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サイファとベッカの駄兄妹もとい、馬鹿兄妹が俺に喧嘩を売ってきた。
簡単にいうと、「いつものこと」だ。
軽くあしらって終わりにすればいいのだが、俺たちは揃いも揃って、起源種に進化してしまっている。
どのくらい強くなったのか、確かめたくなるのは普通のことだ……よな?
「ついでに策を巡らせられれば、一石二鳥だし」
サイファの金棒を避けながら、そろそろいいかと思い始めた。
俺を追ってきた跡を見ると、綺麗に木がなぎ倒されている。
「んじゃ、そろそろ反撃といこうかね」
六角棍で金棒を受け止めて、そのまま押し返す。
「うおっ!?」
サイファがのけぞった。
思った通り、膂力は俺の方が勝っていた。
両腕に魔素を溜めて、反撃をする。
俺とサイファが打ち合ったら、周辺の木々が大変なことになった。
いや、木だけじゃない。
地面に大穴があいたり、岩が遠くにすっ飛んでいったりしている。
岩なんか、頭に当たったら死ぬな。
「なるほど、今度から相当気をつけて戦わないと駄目だな」
陣の外に出て良かった。狭い陣内だったら、死人が出たわ。
さて、俺とサイファの戦いだが。
見た目は一進一退の攻防に見える。
だが、俺の方が進化に一日の長がある。もしくは、地力が勝っている。
必死なサイファに比べて、俺にはまだ余裕があった。
だからそっと近づいてくるベッカにも気がついていた。
「とったどぉ~!」
「とってねえよ!」
ベッカがしてやったりの顔で後ろから襲いかかってきたので、馬よろしく、蹴り上げた。
「ぶへり」
顎を蹴り上げられて、そのまま遠くへ……。
「へへーん」
行かなかった。
足と足を絡めて、堪えやがった。こいつも成長しているってことか。
「おらぁあああ!」
俺がベッカの対処をしているいるうちに、サイファが調子づいてきた。
扇風機のように武器を振り回してくるが、そうやって使うものじゃないぞ。
だが、その速度は目を見張るものがある。
一度当たれば連続攻撃をそのまま喰らってしまうだろう。
あと、隙が無いので近づけない。
サイファも俺がいない時に、激戦をくぐり抜けてきたのだろう。
ただのオーガ族にはツラい戦いだったのではなかろうか。
「だが、負けてやるわけにはいかない」
二対一を想定していたのだから、これくらいで沈んでいられない。
全身に魔素を巡らせて、反撃を開始した。
ここからは特筆することはない。
ハッキリいって、馬鹿兄妹の猛攻は凄かった。
そこらの軍団長なんか目じゃないんじゃねーの? と思うほどに強力な攻撃ばかりだ。
しかもこれまで、俺が相手をしていたことで、戦いのセンスが磨かれている。
格上を倒し続けてきたことも影響しているだろう。
起源種へと進化したことも大きい。
このまま戦い続ければ、「おまえたち、強くなったな」と涙ながらに語る名場面集が出来上がる。
……が、それは今回ない。
「死にさらせ!」
一瞬の隙を突いて、俺の反撃。そして連打連打連打。
「ぐわわっ!」
「ぎゃぁぁぁ」
存分に痛めつけた。
やっぱり、丈夫になると違うな。
俺は二人をボロクズのように丸めて、斜面へ蹴り出した。
「わああああああ」
「わああああああ」
サイファとベッカは互いに抱き合うようにして、斜面を転がっていった。
ミッションクリア。模擬戦はこれでお終いである。模擬戦というレベルをはるかに超えているが。
二人とも下で目を回していることだろう。
自力で陣に戻れるか分からない。
まあ、動けなくても回収されるだろう。
奴らの仕事は終わりだから、どうでもいい。
俺は手近な岩に腰を下ろし、静かに佇む。
黙って佇みつつ、周囲の気配を探る。
(うーん、来ないか)
キョウカ軍の斥候が接触してくれれば儲けものと思ったが、そう甘くはないらしい。
ということは、次の機会だな。
「くっそー、あいつら。今度会ったら殺してやる!!」
と大声で叫んでみた。
聞こえているかなー? 聞こえているよねー? といった感じだ。
馬鹿兄妹の鍛錬にかこつけて、仲違いを演出してみた。
これをキョウカ軍の斥候がみていれば、報告が上がるだろう。
なにしろ山の中腹で大暴れしたのだ。
敵味方の陣に激しい戦闘音と、舞い上がった土砂が見えたと思う。
「環境破壊だな」
周囲一面、酷い有り様だ。
俺はファルネーゼ将軍の陣を見た。
あそこへ戻らないように移動しなければならない。
かといって、キョウカ軍の近くに行くのは得策ではない。
(大回りして帰るか)
斥候に見つからない距離まで離れるのは結構な手間だが、しょうがない。
俺は両軍に近づかないようにしながら山を下りた。
「しかしあいつら、強くなったな」
馬鹿兄妹だけでなく、俺もか。
もしかしたら今、オーガ族の時代がやってきている?
いや、ないか。




