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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第7章 いにしえの大魔王編
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「撒いたと思ったんだが、ついてきていたのか」

 ファルネーゼ将軍が、忌々しそうに言う。


「っと、声だけ?」

 姿が見えない。それと物騒な言葉が聞こえてきた。


「ここのどこかにメルヴィス様の副官のジッケとマニーがいる。こいつらも一緒に目覚めたんだ」

「なるほど。それは忠誠心があることで」


 なかなかできることじゃないな。

 だけど、なんで「殺す」なんて話になるんだ?


「寝ている間に起きたことを話したら、不甲斐ないと言い始めた」

「ほう」

 怒っているわけか。


「弱い者はいらない。死んで詫びろと攻撃を仕掛けてきた」

「それはまた」

 身勝手なことで。


「ねえ、言いたいこと言ってるよ」

「言ってるね」


「弱い自分が悪いのにね」

「悪いよね」


「だから殺っちゃおう」

「そうだね、殺っちゃおう」


 話は分かった。目に見えないけど、ここにジッケとマニー? その二人がいて、攻撃してくるってわけか。

 なんか、俺の行く先々で争いが起きてないか? 魔界だからしょうがないのか。


「それでファルネーゼ将軍はどうです? 勝てそうですか?」

「一人ならば、まだなんとか相手ができるが、二人になるとヤバい」


 ファルネーゼ将軍は、上位種族であるヴァンパイア族だ。

 その中でも最強の部類に入る。


 それでも一人と互角か。こりゃかなり強そうだな。


「んじゃ、俺も一人受け持ちます」

「いいのか? 面倒な相手だぞ」


「それはま、鍛錬のひとつということで」

 ファルネーゼ将軍はフッと笑うと、覚悟を決めた。


「ならば思い知らせてやろう。なんなら、殺してもいいぞ。それと周囲への被害は気にしなくていいぞ」

「それは助かりますね」


 鎧は着ている。盾も武器もある。うん、なんとかなるかな。

 俺は周囲に目を向けた。


 どこにいるか分からないし、姿がまったく見えない。魔素も感じられない。


 姿が見えないと魔素が感じられないのは、壁越しに相手の魔素が分からないのと同じだ。


 では気配はどうか? 気配を探ったが、それらしいものはない。

 二人いるみたいだが、並んで立っているとは思えない。さてどこだろう。


「探しているね」

「探しているよ」


 声のする方に六角棍を振ってみた。空振りだ。まったく当たらない。

 声がしてから間髪入れずに殴った。


(……ということは、声の場所にいないか、身体が素通りする?)

 よく考えたら素通りする訳がなかった。


 六角棍に魔素をたっぷりと乗せているので、幽鬼族ですら一撃で倒せる。

 では、声の場所にいないのは、どういうカラクリだろうか。


 ファルネーゼ将軍が敵の攻撃を受けた。血が迸った。

 ヴァンパイア族は少々の怪我ならば、すぐに治ってしまう。


 将軍が反撃しても、そこにはいない。

 だが、攻撃を受けるのを見た。こちらの攻撃が届かないわけじゃない。


「将軍。こいつらの種族はなんですか?」

「エターナルインビジブル族だ。いまだ姿を見た者はいない」


『永遠に姿を現さない種族』ね。

 名前からすると、特殊技能で姿を隠しているわけではなさそうだ。


 声のする場所にいなかったり、気配が読めないのは特殊技能か?

 ちょっと違いそうだけど。


 なぜ透明になっているかだが、考えられるのは、光学迷彩のように後ろの景色を前に投影しているのか、カメレオンみたいに身体の色を変えているのか。


「……っと!」

 空気が呻ったので、身体全体で避けた。


「避けたね」

「避けたよ」


 ひとつ分かった。空気を斬り裂くのだから、実体はある。

 それとすぐに聞こえてきた声は、俺が攻撃を受けた方角からかなり離れていた。


 明らかに敵の位置と声が合っていない。

 声を飛ばしたか。


(……いや、屈折とかか?)


 姿と声は、光と音だ。

 光や音を屈折させて、そこにあるものを隠しているとか?


 なんにしろ、ファルネーゼ将軍は苦戦している。

 積極的に攻撃を仕掛けているが、敵の居場所が分からないのだ。


(目で見ても分からなければ……心眼かっ!)

 とは言っても、心眼なんて使えないが。


 身体中に魔素を巡らせて、目を閉じた。

 ファルネーゼ将軍と敵が戦っている。


 分かるのは将軍の気配だけだ。

 音は……攻撃を受けたり、弾いたりしているものだけが聞こえる。


 足音は?

 足音は聞こえない。


 いや、聞こえた。近づいてくる。

「ここだっ!」


 六角混を振るった先に、手応えがあった。


「当たったよ」

「当たったね」


「どうして?」

「どうしてだろう?」


「マグレかな」

「マグレだよ」


 さっき、将軍の方から歩いてくるのが分かった。

 俺への攻撃が少なかったのは、将軍を標的にして、二人で攻撃していたのだ。


 それだけならばバレると思ったのか、時折、俺の方にやってきた。

 そこを俺に察知されたわけだ。


 敵はファルネーゼ将軍の強さをよく分かっていた。

 だから二人で襲ったのだ。


「ならば、もう一度」

 気配を探りつつ、耳を澄ます。


 ――ビュッ!


 右斜め後方から風斬り音。

 しゃがんでやりすごして、足下に六角混を振る。


 ――ゴイン


 硬いものを殴った感触があった。

 何かが吹っ飛んだ音もする。


「当たったよ」

「当たったね」


「マグレじゃなかったみたい」

「マグレじゃなかったみたい」


「危ないね」

「うん、危ない」


「こっちから殺る」

「こっちから殺ろう」


 俺に狙いを定めたか。

 俺の方は将軍と違って、再生能力がない。大きいのを喰らったら、それでお終いだ。


 さて、これを打破する策はないかね。

 俺は考えることにした。



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