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魔王トラルザードの元を辞して、俺は国に帰ることにした。
その前にやることは多かったが、俺には副官のストメルという強い味方がいる。
「メラルダ将軍に、俺は先に帰ると伝えてほしい」
指示するだけで良いのだ。
「分かりました。メルヴィス様の国にいる部隊にも帰還命令が出ているようですので、そのことをお伝えしなければなりません。それら含めて、メラルダ将軍にはすぐに伝えます」
本当は将軍に会いたかったが、ここからだと反対方向になる。
ストメルにいくつか伝言を頼むことにした。
そして俺の部下たちだが、ゆっくり国に戻ることになる。
兵の移動は、準備と時間がかかる。俺が単独で帰国するのとは訳が違う。
「すまないが、頼んだぞ」
「万事了解しました。必ずお伝え致します」
やはりストメルはできた副官だ。
というか、ストメルのような非戦闘種族の場合、出世して軍の中枢にいる者はみな優秀だ。
戦闘種族は、強いと出世しやすい。
非戦闘種族はすべてに目が行き届いてはじめて、出世への階段が出現するのではなかろうか。
「いろいろ世話になったな」
また会うこともあるかもしれない。
そんな予感を抱きつつ、俺はトラルザードの町を離れた。
「さあて、本気で走るぞ」
魔素を足に溜め、全力疾走だ。
これまでそういう移動はしたことがない。
俺は数十倍に増えた魔素をある程度自在に操れるようになった。
本気で走らせてもらおうじゃないか。
俺は自分の限界を知るために、走りはじめた。
「国境まで三日か」
夜はしっかり寝て、日中だけ全力疾走した。
トラルザードの町から国境を越えるまで、たった三日しかかかっていない。
やはり身体能力が上がると、移動速度が格段に違う。
俺はエルスタビアの町に着いた。
ここはファルネーゼ将軍が治める町だ。
ファルネーゼ将軍の住む館に向かったが、将軍は留守。
というか、メルヴィスの城に行ったままらしい。
「そういえば、他国が攻めてきたんだっけ」
いまだ城を離れられないのだろう。
留守の者に、トラルザード領に向かった者たちがそのうち戻ってくると告げた。
俺だけが一足先に戻った形だが、その辺は何も言われなかった。
他国からの侵略の情報を受けて、単独で戻ってきたと思われたのだろう。
「……それとも、俺だって気付いてなかったとか?」
出発したときはオーガ族だったし、もしかして同一人物と思われなかったのかもしれない。
思い返してみれば、館の留守を預かる者たちは、自分の上官に対するような対応をしてくれた。
将軍直属の部下が俺にへりくだる理由はない。
「やっぱり、気付かれてなかったかも」
エルスタビアの町を出た翌日、メルヴィスの住む城に着いた。
そして中に入ろうとして、止められた。
「ファルネーゼ将軍麾下の独立部隊長だ。ゴーランという。将軍に取り次いでもらいたい」
「ただいま取り次ぎますので、しばらくお待ちください」
城を守る常備兵だろう。何人かがこちらを遠巻きにしている。
「前に来たときは、こんなにものものしくなかったんだけどなあ」
彼らの視線からピリピリした雰囲気が感じられる。
メルヴィスが目覚めた影響か、もしくは敵の侵入を許してしまったことで、警戒度を上げているのか。
「将軍がお会いになるそうです。こちらへ」
すぐ会うことができるらしい。
兵は、城の奥に向かっていく。
城の裏手側は行ったことがなかったなと考えていると、どんどんと奥に向かっていく。
「……こっちでいいのか?」
「はっ、そう聞いています」
おかしい。明らかに人気のない方角だ。こんなところに将軍がいるはずがない。
「と思ったら、いた」
広くて何もない建物の中に、なぜかファルネーゼ将軍がいた。しかもひとりだ。
部下はどうした?
「ゴーラン……なのか?」
「お久しぶりです、将軍。……それでなんで疑問系なんでしょう」
「あまりに違っているからな……進化したのか?」
「そうです。そういえば、報告するのを忘れていました。鬼種素盞鳴尊のゴーランです」
「特殊進化か……らしいと言えばらしいが……随分と変わったな」
「自分ではそう変化したつもりはないのですが、やはり違いますか?」
「外見が変わって、保有している魔素量が跳ね上がっているのは当然として、そうだな……雰囲気がガラリと変わった」
雰囲気か。自分では分からないが、旧知の人からそう言われると、やはり俺は変わったんだなと実感できる。
「向こうで何があったか、そのうち報告書を書きます。まずは俺だけ戻ってきましたので、その報告を。……それとなぜこんなところで?」
見たところ、ここは何もない広間だ。
ファルネーゼ将軍が、ここで用事があったとも思えない。
そして、無駄なことをしない人だ。
「それなんだが、メルヴィス様が目覚めたのは知っているのか?」
「ええ、トラルザード様より聞きました」
「魔王トラルザード様とお会いしたのか!?」
「少しばかり、縁がありまして」
「そうか。では話が早い。メルヴィス様と一緒に目覚められた……」
「見付けた」
「見付けたね」
「隠れて何をしているのかな」
「しているのかな?」
「ねえ、殺っちゃう?」
「いいね、殺っちゃおう」
「今度は失敗しないようにしなきゃ」
「確実に殺らないとね」
「見つかったか」
「えっと、なんです? 物騒な会話が聞こえましたが」
「あれはジッケとマニー、メルヴィス様の副官だ」
「えっと、見えませんけど?」
「だれ、あれ?」
「だれだろうね」
「見られたね」
「見られたね」
「ついでに殺っちゃう?」
「ついでに殺っちゃおう」
そんな声が聞こえてきた。




