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○小魔王キョウカの本陣 ネヒョル
右往左往するキョウカ軍の兵たち。
混乱する本陣の有り様を見て、ネヒョルはこれ以上留まるのをやめた。
あわよくば、近日中にキョウカが魔王へと成り上がるかもしれない。
そんなことを思っていた。
この戦いでは無理でも、まだ小魔王国は他にある。
うまく話を持っていき、魔王になるまで一緒にいればいい。そう考えていた。
「……まったく、冗談じゃないよ」
ネヒョルは支配のオーブを握りしめていた。キョウカの体内から取り出したものだ。
これでは自身が進化するのに足りない。
分かっていても、未練たらしく持ってきてしまったものだ。
「こうなったら別の誰か……といっても、西もゴーランに潰されたし、アテがないや」
いまから西へ行って、また策謀を始めるか?
すでに煽るだけ煽って引っかき回してしまった。いまさらどの面下げて、行けるだろうか。
「こうなったら、ゴーランを魔王にするってのもアリかな?」
これだけ短期間に成長したのである。
伸びしろを考えれば、可能性として一番高いのではなかろうか。
そう思うネヒョルだったが、たったひとつの理由でそれを諦めた。
というのも、ゴーランは何をしでかすか予想がつかないのである。
オーガ族の頃から、ゴーランはネヒョルの手に余る存在であった。
魔王に成り上がる可能性が高くても、不確定要素が多すぎる。
ゴーランを自分の計画に組み込むのは危険と判断した。
「しょうがないな。一度国に帰ろう」
あとはもう、通常の魔王に喧嘩を売るしかない。
外見こそ幼くみえるが、ネヒョルはかなり高齢である。
それこそファルネーゼより、よほど齢を重ねている。
メルヴィスが起きるまで待てなかったのは、その辺のところもあるが、進化してしまえば寿命は大幅に伸びる。
そう思って無茶をしてきた。
魔界はいま、ネヒョルを警戒する者たちが増えており、自身が十全に活動できる期間は残り少ない。
なにか出来るとしたら、あと一つか二つ。
それ以降は、急速に能力が低下していくだろう。
「レグラスと相談して、魔王リーガードと全面対決できるかどうか、聞いてみようか」
ネヒョルが飛翔しながら魔界を南下している頃、魔王ダールムの国では……
○大魔王ダールムの国 メルヴィス
小魔王メルヴィスと大魔王ダールムの会話は終わりに近づいていた。
久し振りに会ったメルヴィスは、相変わらずだとダールムは思った。
(言っても聞かないだろうが)
それでも言わずにいられない言葉がある。それは……。
「魔界は活動期に入ったようだ。多くの小魔王、魔王が己が命をかけて成り上がろうとしている。できれば控えてほしい」
メルヴィスの国にちょっかいを出した者についてはその限りでないが、他所へ首を突っ込むのは止めてくれと頼んだのだ。
魔界の活動期には、多くの番狂わせがおこる。
若く新しい小魔王、魔王が誕生し、古くて強い者たちが役割を終えて消えていく。
魔界が生まれ変わるのに必要な儀式であると、ダールムは考えている。
魔界最強と目されている二強。その一角であるダールムでさえ同じである。
退場する時が来たら、それを受け入れるつもりであった。
だがメルヴィスは違う。
魔界全土を煮えたぎる坩堝と化すことも可能だし、特定の種族を狙い撃ちすることもできる。
メルヴィスが恣意的に魔界を塗り替えたあとは、どんな魔界になるのか。
少なくとも、「魔界が生まれ変わった」と表現できる形にはなっていないだろう。
ゆえに自重を願った。
これを告げるのは、古参の努めであろう。
そんな義務感のもとに、不興を買うことを考慮してすら、言わずにはいられなかったのである。
「ふむ。……まあ、考えておこう」
その言葉を聞いて、ダールムはホッと胸をなで下ろした。
一昔前のメルヴィスならば、「私に何の関係がある」と言っていたところだ。
いくら今後の魔界のためと伝えても「それがどうした」で終わってしまったことは想像に難くない。
ほんの数百年だが、眠りについたことで少しは丸くなったのかとダールムが考えていると……。
「事によったら、天界を滅ぼすかもしれん。その前に魔界を滅ぼすのはやめておこう」
「わ……分かってくれて……何よりだ」
「そろそろ帰る」
聞くべき事はすべて聞いた。
もう用はないとばかりに、メルヴィスは立ち上がった。
一方ダールムは「さっきの発言は、冗談なのか?」と真意を測りかねていた。
「そうそう」と去り際、メルヴィスは振り返った。
「堕天した者から、天界の様子を細かく聞き出しておいてくれ」
「……ッ!!」
そう言い捨てて、メルヴィスは窓から飛翔してしまった。
メルヴィスの目的はヤマトに会うこと。
過去から一貫して、それは変わっていない。
支配の石版が示す通り、ヤマトが小覇王の位にいるのは間違いない。
どこかで生きているのだ。
一説には『時空の狹間』にいると言われているが、定かではない。だれも見ていないのだから。
魔界と冥界にいないことだけは確からしい。
そして天界にいるはずもない。
先ほどの会話の中で、なぜ天界を滅ぼすかもしれないとメルヴィスが考えたのかは分からなかった。
本人も確証がないのだろう。
天界を滅ぼすことでヤマトに会えるならば、躊躇うメルヴィスではない。
(……やれやれ。本当に戻ってきて下さらないものかね)
ここにはいない、小覇王ヤマトを心底頼みにするダールムであった。
大魔王ダールムの居城を出発し、空を飛翔していたメルヴィスは、眼下で飛翔する者を見つけた。
メルヴィスが飛んでいる高度の、はるか下である。
と言っても、その者が低空を移動しているのではない。メルヴィスの高度が高すぎるのだ。
「……ふむ、北からか」
飛んでいる者の正体は、小魔王キョウカの本陣から自分の国に戻る途中のネヒョルだった。
なんとなく目障りだと感じたメルヴィスは、一瞬で蒸発させようと指先に紫炎を集め……つい先ほど聞いたダールムからの頼みを思い出した。
「ふんっ」
小さく呟き、炎を小さくして放った。
――ドッドーン
「ぐぎぎぎぎ……な、なにが……!?」
背中に濃縮された巨大なナニカを受けて、ネヒョルは地面に激突した。
半死半生のまま、そこでのたうちまわった。
その頃メルヴィスは、もう遠くに行ってしまっていない。




