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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第8章 屠所の羊編
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 ファルネーゼ将軍のところから、使者がやってきた。

 てっきり俺の村にきたヴァンパイア族の件かと思ったら、違っていた。


「一団を率いて、魔王トラルザード様の国へ向かってほしいとのことです」

「はっ?」


 またトラルザード領へ? 俺が? なんで?

 この使者は意味不明なことを言っている……よな?


「休暇中のところ、大変申し訳ないのですが、そのように承っています」

「…………」

 よほど顔に出ていたのか、使者は申し訳なさそうに言った。


「将軍は、休養を取り上げて済まないと仰っておりました」

「まあ……それはいいんだけど……どうして?」


 休暇よりも何よりも、今さらトラルザード領へ赴く理由が分からない。

 交換した部隊はともに自国へ引き揚げたし、メルヴィスも起きた。


 これ以上、関わる意味はないのではなかろうか。

 純粋に疑問だったので、そのことを聞いてみた。


「先日、トラルザード領より使者が参りました」


 俺が出発した後、すぐに到着したらしい。

 メルヴィスが目覚めたので、御機嫌伺いをしにきた感じだ。


 大層な贈り物を持参してきたというのだから、なんというかトラルザードの苦労が忍ばれる。

 よほどメルヴィスが目覚めたことが怖かったんだろう。


 当然使者は、この前の戦力交換についての確認もする。

 この国に来た戦力は、メラルダ将軍の側近と将軍格、それに一般の兵たちである。


 彼らが小魔王レニノスを倒したのは周知の事実である。

 本来ならば、向こうへの借りが大きすぎる。


 ただし、戦力外と思われていた俺たちが、思いの外活躍したおかげで、互いに貸し借りなしとなった。

 話し合いの結果、五分の戦力交換だったということに落ちついたらしい。


 俺としては、「そんなはずねーだろ!」という気分だ。

 あの時メラルダ将軍は、精鋭部隊を派遣したはず。


 交換に出したのは、寄せ集めの俺たちだ。

 結果を出したとは言え、五分とは到底思えない。


「まあそれはいいや。話がそうまとまったのなら、俺がとやかく言うことではないし。それでどうなった?」

「過去は五分。それで今後のことですけど、これまで通り良好な関係を維持したいとのことです」


 大量のお土産を持ってやってきたのは、そういう理由があったわけか。

 でもそうすると、こっちの借りの方が大きくなるんじゃないか? 土産の分だけ。


「……それで、お返しが必要なわけか」

「はい。最初は南方に駐留しているツーラート将軍か、その部下を派遣する予定だったのですが」

 使者の歯切れが悪い。


「サイクロプス族の件だな」


「そうです。同族と戦い、将軍は負傷……それなりの怪我らしく、副官以下も怪我をしております。ここで部隊を派遣して戦力を低下させるのはよくないということになり、かといって城の守備を疎かにするわけにもいかず……」


 城の守り……いま城を守っているのがダルダロス将軍だ。

 ダルダロス将軍がいなくなっても、別段困ることはない。


 攻めてきたとしても、メルヴィスが立ち向かえばいいのだ……いや、よくない。

 メルヴィスが動いたら、被害が敵だけでなく味方にも広がる。


 というか、国がひとつ消える可能性もある。

 あれは戦わせてはいけない存在だ。


 ダルダロスには、しっかりと城を守ってもらいたい。

 となると、残るはファルネーゼ将軍しかいない。


「ファルネーゼ将軍はいま、軍の再編成中であったな」

「そうです。本人および、副官が抜けるわけにはいかないとのことで、休暇中のゴーラン軍団長にお願いするよう言われました」


「あー……」


 あー……だよ。本当に。

 みなそれぞれ行けない事情を抱えていて、俺だけ休暇中。

 これは「あー……」だな。適任が俺しかいない。


 まったく間の悪いときにサイクロプス族がやってきたものだ。

「すると俺は、返礼品を持ってトラルザード様の所へ向かえばいいわけだな」


「はい。その通りです」

 おそらく俺が行った方が丸く収まる。


 魔王トラルザードだけでなく、メラルダ将軍のこともよく知っているし、なにより向こうで一緒に戦ったのだ。


 届け物の使者とはいえ、相手をよく知っている者が行った方がなにかとよい。


「分かった。俺が行くしかないな。すぐに向かう準備を整える。それでいいか?」

「ありがとうございます。それと……」


「まだなにかあるのか?」

「魔王トラルザード様と魔王リーガード様との戦いが再燃したようです。国境付近では大軍が動いたと報告があがっております」


「それはまたやっかいだな」

 間の悪い。

 魔王国どうしの戦いは、抱えている種族が多いことから、どうしても動員兵力が多くなる。


 小魔王国どうしの戦いが、小規模戦闘に思えるほどだ。

 それほどに魔王どうしが戦うと、周辺への被害が酷くなる。


「ファルネーゼ将軍からゴーラン様に、くれぐれも……とのことです」


 くれぐれも気をつけてくれなのか、関係ない戦いに頭を突っ込まないでくれなのか。

 それとも双方に喧嘩を売らないでくれなのか。


 ファルネーゼ将軍は最後まで言わなかったようだ。

 いろんな場面で釘を刺したんだろう。


「分かった。なるべく気をつけることにする」

「なるべく……ですか?」


「なるべくだな。俺だって望んでいないのに、どうしようもなくなることもある」

「…………」

 重々しく告げる俺に、使者は無言だった。




「そうと決まればすぐに動くぞ」

 使者が帰ったあと、リグに部隊の編成を任せた。


 編成といっても、希望者はみな連れて行くつもりだ。

 かかる物資や諸費用はファルネーゼ将軍が負担してくれるし、返礼品は先に国境まで送ってくれるらしい。


 俺はそれを持ってトラルザード領へ行けばいいわけだ。

 簡単なおつかいだ。


「よっしゃ、暴れるぜ!」

「楽しみだね~」


 馬鹿兄妹が阿呆なことを言っている。

 おつかいだと言っているのに、暴れに行くつもりか、コイツらは。


 サイファもベッカも、あれだけ俺が痛めつけ……撫でておいたのに、数日で回復しやがった。

 回復力もかなり上がっているようだ。これは気をつけねばと思う。


 準備はすぐに整い、俺は村を出発した。


 今回は直接国境に向かうので、城には寄らない。

 途中で物資を補給しつつ、他の部隊とも合流する。


「なんか最近、本当に休める期間が減っているな」

 他の魔界の住人は、もっと適当に生きている。


 なぜか俺だけ刹那的に生きているような気がする。

 気のせいだろうか。




 俺は最近脳筋と化したヴァンパイア族などを引き連れて国境を越えた。

 目指すは魔王トラルザードの住む町。


 トラルザード領に入ってからは、先触れを出しながら進み、いらない軋轢を回避するために町にも入らなかった。


 これを繰り返しつつ進み、約十日かけて、俺たちは目的の町に着いた。


「この町も久し振りだな」

 晴れやかな気分でそう呟いた。


「ヒイッ!」

 門番の一人が俺を見て奇声をあげた。


 前に撫でたことがある奴かもしれない。

 なんにせよ、俺はこの町に再び戻ってきたのだ。



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