表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
247/359

247

「俺の価値はついさっき示したつもりだが、まだ必要か? 次はアンタでもいいぜ」


 モウガが俺の意図に気付いていないことを考慮して、もう少しだけ直接的なことを言ってみた。


 モウガは苦笑していた。

 よかった、気付いてくれていたようだ。


「価値を示すのはもう十分だ。こちらも潤沢ではないのでな。あまり一騎打ちをやられると、少々困ったことになる」


 俺が倒したバルザスと同程度か少し上の者と戦わせたとしよう。

 無傷で下すのは難しい。となれば肉を切らせて骨を断つしかない。


 最悪共倒れだ。

 キョウカの側仕えとして、それは許容できないのだろう。


 魔界では小さな軍をいくつも作ったところで意味は無い。

 将軍クラスならば三、四人が普通。


 多くても五人程度にしておかないと、個々が弱くなり、戦力をただ分散させるだけになってしまう。


 バルザスと同程度の者が、本陣にどれだけ残っているのか考えてみた。

 今頃、ファルネーゼ将軍の軍がキョウカ軍と戦っているはず。


 急速に勢力を拡大させたキョウカ陣営であることを考えたら、いま本陣にいるのは、将軍と副官が一人ずつなんてこともありえる。


「ならいつまでもこんなところに俺を置いておくつもりだ?」

 早くキョウカの許へ連れて行ってほしい。


「それなんだがな、いま来客中なんだ」

「……戦場に来客? 行商人かなにかか?」

 それはまた珍しい。


「いや、戦力の補充をお願いするつもりのようでな」

 なんとも歯切れが悪い。


 モウガは賛成でないとか?

 しかし、どんな戦力を補充するのだろうか。


 ファルネーゼ将軍がメラルダ将軍と交わした約束みたいな感じだろうか。


「強者は連戦の途中で斃れたか」

「そんなところだ」


 小魔王軍どうしが戦って、無傷で勝利することはありえない。

 敵の将軍クラスを少しでも減らすため、戦場で互いに鎬を削る。


 減らし、減らされ……戦いで連戦すれば疲弊していく。

 思った通り、本陣の実情は相当厳しいらしい。


 山向こうから動かずに攻めてこなかったのも、それが原因かもしれないな。


 しかし来客中ときたか。

 あまりグズグズすると、どこかに隠れて、ここを窺っている将軍たちが見つかる可能性があるんだよな。


 すこし急かしてみよう。

「……で、俺はいつ仲間に入れてくれるのかな?」


 一番の問題。俺がキョウカと対峙できるかどうかだ。

 ここから無茶してキョウカを探しに勝手することも考えた。


 あと二つくらいは防壁を越えねばならず、ちょっと無茶過ぎる。

 モウガに連れて行ってもらわねば、キョウカの居場所を見付ける前に囲まれてしまうだろう。


「……その前にひとつ聞きたい」

「なんでも聞いてくれ」

 そして早く連れて行ってくれ。


「我が国の軍に入って、何を望む?」

 ストレートに聞いてきた。一番気になるところなのだろう。


「実力に見合った待遇……かな?」

「というと?」


「同格の連中から舐めた口を叩かれたらシメる。それと上官が俺より弱いと感じたら下克上をする……その辺は当たり前でいいよな」


「……まあな」

 ちょっと不満そうだ。


「ファルネーゼ将軍はその辺を見誤った。俺が求めるのは、実力に見合った待遇だ」

 実際、捨て駒扱いされなければ、そうそう上官に逆らったりしないのだが、それはおくびにも出さない。


「ほう……ではたとえばだが、俺の下につけと言われたらどうする?」

 モウガとしては、俺を部下として扱いたいのだろう。だがそれではキョウカに会えない。


「あんたはさっき、側仕えと言っていたよな」

「ああ」


 側仕えの扱いは、将軍と同じようなものだ。

 小魔王キョウカが率いる軍を何人かで統括しているのだろう。


「下に付くかか……いっそどっちが上か、戦って決めるか」

 俺は挑発するように笑ってみた。


 モウガと戦いになった場合、かなり危険だ。

 だが、ここで素直に「部下になります」とは言えない。


 このモウガと同格以上であることを見せつけなければ、キョウカに会えるとは思えない。

 つまり、ここの返答がキョウカと会えるかどうかの正念場なのだ。




「……分かった。陛下に会わそう。それでどういう待遇になるか分からんが、それで不満ならばまた考えればいい」

 どうやら賭けに勝ったようだ。


 そこからは早かった。

 モウガは部下を呼び寄せ、キョウカと会えるよう、すぐに手配してくれた。


(それで魔素量は……ちっとも回復していやがらねえか)


 かなり心許ないが、それは仕方ない。

 どんなときでも十全の状態で戦えるとは限らないのだ。


 モウガの部下が戻ってきた。

 会ってくれるらしい。


「客人はどうした?」

「一緒におられるそうです」


「そうか……まあ、いいか」

 客人というのには気になったが、作戦に変更はない。


 俺がキョウカと会い、一騎打ちが始まる。

 周りは手出しできないので、見ているしかない。


 俺とキョウカが戦った場合、本陣は大惨事だろう。

 それを窺っている将軍がやってくる。


 俺は戦いつつ、その場を動く。

 とうぜんキョウカは着いてくる。


 戦いの場が大きく動けば、本陣の外に出られるかもしれない。

 その間にファルネーゼ将軍を筆頭に、ヴァンパイア族の精鋭が空から急襲し、キョウカの取り巻きたちを一掃する。


 そうなったら俺は足に魔素を乗せて、出来るだけ戦場から離れる。

 逃げ切れるかは運だが、キョウカは部下を助けにいくか、俺との一騎打ちを優先するか迷うだろう。


 作戦が成功すればキョウカは残るが、強力な配下たちは全滅。

 あとは大勢で囲んで倒せばいい。


「さあ気合い入れていくぜ」

 思わず声を出してしまった。


 となりでモウガから「まさか陛下に下克上を仕掛けるんじゃないだろうな」と言われてしまった。


 だいたい合ってる。

 が、「いやいやいや、そんなつもりはない」と否定しておく。


「……ここだ」

 小屋や天幕を想像していたら、外にいるらしい。


 さすがに外から見えないように垂れ幕で目隠しがなされている。

 モウガに続いて、中に入る。


「あっれ~? ゴーランじゃん」

 そんな声が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ