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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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たまには、周囲の反応も大事かなと思いまして。

 我は灼尾しゃくび族のニジルキーだ。

 ツゥーレイ族のバルザスに破れて以来、その部下として軍団を取りまとめている。


 いつかは下克上をと思い続けてはや四十年。

 多くの戦場を経験し、今日まで生き残ったことで、魔素は以前とは比べものにならないくらい増えた。


 これならばバルザスにひけを取らないと思った。そろそろ下克上の時期だと。

 それはまったくの勘違いだった。


 我はどうしてこう、思い上がっていたのだろう。

 我は強くなった。だがそれ以上にバルザスも強くなっていたのだ。




 たった一人で本陣へやってきた馬鹿者がいた。

 部下たちが軒並みそいつにやられてしまった。


 油断ならない奴だ。

 それゆえ我が出て行こうとしたら、バルザスが皆を制した。


「お前らは下がってろ!」


 まさかと思ったが、バルザスが馬鹿者の相手をするらしい。


「あいつ、死んだな」

 そう部下が呟く。我も頷いた。

 バルザスは強い。だからこそ我は従っていたのだ。


 だが、結果はどうだ。

 その馬鹿者は変な構えをとったと思ったら、一瞬でバルザスに近づき、拳から魔素を放ったではないか。


「ずいぶんと見通しが良くなったな」

 そいつは、バルザスの腹に開けた大穴を覗き込んで笑いやがった。


 まさかバルザスが負けた?

 信じられない気持ちで一杯だ。呆然としてしまった。


「ああっ……まさか!?」

「バルザスさまっ!!」


 部下の嘆きが聞こえてくるも、反応はない。

 バルザスの腹には大穴が空いているのだ。


 拙い。

 次はだれが戦う? バルザスですら一撃の相手だ。


 だれかを向かわせたところで結果は同じ。倒されるだけだ。

 怖じ気づく部下たちが、後ずさりしはじめる。


 パラパラと本陣に逃げ込む兵を叱責すべきであった。

 だがその後、どうすればいい? だれが戦えばいいのだ。


「――狼狽えるな!」


 シーンと静まりかえった。

 声を発したのはバルザスだった。


 腹の傷は……なんと、もう塞がっている。

 回復したのだ。


 ツゥーレイ族は、不死の種族と言われる。そう言われるだけで、我はまだ見たことがなかった。

 たった今、それが偽りでないことがいま示された。


 かつてツゥーレイ族は、不死性の上にあぐらをかいていたという。昔の話だ。

 ツゥーレイ族は滅びを迎えるまで戦い、数を減らしていった。


 数が減りすぎたため、いまでは滅多に見ることができないと言われている。

 我がバルザスに挑んだとき、あれほどの不死性を見せたであろうか。


 あれほどの脅威を与えたであろうか。

 答えは否。


「嗚呼……我は何を思い上がっていたのであろうか」


 目の前の戦いは、何もかもケタが違っている。

 いま繰り広げられている戦いはどうだ。


 最強の称号を持つ者にふさわしい。

 そんな感傷に浸っている場合ではなかった。

 戦いの余波だけで、部下の命が散っていく。ここは危険だ。


 敵の打ち付けた拳が衝撃波となって我を襲う。

 一方のバルザスも同じ。


 我は傍観者であってすら、この場にいることに恐怖を感じる。


 それほどまで、両者の戦いは苛烈なのだ。

 一発、一発が、天から打ち下ろされるかのように大地に響く。


 殴り殴られ、また殴り。

 我はこの戦いを傍観するしか手がない。


 間に入ることなど不可能だ。

 もはや、何人なりとも介入することはできない。


 大地が大きく抉れ、両者の足場はまともなところが残っていない。


 我が見たところ、戦いは五分。

 バルザスがあれほどの力を有しているとは、我はちっとも知らなかった。


 そして、たった一人で本陣にやってきたあの馬鹿者もまた、バルザスと同じ力を有しているなどと、誰が知れようか。


「魔界は広い」


 そろそろ下克上できるだろうと考えていた自身が憎い。

 馬鹿馬鹿しくなるほど差が開いているではないか。


「うおおおおお」

「があああああ」


 さっきから相打ちが増えている。

 双方ともに、避ける気力がないのだ。


 殴り殴られ、蹴り蹴られ。

 絶大な攻撃力が振るわれ、想像を絶する防御力がそれを防いでいる。


 だがそろそろ終わる。

 両者とも余力は残ってなさそうだ。


 敵が溜めに入った。

 それに気付いたバルザスが一瞬速く動き出す。


 両者の攻撃がぶつかった。


 結果、立っていたのは……。




○小魔王キョウカの本陣前 ゴーラン


「危なかった」

 特殊技能『底なし』の「魔槍」を撃ち込んだまではよかった。


 腹に大穴を開けて「勝った」と思った。

 だが即座に傷を塞ぎやがった。


 ヴァンパイア族並の再生能力だ。

 特殊技能のひとつだと思うが、あれはヤバい。


 もし魔素が続くかぎり、延々と再生し続けるのならば、こっちの魔素が先に尽きてしまう。

『底なし』で使う魔素量は馬鹿にならないのだ。


 そこからは、肉体言語での応酬となった。


 このバルザスという奴、ロクに体術もできないくせに、やたらと強い。

 頑丈に加えて再生能力があるから、戦闘経験が豊富なのだろう。


 倒すのに時間がかかりそうだ。

 ……そう思っていたら、こっちの魔素が心許なくなってきた。


 攻撃にも防御にもかなり多めの魔素を注ぎ込んでいる。

 このままだと俺の方がじり貧か。


 だが魔素を節約すると、敵の攻撃が当たらなくても身体にダメージが残る。

 しかも蓄積するやつだ。


 省エネを心がけて戦ったら、徐々に肉体を動かすのが億劫になってきた。


 相打ちが増えたことで、俺の脳が危機感を抱いた。

 早く倒せと警鐘を鳴らしてくる。


 みたところ、敵の体内魔素も減っている。

 ならば『底なし』で大ダメージを喰らわせた方がいい。

 そう思うようになった。


「があああああ」


 俺はありったけの力を振り絞って攻撃し、一旦距離を取った。

 すぐに魔素を拳に集める。


 おそらくこれが最後の一発。


 敵もそれに気付いて、襲いかかってきた。打たせないつもりだ。

 敵は焦っている。


 もはや再生に回せる魔素が残ってないのだろう。


「くらえっ! 『重撃じゅうげき』」


 魔素を拳に集め、固めに固めて撃ち出した。

 どれだけ固めたのか。劣化ウラン弾のように重くしたつもりだ。


 重量があればあるほど、威力が上がる。

 そして貫通力も。


 バルザスは相打ちを狙っているのか?

 だが間一髪。敵の拳が俺の耳元を掠め、俺の拳は敵の胸板に吸い込まれた。


 瞬間、奴の背中が花開いたように爆ぜ、真っ赤な血と臓器の欠片が飛び出した。

 胸に大穴が開いた。今度は塞げないだろう。


「これで決着だ。いい戦いだったぜ」

 崩れる敵に、俺はそう囁いた。



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