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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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「……知らない天井だ」


 これは様式美だと思うが……なんか俺、魔界に転生してから多くないか?

 いつもいつも倒れていたら、身が持たない。いつか死ぬ。


「格上と戦わなければいいんだが、そういうわけにもいかないしな」

 死なないように目立たず、騒がず、生きていきたいものだな。


 俺が寝かされているのは、簡易ベッド。

 木板の上というだけで、地面に寝かされているより少しだけマシといった感じだ。


「布団が恋しいな」

 この身体なら、板張りの上に寝ていたってどこか悪くなることはないが、たまに柔らかい布団が恋しくなってくる。


 ベッドから降り、部屋を出る。

 救護室らしいが、見たことない場所だ。


 ここはおそらく城の中。

 メルヴィスと夢の中で会ったことから、俺が城に運ばれたのだと想像できる。


 つまり、そのくらい長い間、寝ていたわけだ。


「黙って村に帰るわけにはいかないか。さて、俺の部下たちはどこへいるのやら」


「オレ」が頑張ってくれたおかげで、キョウカを斃せた……ような気がする。

 最後の方の記憶が曖昧なので、確証ないが。


 部下たちと合流して、今後の動きを決めようと思ったら、ファルネーゼ将軍の部下に捕まった。

 有無も言わさず、将軍のもとまで連行された。


「えっと、将軍……何なんですか?」

「いまから陛下にお会いする」


「へっ?」

 またしても腕を引っ張られた。


「ゴーランが寝ている場所へ陛下が向かったのだ。夢の中で交信したと言ってらしたが、それは本当か?」


「ええ、そうですね。やってきました」

「ならば詳細は分かっているな。すぐに謁見するぞ」


「へっ?」

 よく分かってないけど? 俺。


 聞いたところ、俺が起きたらすぐに連れてくるように言われているらしい。




「ゴーランを連れてまいりました」

 将軍がメルヴィスの前で平伏するので、俺も倣った。

 これ、何か言った方がいいかな?


「この場ではお初におめにかかります。ゴーランです」

「うむ」


 夢の中で会っているが、世間的には初対面だ。

 ちょっと変わった挨拶だが、しておいた。


「ゴーランよ。これが見えるか」

 さっそくだな、おい。


「鎖ですが、それが何か?」


「やはり見えるか」

「はい」


 何を言っているんだと思っていたら、ファルネーゼ将軍が驚いた顔でこっちを見ていた。

「見えないんですか?」

 将軍に小声で尋ねると、小さく頷かれた。マジで見えないのか。

 そういえば、夢の中でも普通は見えないとか言っていたっけ。


「おぬしにはこれはどう見える?」

 メルヴィスが変な質問をしてきた。鎖のことだよな。


「大きな鎖が心臓の位置から伸びているように見えます。それが腕に絡みついて、端は千切れているように思えますが、どこかに繋がっているようにも見えます」


「なるほど。ちゃんと見えておるようだな」

 メルヴィスは上機嫌に笑った。


 かなり珍しいらしく、将軍が驚いている。


「これを触ってみろ」

「は、はい……」


 将軍には見えない鎖。俺が触れるか知りたいようだ。

 そばまで行くと、急にメルヴィスの雰囲気が変わった。


「やめい!」

「えっ?」

 触れと言ったり、止めろといったり……どういうこと?


「駄目だって」

「駄目みたい」


「ちぇっ、つまんないの」

「つまんないね」


 うわっ、コイツらがいたんだ。

 名前はたしか、ジッケとマニー。


 以前将軍を殺そうとして、俺に返り討ちにあったからか、なにか企んでやがったな。


 二人ともメルヴィスの側近らしいが、こんなのどう考えても暗殺要員だ。

 周囲の気配を探ったら、「なんとなくここにいる」のが分かった。


 ただ、奇襲されたら防げるとは思えない。

 メルヴィスが止めてくれなければ、大ダメージを負っていたことだろう。


 しばらく周囲の気配を探ったが、ジッケとマニーに動く気配はない。

 俺はゆっくりとメルヴィスに近寄った。


 メルヴィスの鎖は、みたところ新品のようだ。

 薄汚れていないし、錆びているわけでもない。


「では失礼して……」


 鎖の端を手に持つ。

 ズシリという感触とともに、鎖がじゃらっと鳴った。


「見ることができれば、持つこともできるのか。なるほど」

 メルヴィスが納得している。


「この鎖は重いですね……それと手から魔素が吸い取られる感触がします。吸魔鉄の盾を攻撃したときのような感触に近い感じです」


 吸魔鉄の盾を手に入れたとき、どのくらいの性能なのかいろいろ試したことがある。

 それで一度失敗して、際限なく魔素を吸われかけた。

 鎖を持った感触はそれに似ていた。


 鎖を引っ張ってみるとメルヴィスに繋がったところまで伸び、それ以上は動かなかった。


「これがなぜあるのか、その原因も考えてみよ」

「原因も考えろ」と言った。


 俺は夢の中で、命令をひとつ受けている。

 人界の結界を破る方法を考えなければならないのだ。加えてこの鎖か。


「これはいつ、どのようにして、巻き付いたものでしょう?」

「大戦の折だな。詳細は知らぬ。いつのまにかあった。天界の者どもが意味の無いことをするとは思えん」


 つまり鎖にはちゃんと意味があると……しかも天界絡みか。

 謎を解くのは難しそうだけど。


 鎖といえば拘束だ。

 事実、メルヴィスは心臓のあたりから鎖が出ている。心臓を握られている?


 端は千切れて見えないけど、反対側はどうなっているんだろう。

 心臓に巻き付いている? それとも支配のオーブの方?


 大戦時、天界の住人はヤマトを狙ってきていたはずだから、メルヴィスが邪魔だったと考えられる。


 メルヴィスは強い。

 簡単に排除できるとは思えないので、鎖はそのために布石とか?


「いますぐ分かるとは思えませんので、じっくりと考えてみたいと思います」

 俺がそう言うと、メルヴィスは頷いた。


「それとお主の種族について聞く。素盞鳴尊すさのおのみこととはどのようなものだ?」

 いや、俺も知りたいんだけど。


「頭の中に名が浮かんできただけでして、特殊技能もまだよく分かっておりません。自分には過ぎた進化かと思っています。申し訳ございません、言えるのはそれだけです」


「特殊技能は、魂と対話してみるとよい」

 魂と対話? オレと話し合えってことかな?


「分かりました。そうしてみます。何か分かりましたら、ご報告したいと思います」

「うむ。それでよい」


 それ以上質問できる雰囲気でもないし、特殊技能についてはさほど困ってない。

 調べるのはゆっくりでもいいだろう。


 それにしても、メルヴィスはなにか言いたいことがありそうだった。

 だが、この場では何も口にしなかった。

 確証がもてない……そんな雰囲気が感じられた。俺の気のせいだろうか。




 メルヴィスとの謁見が終わり、ようやく解放された。

 ファルネーゼ将軍に俺が気絶したあとのことを聞いたら、なんとサイファとベッカが暴れ回ったらしい。


 あと死神族とヴァンパイア族も大暴れだったそうだ。

 あいつら、何やってんの?


 ファルネーゼ将軍……というか、軍師フェリシアの思惑を大きくはずしたらしく、かなり混沌とした状況だったようだ。


「肝心のおまえが目を覚まさないし、どうしようかと思った。なぜキョウカと戦った?」

「それは……俺もなんで戦ったんでしょうね」


 正直、キョウカと戦うつもりはなかった。

 だから俺だって分からないのだ。


 将軍は唖然とした顔で「おまえがそれを言うのか?」と驚いていたが、俺だって逃げたかったのだ。本当だ。


「それと、戦場跡からお前が使っていた武器を回収してある。部下に渡してあるから、受け取っておけ」

「あ、それは良かった。無くしたかと思ったので」


 武器はキョウカと会うときに取り上げられたのだ。

 あれがあれば、もう少しラクに戦えただろうか……同じだっただろうな。


「国境付近は部隊を入れ替える。もともとそのつもりだったからな。今頃はダルダロスが睨みを利かせているはずだ」


「なるほど、ダルダロス将軍なら安心ですね」

 あれも古参将軍のひとりだ。


 ファルネーゼ軍は連戦だったので、休暇が必要らしい。

 部隊を再編成しなければならず、王城に戻ってきたとはいえ、忙しそうだ。


「キョウカが斃れたことで、北の脅威は払拭された。しばらくは周辺諸国も大人しいだろう」


 メルヴィスが起きたという話はもう伝わっているはずで、この国にちょっかいをかける者はいないだろうとのこと。


「ならば俺も村でゆっくりできます」


 釣りでもしながらのんびり暮らそうか。

 それくらい許されるだろう。


 俺は大きく伸びをした……ら、腹が大きく鳴った。

 魔素を回復させろとせっついているらしい。


 メシを喰ったら、部下の顔を見に行こう。

 何事も平和が一番だよな。


 俺は空を仰いだ。いい天気だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] ネヒョルがキョウカ陣営にいた事を完全に忘れているゴーランであった・・
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