表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
233/359

233

○小魔王メルヴィスの国


「報告に来た者の名は?」

 小魔王メルヴィスに問われて、ファルネーゼは冷や汗を流しながら答える。


「ゴーランと言います。魔王トラルザード様のもとへ送った部隊の長を任せていました」


 魔王領へ送る部隊の隊長と言えば聞こえが良いが、捨て部隊である。


 トラルザード麾下の将軍メラルダから打診があったのは、「部隊をこちらが一方的に派遣するのは拙い」という内容であった。


 当たり前である。メラルダの部下とはいえ、魔王領の兵なのだ。

 メラルダの一存で貸し出すのは難しい。


 そこで採った策が、兵の交換。

 これは近隣に新たな魔王が立つのはよろしくないと魔王トラルザードが考えていることが関係している。


 魔王誕生を阻止するために他国へ攻め入りたい。

 だがそれは新たな火種となる。また外聞も悪い。

 部隊の交換ならばということで、決定したのだ。


 ファルネーゼもまた、魔王誕生の生贄として、この国が飲み込まれるのは本意ではない。

 ゆえに、メラルダの提案を呑んだのだが、ただでさえこちらは小国である。

 貴重な戦力は出せない。


 かといって、あからさまに「いらない」部隊を送るわけにもいかない。

 ちょうどよいバランスだったのが、独立部隊として手元に置いておいたゴーランの存在であった。


 だがそれはメラルダとファルネーゼの思惑である。

 自国の部隊を貸し出し、他国の部隊を駐留させる行為をメルヴィスがどう思うかは、また別。


 問われれば、嘘をついたり、誤魔化したりすることもできない。

 正直に答えるしかないのである。


「ゴーランか……知らん名だが、どこの者だ?」

「私の配下で、元はオーガ族の若者でした。向こうで戦功を挙げたのでしょう。特殊進化しておりました」


 メルヴィスが寝ていた間、ファルネーゼたち将軍が独断で動いていた。

 今回の件でいえば、メルヴィスがこれをどう考え、どのような結論を出すのか、まったく予想が付かなかった。


 何かの琴線に触れていた場合、激昂することもあり得た。

 ファルネーゼは、メルヴィスの様子を窺う。


 一方のメルヴィスは虚を突かれていた。

 副官の言葉から、ファルネーゼに準ずる者が配下に加わったか、強力な種族が成長進化したのだと考えていた。


 だが出てきた言葉が「部隊の長」という身分であり、「元はオーガ族」と甚だ頼りない種族名だった。


 将軍でも軍団長でもない。ただの部隊長。しかももとはオーガ族である。

 それでジッケやマニーを下せるとは到底思えない。


 メルヴィスは逆に興味が湧いてきた。


「ひとつ確認したい」

「はっ、何なりと」


「その若者は本当に元はオーガ族であったのか?」

 ファルネーゼよりも何倍も長く生きているメルヴィスである。


 オーガ族についてはよく知っている。

 戦場での盾以外に使い道があっただろうかと、記憶を思い起こす。


 なかった。古来より、オーガ族は肉の壁以外に使い道がなかった。


「間違い在りません。オーガ族でした」

「……そうか」


 そこでまたメルヴィスは長考する。

 自分が寝ていた間に、魔界に何があったのかと。


 国土が少なくなったり、住民が減ったりしても構わない。

 欲しければ奪えばいいのである。


 国土、国民が現状どれだけだろうが、関係ない。

 だが、たとえ進化したとはいえ、元はオーガ族である。


 それが自分の副官を追い払える力がつくのだろうか。

 自分が寝ている間に何があったのだと。


「その者はどうしている?」

「……村に帰ると申しておりました。今頃は出発した後かと思います」


「そうか」

「…………」


 ファルネーゼとしても気が気でない。

 いつ怒り出すのか分からないことに加えて、ゴーランに興味を持っているようなのだ。


(もしゴーランがメルヴィス様と相対したら……)


 ないとは思うが……戦闘するとか……ないとは思うが……喧嘩を売るとか……。


 出来るだけ会わせたくないと考えるファルネーゼであった。が無情にも。


「会ってみるか」とメルヴィスが呟いた。


「!?」

 ファルネーゼの驚きは半端なものではなかった。

 ファルネーゼ自身、ゴーランもまた何を考えているのか分からないところがある。


 奇妙な戦い方をする。

 情熱的な面を見せるかと思えば、ひどくクレバーな面を併せ持つ。

 底の知れない部下という印象である。


「その前に、北の跳ねっ返りを討伐するように」

 北の跳ねっ返りとは、城に侵入して逃げていったキョウカのことだろう。


 舐められたままというのもよくない。ファルネーゼもそれには賛成だ。

「分かりました。軍を整えてすぐにでも」


「ゴーランも連れてゆけ。帰りに儂のところへ顔を出せと伝えるのだ」

 終わった……そうファルネーゼは思った。ただ口では別のことを言った。


「はっ、敵を撃破し、しかる後ゴーランを御前に連れて参ります」

「期待している」


 ファルネーゼは深く頭を下げた。

 内心では「どうしよう」と頭を抱えていたのだが。




○オーガ族の村 ゴーラン


「いやー、のびのびできるな」

 村に帰ってきてからの俺は、羽を伸ばしまくっていた。


 複数の村を取りまとめる仕事はあるものの、それは急務ではない。

 これまで村の仕事は、副官がフォローしつつこなしてきたものである。


 今は副官がいないのだ。

 日がな一日、釣りをしたり、ぼーっとしたり、好きなことをして過ごしても罰は当たらない。


「こんな日がいつまでも続くといいな」

 そのうち副官のリグが戻ってくる。


「仕事はリグに任せればいいよな」

 駄目な大人、完全に自堕落な考えだが、どのみち副官がやった方がうまく回る。


 途中で口を出すくらいなら、すべて任せればいい。

 そんなことを考えながら今日も川で魚採りをして過ごした。



「こんな日が、毎日続けばいいな」

 魔界は今日も平和だ。


「俺に喧嘩を売ってくるのもいないし」


 進化してから、そういうのもピタッと止まってしまった。

 ああ、平和はいい。俺は心底そう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ