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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
ここまで改稿済み
47/105

3-(20) コマンダー花ノ美の決断!

花ノ美(かのえ)お姉さまったら聖母のごとく振舞って、部隊員たちの心をグッとわしづかみにしたかと思ったら、彼らにやらせることは死の任務。とんだ扇動者ですこと」

「なにか仰っしゃりましたかアバノア副司令?」

「いえ、なんでもですの。それより艦長さん敵の動きはどうなのです。そろそろ敵に動きがあってもよさそうな頃合いですが」

「いまのところこれといった動きはありませんね。ご覧の通り戦況マップにもとくに動きは――。アッ!」

「あら……」


 わたくしが艦長さん驚きにつられるように戦況マップの表示されたモニターを見ると、そこには敵の紅飛竜(こうひりゅう)艦隊から急速に分離する赤い点。赤い点の進路予想は、わたくしたちのストライダー部隊。愚直なぐらいの真っ直ぐの突撃。すぐさま蹴散らして、本隊に戻るという性急さと強い決意がつたわってきますの。

 

「ついにきましたわね」

「敵が我々ストライダー部隊を発見してから2時間。遅かったというぐらいですが……」

「くるべきときがきただけですの」

 

 といって、わたくしは一呼吸。ここで焦っても急いでも、あまり変わりませんの。余裕は大事。重大なことほど姿は小さい。戦場では、そんな小さな点を見逃してはならないのだから。

 

「……ただちにリシュリューと通信!」


「はい!」

 と、艦長さんの返事が終わるか終わらないかの早さで、通信兵からの、

 ――通信開きます!

 の応答。艦長さんがわたくしに、それをつたえ終わった瞬間にコンソールのモニターには通信開始前のカウントダウンの数字が。これだけでも、わたくしアバノアの座する高速戦艦フロンサックの乗員の練度は高いとわかりますの。急げば数ある手順のいくつかをはぶきたくなるものですが、確実に手順を踏んでの最速の対応。指揮を執るならこんな艦は理想的ところ。じつに素晴らしい。


 そういえば、瑞鶴をでるまえに義成からは、

「アバノア。俺の調べではフロンサックのクルーはお前向きだ。それでフロンサックをお前に与えろと天儀総司令に具申した。フロンサックは艦長も旧軍時代からの歴戦。お前なら軍古参の艦長の顔を立てつつ能力を引き出せるだろう。くれぐれも花ノ美に夢中になってミスするなよ」

 と、無駄に偉そうにいわれましたけれど……。確かにフロンサックは最高ですの。あの最下位スケベ男。こういう人との相性を考えてのグループ作りは昔から上手かったような。わたくしが、そんなことを思っているとカウントダウンは終了。目の前のコンソールのモニターには花ノ美お姉さまの姿が。

 ――ああ、お姉さまったら相変わらず凛としてお美しい……。

 

 旗艦リシュリューの部隊司令コマンダー花ノ美と、フロンサックの副司令アバノアとの直接通信。リシュリューのブリッジでは、通信用のヘッドセットをつけた花ノ美・タイガーベル。いま、花ノ美の耳には後輩ポジションのアバノアの、

『お姉さま、こちらへ排除部隊が直進してきています。その数巡洋艦20隻!』

 という高い声の報告がなされていた。

 

「とことん戦闘間近ってわけね。敵将は優秀。敵は出し惜しみなし。私たちの8隻に20隻を当ててきた」

『ええ、それで、どうなさいます? まともに考えれば戦闘回避がベターですの。わたくしたちは、総司令官さまの本隊へ紅飛竜の艦隊の正確な位置をしらせるという役割は十分はたしたと思いますけれど』

「向かってくる敵は二倍か……」

『ええ、より正確には二倍して、さらに4隻のオマケつきですの。それにしてもオマケにしては4個は多すぎますのー。駄菓子ののオマケだってせいぜい2個ですのよー』

「ふふ、うふふ……」

『どうなさいましたお姉さま? そろそろ指示をおだしになりませんと、逃げるにしても迎え撃つにしても間に合いませんの』

「いやーさ。いっても2倍ちょいでしょ。ちょーっと、私たちを倒すには少ないじゃないっと思ってさ」

『あら、大胆発言』

「いいアバノア、計画通りやるわよ! 私たちは小勢の利をいかす!」

『指揮官同士が通信しながらの連携戦術。わたくしとお姉さまの愛のデュエット!』

「ストライダー部隊は、リシュリューとフロンサックを先頭にして複縦陣ふくじゅうじんにて突入! 艦の並び計画通りに!」


 部隊司令コマンダー花ノ美の決断に、各艦のクルーたちは静かなものだった。それもそのはず、ストライダー部隊は巨大な的に補足されて2時間前からすでに完全な臨戦態勢だったのだ。いまさらジタバタしても仕方なく、粛々とリシュリューとフロンサックを先頭にした二列の縦隊を作りながら20隻へ突入を開始した。二列それぞれの先頭に高速戦艦のリシュリューとフロンサックだ。

 

 対して、陣形変更に入ったストライダー部隊と、ときを同じくして敵が急速に二つに割れた。


「見てアバノア敵は二つに割れたわよ。予想通り! 右をグループA。左をグループBに指定!」

『ま、普通考えて倍以上の敵が迫ったら逃げると思いますからねぇ。20隻を、10隻と10隻に割って、わたくしたちを囲んで逃走阻止。そして撃滅! アッー! 敵さんったら見事にみぱっくり二つに割れて、どんどん離れて! もうこれではしばらく合流はできませんのー!』


 私、花ノ美の耳にはアバノアの甲高い叫び声。痛いぐらいだけれど、かまってはいられない。狙い通りなのだから――!


「部隊進路。右30度修正! 全艦最大戦速!!」


 私は叫んだ。そう。目一杯叫んで部隊へ指示。きっとアバノアの耳には、私の声が突き刺さったと思う。あとから考えれば自動音量調節機能をオンにしておけばよかっただけなのだけれど、それすら忘れていた。

 

 部隊連携を超重視した戦闘中も継続されるアバノアとの通信。気分はeスポーツのチーム戦といったところかしら。だけれど、この手法にはちょっと難あり。私のアバノアへの言葉と、部下への指示が交錯するからね。けれど私とアバノアは相性最強!

 

「アバノア! 右の敵のグループAを叩くわよ!」

『ガッテンですの! 艦長、フロンサック以下、アバノア小隊は進路修正。右5度。鉛直角3度修正!』

「はん! 考えたわねアバノア! あんた最高よ!」

『当然ですのー! わたくしを誰だとお思いで? 花ノ美お姉さまを最も慕うもの!』


 そう。指揮官同士が通信しながら戦闘は小さな部隊ならではのものだけれど、お互いの部下への指示が聞こえることでより濃密な連携が可能。そして私たちに直進してくる敵艦10隻。敵ながら敬服するわ。だって迷いがないからね。おそらく私が思うに、敵からすれば私たちのこの突入は予想外。敵は私たちが絶対に反転して逃げると考えていたでしょうからね。証拠に敵は早々に20隻の戦力を二つ割った。これはアバノアがいったとおりで、私たちを取り囲んで逃さないため。でもね――!

 

「それが、こっちの思うつぼってやつなのよ!!」


 私が叫ぶとアバノアが、余裕たっぷりで応じてきた。


『そう。思うつぼですの。これでしばらくのあいだ、わたくしたちが対処すべき敵は10隻。あら不思議半分になってますのー』

「ふん。10対8なら戦いようがあるでしょ」

『ええ、敵は見事にお姉さまの術中にハマりましたの。敵は戦力を二分したままでも、むしろこちらの退路を断てると判断してるのでしょうね』


 そして私のリシュリューブのリッジでは次々と報告があがった。


 ――対象敵との距離20000!

 ――対象の敵群が重力砲の砲撃を開始!

 ――敵重力砲弾飛来まで1分30秒! 30秒前からカウントします!

 ――弾道計算開始!


「まだこっちは撃たないわよ!」

『アッアー! 砲弾の雨のなかを愛のランデブー。共有する傘はありませんけれど、わたくしとお姉さまは、いま、一つの部隊! これはもはや一体といっていのでは?! しとしとと体に当る雨。透ける下着! 傘はなくとも身を寄せ合うわたくしとお姉さま! キャー! さいこううううう!』

「うっさいわねアバノア! 当たんないわよ!」

『アンッ。そうですのぉー?』

「そうよ。なんならブリッジの窓の防御壁あげてなさい。通過する重力砲弾が肉眼で確認できちゃうわよ」

『あらー。素敵な花火。わたくしとお姉さまの愛のランデブーへのまさに祝砲!』

「……。とにかく敵は落ち着いているようで、やっぱり慌ててるわよ。この距離で砲撃してきたんだから」

『普通、この状況なら距離5000ぐらいで撃ちますからねぇ。やはり敵からしたら、わたくしたちの突入は予想外だったようですの。グフフ!』


「気持ち悪い笑い。マジやめて! 戦いに集中して!」

 と私が叫ぶと同時に、敵重力砲弾飛来のカウントが終了し、リシュリューのブリッジには、

「敵重力砲弾きます! 飛来の重力砲弾は部隊の斜め上。距離300を通過! えっと……とにかく回避成功!」

 というクルーの声が響いた。そしてヘッドセットをつけた私の耳にはアバノアの叫び声とともに歓喜の声。あれ、でも重力砲が当たらなかったことへの喜びとは少し違うような……。


『あらー、総司令官さまの話は本当でしたのー!』

天儀てんぎ総司令から話? なによそれ」

『えっと、わたくし瑞鶴ずいかくからフロンサックへ移るまえに総司令官さまとお食事をご一緒しまして』

「え!? するい! 二人きりで!? 抜け駆けじゃない! 天儀総司令誘ったなら私も誘いなさいよ!」

『いえ、お姉さまそれは性急、早とちりというものですの。断じてわたくしから、あの野蛮な男を誘ったりはしません。わたくしが誘いたのは花ノ美お姉さまだけ。それに二人きりでなくスケベの義成も同席しておりました。まあ、義成は総司令官さまの小間使のごとくでしたけれど。そもそも食堂へいったら偶然はちわせして……。それにお姉さまもうリシュリューに移られていたので……』

「いいわよ。とにかく話を続けなさい。天儀総司令はなんていったの?」

『お姉さまったら、そんな露骨に不機嫌なお声で……』

「いいから、いいなさいよ。天儀総司令については全部報告の義務あり。これは部隊司令コマンダー命令よ」

『うぐぅ。なんという横暴なご命令』

「いいから早く!」

『ヒエッ。ええ、いますとも。いいますとも。不肖アバノア、お姉さまのいうことに逆らいましょうか。あのですね。総司令官さまいわく、当る砲弾は目に飛び込んでくる、とのお言葉でした』

「はあ? どういうことよ」

『ええ、ですからお食事中のやりとりを説明しますと――』


 ――いいかアバノア。敵弾が飛んできてもみだりに慌てるなよ。

 ――けれど地上の迫撃砲にしろ、宇宙の重力砲にせよです。砲弾がこちらへ飛んできたら動じてしまいますわ。それに少しでも避難行動をおこなったほうが、安全性が高まると思いますの。

 ――絶対にやるなよそれ。部下より先に動いてみろ最悪だ。

 ――はあ?

 ――露骨に意味不明って顔しやがって。だがな砲弾ごときでビビると部下の信頼を損なう。なめられるんだよ。ヤツラに一度見くびられると二度ということを聞いてもらえないぞ。

 ――けれど……。

 ――当る砲弾は目に飛び込んでくる。それ以外は全部外れる。だから飛んできた! と思ったらよく見てから慌てろ。逃げろ。

 ――そんな無茶な……。

 ――俺は一度経験したかわかる。これまで陣地に向かって計20発ぐらいは、あわや直撃かというのが飛んできたが、当たったのは目に飛び込んできた一発だけだ。それ以外は全部逸れた。

 ――え!? 一度当たった?! どうぞ成仏して。お願い申し上げますぉおお。

 ――生きてる! おい合掌するな! 死ぬとはかぎらん。不思議と無傷。……周りは全部死んだがな。


「とても食事中に、しかもレディーを前にする話とは思えませんでしたのー。ああ、やっぱりあの男野蛮人」

「……それで、アバノアあんたまさか、それを確認するために重力砲弾が飛来するなかブリッジの窓の防御壁を開放してたってわけ……?」

『ええ、そうです。いまは、もう閉じていますけれどね。それに、お姉さまが絶対に当たらないからブリッジの窓の防御壁開放してみなさいよ、とも仰ってくれましたしー。それに、あのお話本当でした。目に飛び込んでこない? と思っていたら逸れましたのー』

「バカじゃないの……」

『あらお言葉ですの。この行動はわたくしのお姉さまへの信頼と忠誠と、そして愛の証! それに総司令官さまのいうことが本当かどうか試すチャンスだと思いましたので。テヘッ』

「信じられない。私でもそんな度胸はいわよ。アンタにはあきれるわ……」

『お褒めのお言葉恐縮ですの。それよりお姉さま?』


 私はアバノアにうながされたけれど、そんな催促うける以前に状況はよく理解している。目の前に敵。もう重力砲の有効射程内といえども、次の行動までには少し時間があったからね。そう。敵の10隻は私たちへ向かってきている。私たちも敵へ向かっている。敵と交差する瞬間が運命のとき――!

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