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さあて、久し振りに駄兄妹もとい、馬鹿兄妹との戦いだ。
いつもの模擬戦だが、今回は少しだけ趣向を変えてみた。
外へ出る前にファルネーゼ将軍のもとへ赴き、一言だけ耳打ちしておいた。
――何があっても、動じないでほしい
そう伝えたのだ。
サイファとベッカの力がどのくらい上がったのか。ちょっと楽しみだ。
益荒男とダキニという起源種の力量を測ると同時に、『どこかで見ている』はずの、キョウカ軍に対して、少しだけ策を弄することにした。
「よし馬鹿兄妹。こっからは競争だ。俺に付いてこい」
「おう?」
「へっ?」
「俺を見失ったら、相手をしてやらないからな」
「なんだと?」
「どういうことなの?」
馬鹿兄妹が慌てている。
ここはまだ陣内。擁壁の内側だ。
壁を一枚隔てた向こうは陣の外。
俺は六角棍に思いっきり魔素を注ぎ込んだ。
「いいか、しっかり付いてくるんだぞ」
そう言って、陣の擁壁を破壊した。
六角棍が当たった箇所が大きくはじけ飛んだ。
爆発音が響き、大穴が開く。
なるほど、本気で魔素を乗せて、本気で打てばこうなるのか。
「さあ、付いてこい!」
足に魔素を纏わせ、穴を走り抜けた。
「うおっ!?」
「待ってぇ~!」
俺が飛び出すと、馬鹿兄妹が追ってくる。
ここからはつかず離れず鬼ごっこだ。
途中何度か、迎撃をして吹っ飛ばしたり、足を止めさせたり。
そのまま陣から大きく離れて、目の前の山を駆け上る。
「ゴーラン、待てよ!」
「ねえ、どこまでいくの?」
「付いてこれない奴に教える義務はない。悔しかったら、追いついてみろ」
「んだと」
「じゃあ、追いつくからね!」
挑発をするとすぐに乗ってくる。さすが馬鹿兄妹だ。
山の中腹まで一気に登る。
「ここはいい場所だな」
やや開けた場所を見付けたので、二人が来るのを待つ。
「敵の見張りの姿は……見えないな」
だがどこかには、必ずいる。
奇襲を受けないために、こっちの軍の動向は把握してなければおかしい。
「やっと追いついた」
「ゴーラン、速すぎ」
馬鹿兄妹がやってきた。
息は……うん、切れてないな。
ここまで全力疾走しただろうが、そのくらいでは疲れもしないらしい。いい傾向だ。
「追いついたんじゃなくて待っていたんだ、馬鹿。喋っているヒマがあったら掛かってこい。それとひとつルール変更な」
「へっ!?」
「なに?」
「山の下まで転がされたら、大人しく帰れ。俺のところへ戻ってくることは許さん」
ワケが分からないだろうが、難しいことを伝えてもコイツらだと理解できない。
本当は演技指導くらい入れたいんだけど、やっても確実に失敗する。
「なんかよくワカンねえが……下まで行ったらお終い。帰ればいいんだな」
「そうそう……ほら、始まっているぞ。あ、あともうひとつあった。順番はナシな。二人同時に来い」
悠長に喋っているサイファの腹部を蹴り上げた。
綺麗に弧を描いて飛んでいる。
「二人同時にって言ったはずだぞ」
ベッカに回し蹴りを喰らわし、やはり吹っ飛ばす。
サイファがすぐに起き上がり、転がっているベッカに目配せする。
ベッカは意図をすぐに理解したようで、サイファと同時に襲いかかる。
こういうところは兄妹だよな。仲がいいというか、呼吸が合っているというか。
ただ、今のところはサイファもベッカも本気じゃないらしく、ただ殴りにきているだけ。
サイファの拳を何発か避けて、たまにガードしてみたが、驚くほど攻撃力が上がっていた。
オーガ族の状態で受けたら一発で沈むか、身体に穴が開くくらいの威力がある。
ベッカの方は動きが速くなった。
数年前、ベッカは伸び悩んでいた頃があって、そのとき念入りに転がしてやったことがある。
心が折れるかなと思ったら、それを糧として俺に向かってくるようになった。
打撃と関節技を交ぜた攻撃をし始めてきたのだ。
そのうちフェイントを入れるようになって、組み技や投げを併用するようになった。
技の種類が増えると、今度は効率的な戦い方を模索するようになって、「おっ、コイツ、頭いいじゃん」と思わせたが違った。
どうやら俺の戦い方をそのまま真似ているらしい。
それに気付いてからは、色んな技をベッカで実験……げふんげふん、見せるようになった。
今日のベッカは、他をフェイントとして使い、蹴り技主体で来ている。
なかなか楽しい一時だが、今回ばかりは馴れ合ってもしょうがない。
「うりゃ!」
サイファの胸に肘を撃ち込み、大きく飛ばすと、ベッカの頭をサッカーボールのように蹴飛ばした。
ふたりとも大きく後退し、ベッカは脳しんとうを起こしたらしい。
「進化前なら即死するくらいの強さで打ったが、なかなかどうして頑丈になったな。俺は嬉しいよ」
「ゴーラン、てめえ……」
「頭いた~い」
「だが、弱すぎる。俺をガッカリさせんなよ」
ワザと挑発してみると、サイファが乗った。
背中の金棒を一気に引き抜いた。本気モード。
使うのは、棍棒の巨大バージョンだ。
無言で振り回してくるあたり、頭に血が上っている。
もともと煽り耐性は低かった。進化したことで天狗になっていたか。
サイファは金棒の両手持ちだ。それを縦横無尽に振ってくる。
周囲の岩が跳ね飛ばされ、地面にヒビが入る。
当たれば、俺でも怪我は免れない。
「さあどうした。ちっとも当たらないぞ」
けど、当たらない。
「てめえ!」
誘うとすぐに追ってきた。
木々の中に逃げ込むと、大木を数本まとめてなぎ倒す勢いで振ってくる。
一撃で木が吹っ飛ぶって、どうなんだ。進化前と威力はケタ違いだ。
「こりゃ、派手な戦いになりそうだな」
そんなことを思いながら、俺は避け続けた。




