秀でな」
そういって天儀総司令が、あごでしゃくったさきには義成。
――情報収集に優秀?
と、わたくしもお姉さまも疑念顔。星系軍士官学校時代の義成に、情報戦のスキルはなかったはずですの。
「義成、アンタって情報収集得意なの?」
「……情報戦など軍人のたしなみだ。俺は司令官になりたい」
「だそうだ。戦功をたてた二人から、義成はどう見える。彼は司令官に向いているかな?」
総司令天儀の問に室内には微妙な空気が流れた。本人の目の前で、本人の評価をしろという要求は、評価される側、する側の両方にとってむごい要求だ。しかも、
――義成は向いてないと思いますの~。
わたくしから見ても、おそらくお姉さまのから見ても答えはノン。義成は不向き。この男、一々細々としたことで悩みすぎ。シミュレーション演習でも問題に対しての決断も遅かったですの。優秀ならまだしも、本人の前でダメなのをいうのはちょっとねぇ。けれど花ノ美お姉さまは、ストレートには答えませんでした。
「……義成は人の相性を見る目があります。誰と誰を組ませるといい成果がでるということを考えるのは優れています」
「それ以外はダメか?」
「お答えしかねます。同期生ですから」
「悪くいえんか。おい、義成、お前結構好かれてるじゃないか。お前は星系軍士官学校で周囲からイビられてたなんて悲観してるが、アヘッドセブンが仲間だって認めてくれてるぞ」
だが、義成は総司令天儀からそういうわれても、
「なんとも、お答えしかねます。自分は努力するだけです」
と感情を押し殺した態度で応じただけだった。対して総司令天儀は、
「ハハ、お前ら仲良くしろよ」
と、いうと迫っている本隊戦の自らの計画を明かしだした。
「次の戦いは大規模会戦となるだろう。素早く接敵し、撃破する。我々サクシオンの艦隊は一つにまとまって突っ込むが、指揮系統は二つに分ける。俺が一つを、もう片方を飛龍お前だ」
「はい。旧グランダ勢をつかえばいいんですね?」
「そうだ。俺は皇道派の連中から人気無いからな。やつらはお前のいうことならきく」
「どうでしょうか。気難しいオールド(古参兵)が多いですからね」
「俺の麾下が前進する前に、お前の麾下で正面の敵を押して欲しい。そうすれ理想的に戦いを進められる。飛龍よ。押すのに、どれぐらいかかる?」
「はい――……」
と応じる李飛龍に、とたんに室内の空気が緊迫したわ。主に私とアバノアと義成のせいで。私達三人は固唾を呑んで李飛龍の応じ方に注目した。だって天儀総司令の質問はすごい。勝つ前提だし、それでいて油断しているわけでもないというのがよくわかる。李飛龍をよほど信頼しているし、優秀さを疑っていないのね……。花ノ美・タイガーベル。私もこれぐらいになりたい。
そもそも――。
どれぐらいで敵を押せるかなんてわかるものなの? だってこの質問って、つまり何分で敵を撃破できる? なんていうような性急さがある質問よ。
私達が注目するなか李飛龍が静かに答えた。
「30分ですね」
「本当か? 俺なら45分はかかるぞ。30分は早すぎだろ」
「いえ、30分です」
「だから30分は短すぎだろ。訂正しろ。可愛い女子二人を前に良い格好したいんじゃないのか」
「それでも30分です」
「……わかった。では、30分で俺の方も計画を進める」
「はい。ご武運を祈ります。これで話は終わりですよね?」
「ああ、頼むぞ」
「はい――」
と、いって部屋を去っていく李飛龍は絵になりすぎていた。まるで時代劇や戦争映画の英雄が現実に現れたかのような優美さ。私達三人の目にはふわりと揺れる冠の飾り羽がやっぱり印象的だった。
私達三人は、この同年代の星系軍士官学校にすらいなかった男相手に、ライバル心すらもたげず。ただ呆けたように見送っただけだった。
天儀総司令は、李飛龍将軍が退出すると、
「やつめ20分で敵の最前列を撃破してくるな。あれでいて慎重なやつだ。絶対に余裕を加えて答えたぞ。この戦いは速度が重要だ。敵に粘るタイミングを与えないで戦えば勝てる」
そうポツリといったので私達三人は、
「「「20分!?」」」
と同時に驚いちゃった。義成とまで声がハモってキモかったけど、それぐらい驚いたの。だって20分って戦列作って一度射撃するだけで終わってしまいそうな時間じゃない……。
「花ノ美とアバノアは、俺の麾下で艦長として戦ってもらう」
「あのー艦は? どの艦を指揮すればいいんでしょうかー」
「なんだ花ノ美少佐には、望みの艦でもあるのか」
「はい。アハハー。厚かましいですよねー。すみませんでもー……。私たちが実力をだしきれば天儀総司令にもご有用かとー」
「いい、問題ない。望むのは死線をともにした部下のいる戦艦リシュリューだな?」
「はい!」
「アバノアにはフロンサックを与える。これでいいな?」
「あらー、いたれりつくせりですのー。また大戦果をあげてしまいそうで。わたくし自分が怖い!」
花ノ美とアバノアが嬉々とするなか俺、義成は、
「いいんですか? 二つの艦は最新鋭です。会戦でこの2隻を望むお歴々は多いと思いますが」
と懸念を口にした。俺は、二人からは余計なことを、というように睨まれ、針のむしろだが、これは重要だ。新米に最新鋭の戦艦はえこひいきと思われかねない。軍高官の間で、天儀総司令の立場が悪くなるし、組織内に軋轢が生まれると困る。
「義成お前の懸念はわかる。今度は本格的な宇宙会戦だ。小競り合いじゃない。最新鋭の戦艦は本来ならば歴戦で年配の将軍に与えるべきだろう。だが、今回は大丈夫だ。彼女たち二人は、その歴戦で年配の将軍どもが想像できないような大戦功をあげた。誰も文句はいえんよ。最高の舞台で最新鋭で戦える権利は、彼女たちが勝ち取った権利だ」
「軍は実力主義か……」
と義成が納得するなか。私、花ノ美は、あ――、と納得した。天儀総司令は、本隊戦で私とアバノアに最新鋭の戦艦で戦ってもらうために、追撃に戦に参加させなかったのだと。これでリシュリューとフロンサックは十分整備できるし、追撃戦という美味しいところを我慢した私達が、一番輝かしい舞台の本隊戦で一級の戦力を与えられても妬まれにくい。
私は思わず、
「ありがとうございます!」
と熱っぽく口走ってしまっていた。
「で、天儀総司令。自分は?」
「義成お前は決まってんだろ」
「どの戦艦ですか。あ、失礼。どの巡洋艦ですか、いえ、駆逐艦ですか!」
「おいおい、お前どんどん小さい戦力にスライドしてるじゃないか。そんな自信のないやつは指揮官にできんぞ。戦闘で迷いまくるのが目に見えてる」
と笑う天儀総司令に、俺は必死だ。士官学校の同期の花ノ美とアバノアはかなりの結果をだしている。アクセルもそうだ。俺は、まだ戦えてすらいない。
「義成お前は俺の秘書官だよ。戦闘記録とか取ってくれ。さきの廉武忠との戦いで瑞鶴の主計部が全員転任願いだしてきやがった。まさか国軍旗艦が、空母が、最前線で砲戦するなんて思わなかったって泣きながら懇願されたぜ。殺意が湧いたが即断の銃殺刑は我慢したぞ。ここはヌナニア軍だからな」
「お怒りはごもっともです。戦闘が怖くて転任願いだなんて、なんて惰弱、なんて不誠実な! 軍法会議ものですよそれは。瑞鶴で再教育の訓練をしてやって性根を叩き直すべきです」
「いや、やる気がないってやつに最前線にいられても困る。だから全員解任してやったぜ」
「え、ファイアードってつまり首ですよね? 本当に主計部全員を首になさったんですか!?」
「おう。軍人辞めれば戦わずにすむって純な理屈だ。無職だが死なずにすむぞ。死ぬよりは無職のほうがマシだろ。ガキでもわかる理屈だ」
「信じられない。そんなあっさり開放するような真似をしてしまうだなんて困るでしょ。それに主計は数字のスペシャリストです。彼らがいないと兵站が成り立たない。地上以上に宇宙戦争はロジスティック(兵站学)ですよ……」
「ああ、困ってる」
「やっぱり……。なら再教育して代わりが見つかるまで瑞鶴で働いてもらうべきだったともいますが、怒りに任せてよくない選択をしたと思います」
「いや、そこは軍官房部に六川と星守がいるからな。兵站の当座のしのぎは軍官房部でつとまるはずだ」
「なるほど。あー……わかりましたよ。主計部は総司令官へ秘書官の人材も提供しています。全員を怒りにまかせて首にしたから、天儀総司令の身の回りの雑用をする役がいなくなったと……。それで自分にやれとお命じなんですね」
「まあ、そんなところだ。掛け合った結果、今回だけは兵站は軍官房部がやってくれるが、主計部が担っている雑用までやらさせられんだろ。お前、星守が俺にお茶淹れてる姿想像できるか?」
「……無理です」
あの気の強い星森あかり軍副官房だ。天儀総司令の顔に、こんなの私の仕事じゃない! と熱々のお茶をぶっかけることはしても、おとなしくお茶を運んでくことはしないだろう……。
「そういうことだ。頼むぞ義成。その点お前は気が利くし申し分ない」
「……わかりました。仕方ありません」
俺が不承不承納得すると、花ノ美が、
「義成よかったじゃないー。総司令の横で、つきっきりで会戦の指揮見れるのよー。あなたラッキーよ」
と軽薄にいいながら俺の肩をポンと叩いてきた。
「花ノ美じゃあ変われ。俺は秘書官より艦長がいい。お前は憧れの天儀総司令の横でつきっきりになれるぞ。そうだ。この役割の交換はウィン・ウィンだ」
「バカいって。あんたじゃ勝てないでしょー」
「やってみねばわからん!」
「わかるのよ私はね」
「嘘をいうな!」
「だって、わたしー。すでに絶望的な後退を大成功させちゃった押しも押されぬ名将? ってやつだからー。あなたとは、いままで以上に差が開いちゃったのよー」
くそっ! いいかえせん。これが結果をだしたやつの言葉の力か……! などと俺が気をもんでいると、そこに、
「おーう。で、オレはなにすりゃいんだー。呼ばれたきてやったんだ。クソみたいな役割だったらコロス」
という新たな声が、俺たちが振り向くと、そこにはアクセル・スレッドバーン。
「アクセルきたか」
「おう。きましたよー御大将殿。背中にむさ苦しい宇宙ゴリラ(国家親衛隊)を従えてね。これいらないんですけど返却できないスかね」
「返却は不許可だ。うまくつかえ」
「……チッ。で、オレの役割はなんですかい」
「すでに総司令部機動部隊は大量の降伏兵を抱えている。そいつをまとめて後方の本拠地である泊地パラス・アテネへ引率してくれ」
「ああ? 捕虜の護送かよ。オレも戦わせろよ!」
「これも重要な任務だ。やってくれ」
「チッ。まあ、いいよ。今回は楽させてもらうわ。でも、オレは弱者をいたぶるのが大好きだから、捕虜どもの身の安全はしらねーからな!」
相変わらず総司令官相手とは思えないとんでもない横柄な態度に、俺はもう慣れてきていた。これがこいつのデフォルトモードだ。おそらく花ノ美もアバノアも俺と同様で、
――この序列一位を天儀総司令はどうあしらうの?
ぐらいにしか思ってないだろう。だが、今回の天儀総司令の態度は俺たちの考えていたものとは少し違った。
アクセルの横柄に室内の空気が重くなったのだ。理由はもちろん天儀総司令の存在だ。いつもの天儀総司令なら、アクセル横暴な態度に、いいよ、いいよ、という感じなのだが今回は違った。
「おい――」
と重くいってアクセルに気迫を飛ばしていた。さすがのアクセルもたじろいで、
「な、なんだよ。メンデーな」
と明らかに動揺気味だ。
「俺は、お前のどんな態度も許そう。暴言も気にならない。たとえお前が100万の損失をだしても笑って流そう。負けても責めない。どんな失敗を犯しても救ってやろう。負けてきたら倍勝ってやることだってできる」
「へ、そりゃあ、ありがてえネー。で、もういいか?」
と、アクセルは、口走ったのは冗談だよとか、本気になるなよ、という感じの態度をだしたが、天儀総司令はそういったアクセルの甘えを許さなかった。
「だが――。俺は神じゃない。捕虜の虐待からだけは、お前を救うことはできない。俺はお前を断罪したとは思わない」
「わ、わかってるよ。普通に運んでやるよ」
「普通?」
「いや、丁重に手厚く待遇よくだ。これでいいだろ!」
「それでいい。頼むぞ。俺はお前を信頼しているんだからな」
「うるせーよ。じゃいくぞ! これって作戦会議前の役割の事前調整だろ? 会議で俺が捕虜護送の役割に、はい、とおとなしく答えりゃいい。そんだけの呼び出しだろ」
「頼むぞ」
という天儀総司令に、アクセルは敬礼もせず、
「チッ――」
と舌打ちをして部屋をでていった。
そしてアクセルが去るとすぐに部屋の外からは騒がしい声が……。なるほどアクセルのいったとおり作戦会議の事前調整で作戦に重要な人物が総司令官室に呼びだされているようだ。
『ちょっと寸胴部隊。次の戦いでは私が主役なのよ。その無駄にデカイ機体で、でしゃばったら許さないわよ』
『いえ、いえ、こればかりは義兄さんの頼みなんですよ。義兄さんに〝お前の赤熊の力が必要だ〟とこっちもいわれてるんで、そんな戦功を譲るなて余裕ないですって』
『譲れってなんていってないの。私より目立つな、出しゃばるなっていってるの』
『いやー。そうでしたか。でも、隼人隊の機体はレティさんのいうとおりデカイんで目立つなってのは難しいかなぁ』
『あなたね。私の機体データの入ったフライト・ミュレーション・ボックスで、私の機体を撃破できたからって、あまり舐めないことね。あれ二世代前の機体で、しかもいまは腕も上がってるだから』
『へー、俺はそのシミュレーション戦で最初に選択したの初期バージョンのオイ式だったんですけど、いい勝負でしたね』
『ちょっと、なに押してるのよ!』
『レティさんこそ!』
扉の外から聞こえてくるこの言い争いに、俺も花ノ美、アバノアも唖然。
この後、これが、どちらが先に総司令室に入るかという理由での言い争いだったと知って、俺たちはもう一度唖然とすることになる。
二足機パイロットには天才が多いが、わがままな変人が多いというのは本当だと、俺はこのときしることになった。




