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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 一騎打ちでバルザスを下した。

 バルザスは強かったと言えるが、俺の戦い方がまだ洗練されていない事も分かった。


 以前のオーガ族だった俺ならば、もっと力を温存させた戦い方ができたはずだ。

 弱者ゆえに頭を使って戦い、格上の者を下す。


 そうやっていたはずだ。


(力に飽かせたごり押しは改めないといけないな)

 正直疲労困憊だ。魔素もカラッカラ。あとでじっくり戦い方を反省しよう。


「どうだ!」


 とはいっても、ここでは弱気な顔は見せられない。

 拳を高く上げて、周囲にアピールする。


 少し遅れて歓声が広がった。

 ここの兵たちに受け入れられた……かどうかは分からないが、力を示すことができたようだ。


「上の者に会いたい。中に入れてくれ」

 俺が周囲を睥睨へいげいするだけで、だれもが及び腰になる。


 正直イッパイイッパイだが、余裕があるところを見せておく。

 俺をなんとかするには、バルザスと同程度か、それ以上の者が挑まねばならない。


 それは少なくとも自分ではない。兵たちはそう思っているのだ。


 だれかが注進に行ったのだろう。

 俺と兵たちのにらみ合いが続いたのち、無事、本陣の中に入ることができた。


(さて、ここからが本番だが……)


 魔素はスッカラカンで、身体は疲労困憊。

 本陣に入れたが、すぐにキョウカの元へは辿り着けないらしい。


 最初の防壁内には入れてくれたが、そこで待っているように言われてしまった。


「好きに歩いていいのか?」

 俺が笑うと、先導した兵は少し震えながら頷いた。


 この本陣だが、二重、三重の防壁が作られていた。

 ファルネーゼ将軍の陣も三重の防壁を築いていたので、想定内ではある。


 木材を組んだだけなら破壊すればいいが、土嚢どのうと岩で固めてある。

 高さは俺の背丈の倍。


 軍で本陣を急襲したとして、二番目の防壁を越えるのは難しそうだ。


(巨人族の姿が見えるから、奴らが手伝ったんだろうな)


 同じ魔界の住民の中でも、身体が大きい巨人族は阿呆みたいに腕力がある。

 大岩を担いで運ぶくらい簡単にできたりする。


 土木作業でいえば、巨人族一体で、ゴブリン族十数人分の働きができるだろう。

 巨人族が三十体もいれば、一日で擁壁くらい作ってしまいそうだ。


 俺は防壁の強度を確認したのち、壁に沿って歩いた。

 守備兵がそんな俺を遠巻きに眺めている。


 バルザスを下したのは知れ渡っているようで、だれもちょっかいをかけてこない。


 いまだ第二擁壁の中へは入れてくれない。

 手持ち無沙汰のまま周辺をウロウロしていたら、やたらと強そうな御仁が俺の方にやってきた。全身甲冑男だ。


「モウガだ。陛下の側仕えをしている」

 とすると、ファルネーゼ将軍の討伐対象かな。


 モウガはガタイがいい上に、鎧を纏っている。

 武者……というより、大魔神みたいな格好だ。


 分厚い鎧にかぶと。顔はよく判別できない。

 黒い肌が見え隠れしている。黒猿こくえん族の進化種だろうか。


 巨人族より小さいが、魔界の住人の中ではかなり大きな方だろう。

 俺が見上げるほどだ。かなりの力を秘めているように思える。


「俺はゴーランだ。少し話をしてもいいだろうか」

「もとより、そのつもりだ」


 キョウカの側仕え、つまり副官だ。

 恐らく頭も切れるのだろう。


「俺は小魔王メルヴィスの配下で、ずっとファルネーゼ将軍のところにいた」

「ファルネーゼ……山向こうで陣を張っている者だな」


「そうだ。……少し長い話になるが、聞いてほしい」

 そこから俺は、モウガの反応を見ながらここへ来た経緯を話した。


 といっても本当のことではない。

 キョウカに会うための作り話だ。


 まず強調したのは、ファルネーゼ将軍と俺の意見が割れたこと。

 ずっと蔑ろにされてきたので、ここにきて不満が爆発したと話した。


 ファルネーゼ将軍と袂を分かつか、下克上をするしかない。

 そう思い詰めた俺は、雌雄を決しようとした。


 下克上を申し込む前に追い出されそうになったので、陣内で暴れた。

 そうしたら追っ手を差し向けられたので逃げながら戦ったことなどを話した。


「もう軍には帰れないので、こっちの仲間に入れてくれないか?」

 俺が言い終わると、モウガが天を仰いだ。

 やっかいな奴が来たなとでも思っているのだろうか。


「先日山の斜面で戦いがあったのは聞いている」

「追ってきたので返り討ちにしたやつかな」


 モウガが言っている斜面での戦いとは、俺がサイファとベッカとした模擬戦のことだ。

 そう思われるように仕向けたのだが、途中から熱中しすぎて、ちょっと周囲への被害が大きくなりすぎた。


「将軍はなぜ下克上を受けない?」

 その理由が知りたいらしい。


「負けるのを怖がった……わけじゃないだろう。おそらく、傷ついてまで勝利する価値がないと判断したんじゃないかな」


 したり顔で俺は言うが、これも想定の範囲内の質問だ。

 俺はキョウカの足止めをするのが目的であり、ここでキョウカの部下相手に戦うのが使命ではない。


 俺と戦うと無傷では済まないぜ。

 そうなったら、今回の戦場ではもう活躍できないぜ、というのを匂わせている。


「なるほど……不仲の原因は他にもあるだろ」

 モウカは納得してくれたようだ。


「不仲の原因ねえ……強い俺が軍を率いてもいいと思わんか?」

 これもモウガに対するブラフ。


 ここでも将軍の下に付けさせるならば、殺っちまうぞという脅しである。

 将軍か側近クラスならば、直接キョウカと契約をしなければならない。


 支配のオーブによる主従関係はキョウカ以外は認めないと暗に言っているのだ。


「強さと軍を率いる能力が一致しないこともあるが、それは副官で補えばいいしな、概ね正しいだろう」


 軍のトップが負ければ、その軍は潰走する。

 軍の頭は、決して負けない者がふさわしい。戦場では強い者が正しいのだ。


 ただし、俺がペーペーだったころのグーデン部隊長みたいに「がっはっはっ、進め、進め」しか言葉を知らないのは論外だ。


 グーデンのようなのは自軍の被害が大きすぎる。

 副官が部隊をまとめないと、小さなほころびから部隊どころか、軍全体が壊滅する危険がある。


 俺とモウガの話はだいたい終わった。

 ここで「自分と契約しろ」とモウガが言い出したら俺は暴れる。


 そうなると思わせる言動をしたが……気付いているよな?



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