表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
259/359

259

○小魔王キョウカの本陣 サイファ 下


 もしサイファとベッカが別々にネヒョルと戦ったら、勝負にならなかっただろう。

 魔素量でも戦闘経験でも及ばない二人に勝機はない。


 今回、ネヒョルが舐めてかかったことで、サイファとベッカは調子に乗っていた。

 脳筋オーガ族を調子に乗らせてはいけない。


 単純ゆえに、彼らを調子に乗らせてはいけないのだ。

 それをネヒョルは身をもって知ることになった。


「うわっ!?」

 速度で二人を圧倒したネヒョルは、攻撃を避けつつ反撃を加えた。


 サイファはネヒョルの攻撃を受けるが、もちまえのタフさで反撃する。

 ベッカは死角に回り込んで、そっと近寄るという攻め方をする。


 ともにネヒョルが苦手とする戦い方だった。

「なんだよこれ、ゴーランと戦っているみたいじゃんか」


 進化したサイファ――益荒男ますらおの防御力は、素のゴーランにも匹敵する。


 鬼種ゆえ、相変わらず魔法には弱いが、有り余る魔素で身体を強化できるのだ。

 サイファは、ネヒョルの攻撃を受けてすら反撃する余裕があった。


「もう、しょうがないな。本気でやるよ」


 ネヒョルは思い通りにならない展開にかなり苛立っていた。

 怒っていたとも言える。


 北に野心高い者がいると知らせを受けて、秘かにネヒョルは部下を接触させていた。

 ネヒョルがまだ西で活動していた頃である。


 ゴーランによって西での活動が不可能になったネヒョルは、東の布石が順調に成長していることを知った。

 すぐさま東へ向かった。内心「しめしめ」と思っていたのである。


 キョウカの野心を煽り、うまく周辺の小魔王国を併呑させている。

 連戦連勝したキョウカは、あと一歩で魔王に昇格するところまできていた。


 そろそろ狩り時だと考えたネヒョルは、タイミングを逃さないために、今回、直接赴いてきたのだ。


 魔王に成り上がるには、大物を倒さねばならない。

 大物を倒した直後の疲弊した状態を襲えば、労せず倒すことができる。そう考えていた。


 ネヒョルが必要としているのは、魔王級にまで成長した支配のオーブである。

 魔界の住人が死ぬと、支配のオーブから魂と魔素が抜け出てしまい、抜けた魔素は周囲に拡散することが分かっている。


 そのため、より多くの魔素を取り出すには、死ぬ直前くらいが一番よい。


 今回の誤算は、キョウカが魔王になる前に死んでしまったこと。

 取り出した支配のオーブはまだ成長しきっておらず、しかも魔素が抜け出している途中のものだった。


 これでは使いものにならない。

 大いに落胆すると同時に怒りがこみ上げてきた。


 そんなとき襲撃を受けて、ヘタを打ったのである。

 相手を殺すくらいでは飽き足らない。そうネヒョルは考えていた。


「陛下が倒されている!」

「胸が切り裂かれておられるぞ!」


 ここまでサイファが天幕や陣幕を蹴倒してきたことで、周囲が広く見渡せるようになっていた。


 キョウカの死体が多くの兵に目撃されてしまったのだ。

 陣内は騒がしくなり、多くの兵が右往左往しはじめた。


「だれが陛下を倒したのだ!!」

「あそこで戦っている奴らじゃないか?」


 サイファやベッカだけでなくネヒョルも目立ってしまった。

 しかもネヒョルはまだ未練がましく、支配のオーブを握りしめている。


 このまま本気を出せば目の前の二人くらい、余裕で倒せる。

 少し戦ってみて、それは分かった。


 だがこの混乱した状況で、そんなことをして何の意味があるのか。

 ここでの計画は潰えてしまい、もはや自分がいる意味も無い。


「――はぁ、もういいや」


 キョウカ軍はこのあと、新しい小魔王のもとに建て直しがはかられるだろう。

 ここで変な噂が立つ方が嫌だと考えたネヒョルは、その場を離脱した。


「……チィ、逃げたか」

「というより、見逃してもらった感じ?」


「そうかもな」

 初撃以外は、ほとんど有効打を与えられなかった。

 たしかに逃げたというより、相手が引いてくれた感じだろう。



「しかし、あのゴーランを斃す奴がいるとはな」

「そうだね~。それでゴーランの死体、どうするの?」


「一応、持って帰るか」


 この時すでに、キョウカが死んだことが本陣全体に伝わっている。


 それを収拾させるべき副官や将軍たちがファルネーゼに斃されたため、押さえる者がいない。

 混乱は最高潮に達していた。


 逃げる者がいれば何をおいても追いかけるのがオーガ族である。

 もはやサイファとベッカの周囲には、だれもいない。


 倒れ伏しているゴーランに、二人はゆっくりと近づいた。


「こんなとき、よくゴーランが言っていた言葉があったな、なんだっけか」

「あったね~。たしか、『死して屍拾う者なし』だったよ」


「おう、そうだった、そうだった」

「思い出してよかったね~」


 サイファとベッカはともに笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ