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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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 さあて、久し振りに駄兄妹もとい、馬鹿兄妹との戦いだ。

 いつもの模擬戦だが、今回は少しだけ趣向を変えてみた。


 外へ出る前にファルネーゼ将軍のもとへ赴き、一言だけ耳打ちしておいた。


 ――何があっても、動じないでほしい


 そう伝えたのだ。

 サイファとベッカの力がどのくらい上がったのか。ちょっと楽しみだ。


 益荒男ますらおとダキニという起源種の力量を測ると同時に、『どこかで見ている』はずの、キョウカ軍に対して、少しだけ策を弄することにした。


「よし馬鹿兄妹。こっからは競争だ。俺に付いてこい」


「おう?」

「へっ?」


「俺を見失ったら、相手をしてやらないからな」


「なんだと?」

「どういうことなの?」


 馬鹿兄妹が慌てている。

 ここはまだ陣内。擁壁ようへきの内側だ。


 壁を一枚隔てた向こうは陣の外。

 俺は六角棍に思いっきり魔素を注ぎ込んだ。


「いいか、しっかり付いてくるんだぞ」

 そう言って、陣の擁壁を破壊した。


 六角棍が当たった箇所が大きくはじけ飛んだ。


 爆発音が響き、大穴が開く。

 なるほど、本気で魔素を乗せて、本気で打てばこうなるのか。


「さあ、付いてこい!」

 足に魔素を纏わせ、穴を走り抜けた。


「うおっ!?」

「待ってぇ~!」


 俺が飛び出すと、馬鹿兄妹が追ってくる。

 ここからはつかず離れず鬼ごっこだ。


 途中何度か、迎撃をして吹っ飛ばしたり、足を止めさせたり。

 そのまま陣から大きく離れて、目の前の山を駆け上る。


「ゴーラン、待てよ!」

「ねえ、どこまでいくの?」


「付いてこれない奴に教える義務はない。悔しかったら、追いついてみろ」


「んだと」

「じゃあ、追いつくからね!」

 挑発をするとすぐに乗ってくる。さすが馬鹿兄妹だ。


 山の中腹まで一気に登る。

「ここはいい場所だな」


 やや開けた場所を見付けたので、二人が来るのを待つ。

「敵の見張りの姿は……見えないな」


 だがどこかには、必ずいる。

 奇襲を受けないために、こっちの軍の動向は把握してなければおかしい。


「やっと追いついた」

「ゴーラン、速すぎ」

 馬鹿兄妹がやってきた。


 息は……うん、切れてないな。

 ここまで全力疾走しただろうが、そのくらいでは疲れもしないらしい。いい傾向だ。


「追いついたんじゃなくて待っていたんだ、馬鹿。喋っているヒマがあったら掛かってこい。それとひとつルール変更な」


「へっ!?」

「なに?」


「山の下まで転がされたら、大人しく帰れ。俺のところへ戻ってくることは許さん」


 ワケが分からないだろうが、難しいことを伝えてもコイツらだと理解できない。

 本当は演技指導くらい入れたいんだけど、やっても確実に失敗する。


「なんかよくワカンねえが……下まで行ったらお終い。帰ればいいんだな」


「そうそう……ほら、始まっているぞ。あ、あともうひとつあった。順番はナシな。二人同時に来い」


 悠長に喋っているサイファの腹部を蹴り上げた。

 綺麗に弧を描いて飛んでいる。


「二人同時にって言ったはずだぞ」

 ベッカに回し蹴りを喰らわし、やはり吹っ飛ばす。


 サイファがすぐに起き上がり、転がっているベッカに目配せする。


 ベッカは意図をすぐに理解したようで、サイファと同時に襲いかかる。

 こういうところは兄妹だよな。仲がいいというか、呼吸が合っているというか。


 ただ、今のところはサイファもベッカも本気じゃないらしく、ただ殴りにきているだけ。

 サイファの拳を何発か避けて、たまにガードしてみたが、驚くほど攻撃力が上がっていた。

 オーガ族の状態で受けたら一発で沈むか、身体に穴が開くくらいの威力がある。


 ベッカの方は動きが速くなった。

 数年前、ベッカは伸び悩んでいた頃があって、そのとき念入りに転がしてやったことがある。


 心が折れるかなと思ったら、それを糧として俺に向かってくるようになった。

 打撃と関節技を交ぜた攻撃をし始めてきたのだ。


 そのうちフェイントを入れるようになって、組み技や投げを併用するようになった。

 技の種類が増えると、今度は効率的な戦い方を模索するようになって、「おっ、コイツ、頭いいじゃん」と思わせたが違った。


 どうやら俺の戦い方をそのまま真似ているらしい。

 それに気付いてからは、色んな技をベッカで実験……げふんげふん、見せるようになった。


 今日のベッカは、他をフェイントとして使い、蹴り技主体で来ている。

 なかなか楽しい一時だが、今回ばかりは馴れ合ってもしょうがない。


「うりゃ!」

 サイファの胸に肘を撃ち込み、大きく飛ばすと、ベッカの頭をサッカーボールのように蹴飛ばした。


 ふたりとも大きく後退し、ベッカは脳しんとうを起こしたらしい。


「進化前なら即死するくらいの強さで打ったが、なかなかどうして頑丈になったな。俺は嬉しいよ」


「ゴーラン、てめえ……」

「頭いた~い」


「だが、弱すぎる。俺をガッカリさせんなよ」

 ワザと挑発してみると、サイファが乗った。


 背中の金棒を一気に引き抜いた。本気モード。

 使うのは、棍棒の巨大バージョンだ。


 無言で振り回してくるあたり、頭に血が上っている。

 もともとあおり耐性は低かった。進化したことで天狗になっていたか。


 サイファは金棒の両手持ちだ。それを縦横無尽に振ってくる。

 周囲の岩が跳ね飛ばされ、地面にヒビが入る。


 当たれば、俺でも怪我は免れない。

「さあどうした。ちっとも当たらないぞ」

 けど、当たらない。


「てめえ!」

 誘うとすぐに追ってきた。


 木々の中に逃げ込むと、大木を数本まとめてなぎ倒す勢いで振ってくる。

 一撃で木が吹っ飛ぶって、どうなんだ。進化前と威力はケタ違いだ。


「こりゃ、派手な戦いになりそうだな」

 そんなことを思いながら、俺は避け続けた。



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