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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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○ファルネーゼ軍 本陣 ファルネーゼ


「……どうしてこうなった」

 ファルネーゼは頭を抱えた。


 というか、説明を聞いてもよく分からない。


「……もう一度、はじめから報告してくれ?」


 珍しいことだが、ファルネーゼは部下からの報告を聞き直すことにした。

 内容が理解できなかったのである。


「……はっ。では、お話し致します」

 部下が報告する間、ファルネーゼは、フェリシアが立案した作戦を思い出していた。


 小魔王キョウカ軍と決戦する……と見せかけて時間稼ぎをする。つまり軍を囮に使うのだ。

 その間にファルネーゼが少数の精鋭を率いて本陣に潜入し、キョウカの側近を斃す。


 側近を斃されれば、軍の総合力が大きく減じる。

 強者がいなくなれば、キョウカを囲って斃すことも容易になってくる。


 だからこそ自軍には、時間稼ぎだけを命令しておいた。

 積極的に戦わなくていい。

 被害を少なくさせて、崩壊だけは防ぐようにと言いつけた。


 だが実際の報告はどうだ。

「我が軍の右翼が敵を撃破。潰走する敵を追って行きました」


 そんな報告を聞いたとして、だれが頭から信じるだろうか。


 まず、言いたい。

 防御に徹して、時間稼ぎをしろという命令はどうなったのか。


 それはいい。積極的に打って出たとしよう。

 そこでなぜ数で勝る敵軍をそうも容易く撃破できたのか。


 命令違反は、これまでもないわけではなかった。

 戦場で命令が忘れ去られることはままある。


 敵軍を潰走せしめたのは、単純にこちらの力が上だったのだろう。

 予想以上にキョウカ軍が弱かったのかもしれない。


 だから、そのことはいい。


「だが、なんで敵を追って本陣まで行く?」

 それだけは理解できなかった。想像の埒外と言っていい。


 敵が潰走しました。

 それを追って敵本陣に殴り込みをかけました。


 そう言われて「よくやった」と答えられる将軍がいたら、頭がおかしい。


「確認するが、敵を追っていったのは、オーガ族を中心とした部隊だったのだな」

「はい。間違いありません」

「…………」


 戦場のオーガ族は、よく肉壁と呼ばれる。

 理由は明白。


 彼らは複数の命令を理解できない。

 戦場では「進め」と「退け」以外の命令を出すと、だいたい混乱する。


 命令を受諾できた者と出来ない者が半分ずつくらい存在するから部隊が真っ二つに割れるのだ。


 そういう意味で「時間稼ぎして戦え」は、難易度の高い命令だと思う。


 だが果たして、オーガ族が中心となって敵軍を撃破できるのだろうか。

 肉壁の名は伊達ではない。


 オーガ族は魔法はつかえず、魔法攻撃にも弱い。

 体内の魔素はすべて肉体強化に使われている。


 オーガ族は、魔法ととことん相性が悪いのだ。

 ゆえに彼らを相手にするならば、遠距離から魔法をぶつければよい。


「たまたま敵軍に魔法が使える者が皆無だったとか?」

 戦場でオーガ族が快進撃した理由など、そのくらいしか思い浮かばない。


 そして報告は続く。


 ファルネーゼたちはキョウカの側近を討ち果たして撤退できた。

 その後、オーガ族に率いられた部隊がキョウカ本陣を強襲している。


 オーガ族部隊とキョウカ軍の戦いは、なぜか敵兵が本陣を捨てて撤退して終わった。


 これが分からない。

 本陣にどれだけの兵が残っていたのかファルネーゼは知らないが、空から見ただけでも、ファルネーゼ軍右翼の五倍はいた。


 中には、非戦闘種族もいただろう。

 それでも小魔王キョウカと側近が本陣にいたのだ。


 本陣に戦える兵は多数いたことは疑いない。


「なぜオーガ族たちが撤退させられるのだ?」


 謎は深まるばかりであるが、すでにキョウカ軍は陣を引き払い、遠くに逃げてしまった。


 これはファルネーゼ軍の完全勝利である。

 敵は相当慌てたのか、多くの物資を残し、とるものもとりあえず逃げ去ってしまった。


 ファルネーゼ軍と戦っていた者たちはさぞ焦ったことだろう。

 自分たちが戦っているうちに取り残されたのだから。


 そのせいか、いくつかの部隊が降伏している。


 降伏した兵の処理を部下に任せているが、双方ともにまさかこんなことになるとは思わなかったため、終息には時間がかかりそうである。



 そして最大の不可解。


「本当に……小魔王キョウカは斃されたのか?」

「はい……死体を確認しましたので、間違いありません」


「そうか、報告御苦労……下がってよい」

「はっ。それでは失礼します」

 部下は一礼して去った。


(やはりゴーランが斃したのか?)


 ゴーランがキョウカと戦いを挑む……と見せかけて逃げる作戦ではなかったのか?


 なぜゴーランはキョウカと本陣で戦っている?

 そしてなぜ斃せる?


 それが分からない。

 小魔王の名はそれほど軽いものではないはずだ。


 小魔王は攻撃と防御にすぐれ、タフであることが求められる。


 上位種族が小魔王と戦ったとして、攻撃を届かせることは難しい。

 魔素量の差で、浅い傷しか与えられないのだ。


 有効な攻撃すらできないのに、どうやって致命傷を与えられるのか。

 できるものならば最初からやっている。


 それができないからこそ、フェリシアが頭を悩ませて作戦を練ったのである。


「ゴーランは……まだ目覚めないか」

 事情を聞きたいのだが、肝心のゴーランは眠ったままである。


 部下がオーガ族を率いたサイファという者から話を聞いたようだが、要領を得ないという。

 いくら尋ねても、「逃げたから追った」とか、「敵がいたのでぶっ飛ばした」以外は聞き出せていない。


 通常のオーガ族の受け答えなど、普段からそんなものなので、別段おかしくない。

 最初から一軍の将のような知見をみせたゴーランが特殊なのだ。


(しょうがないな。詳細は、ゴーランが起きるまで待つとするか)


 部下に報告書を書かせねばならないが、はたして真実を書いていいものなのだろうか。

 報告書にありのままを書くと、どうしてもふざけているとしか思えないものになってしまう。


「しょうがない……すべて後回しにするか」


 キョウカが死んだ以上、敵は軍の建て直しができない。

 後継者を決めるにも、候補が相争う必要がある。


 他国が狙っているかもしれないし、なにより分裂と弱体化は避けられない。


 一致団結しようにも、キョウカが攻め取った各国がそれぞれ好きな者をたてて、独立するのが関の山だ。

 もはやこの国に攻め入ってくるヒマはないだろう。


「撤収の準備をさせろ。近日中にここを引き払う」

「かしこまりました」


 小魔王メルヴィスから言われた命令は達成できた。

 ファルネーゼは報告に戻らねばならない。




 それから二日後。

 ごく少数の見張りを残して、ファルネーゼ軍は帰還のために軍を動かした。


 メルヴィスの城に到着するまで、ゴーランは目覚めず、報告書は書きあがらなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] キョウカちゃん…絶対敵から仲間になるパターンかと… 珍しい和風な名前だし、狐だし、戦闘中も悪いやつ感なかったし ネクロマンス的な何かで蘇らないかな… 死種空狐的な感じで
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