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小魔王メルヴィスは、ファルネーゼに「この鎖が見えないか」と言った。
だが、ファルネーゼは見えなかった。
メルヴィスの手が何かを持っている様子は分かる。
だが、いくら目を凝らしても、そこには何もない。
他にメルヴィスは、「魂を浄化しても剥がれない」というようなことも言った。
「呪」なのか「怨」なのか分からないが、いまだメルヴィスに絡みついているらしい。
「申し訳ございません……私には見ることができません」
結局、そう答えるしかない。
「よい。ジッケとマニーも見えないようだ」
いまメルヴィスが挙げた名に、ファルネーゼは覚えがある。
ジッケとマニーはエターナルインビジブル族であり、メルヴィスの副官をつとめている。
メルヴィスが長い眠りに入った直後から姿が見えなくなっていた。
もともと姿が見えない存在であるから、いなくなったというのが正しい。
一緒に寝室の中で封印されているのか、どこかへ行ったのだろうとファルネーゼは考えていた。
いまの話からすると、ずっと一緒にいたらしい。
「やはり見えないんだね」
「だね」
「!?」
ファルネーゼは周囲を見回した。
懐かしい声が聞こえた。
今のはジッケとマニーだろう。
エターナルインビジブル族は完全に透明であり、同族以外にその姿を見ることができない。
「探しているよ」
「いるよ」
「でも見つからない」
「見つからない」
ファルネーゼが、二人の副官の声を聞いたのは数百年ぶりである。
ほとんど存在を忘れていたと言っていい。
「ねえ、殺っちゃおうか」
「殺っちゃう?」
「殺っちゃおう」
「よし、殺っちゃおう!」
「これ、止しなさい」
メルヴィスがファルネーゼの右斜め後方を見て言った。
声は前方から聞こえてきたので、そちらにいると思ったのだ。
ファルネーゼは、驚いて後方を見る。
だが、何も目に映らない。
「殺っちゃ、駄目だって」
「駄目だって」
「じゃあ、どうする?」
「どうしよう」
「他のを殺っちゃう?」
「殺っちゃおう!」
メルヴィスには、この二人のことが見えているらしい。
見えない者を副官に雇っても意味ないのだから、当たり前かもしれないが、ファルネーゼとしてはなぜメルヴィスが見えるのか理解できない。
「おまえたち、ヒマなようだな」
嘆息しつつ、メルヴィスがそう語りかける。
「ヒマって聞かれたよ」
「聞かれたね」
「ヒマだよね」
「だよね」
「ならば南に行って、この国に攻め入ってきている者どもを根絶やしにしてきなさい」
「殺っていいって」
「殺っていいって」
「殺っちゃう?」
「殺っちゃう!」
「じゃあ行こう」
「すぐに行こう」
それっきり、声が途絶えた。
「……起き抜けから、退屈していたようじゃな」
やれやれとメルヴィスが言うと、ファルネーゼは安心の息を吐いた。
知らないうちに殺されてはたまらない。
それと、久し振りにあのノリを思い出したのだ。
ジッケとマニーは、敵味方の区別なく、死をまき散らす。
それはあまりに凄惨で、容赦のないもの。
あの二人は双子らしいが、姿を見たことがないので、ファルネーゼには判断つかない。
というか、あまり深入りするつもりはなく、いつも接触を避けていた。
「小覇王ヤマト様は、いまだお戻りになられないのでしょうか」
疑問に思ったことを聞いてみた。
ファルネーゼが直接メルヴィスから聞いた話では、小覇王ヤマトは死んでいない。
時期が来たら戻ってくるだろうということだった。
「いまだ時期ではないのだろう。高々数百年で情勢が変わるとも思えん」
「…………」
メルヴィスにとって、数百年は「たかだか」と表現される時間なのである。
あらためて、エルダー種の凄さを思い知るファルネーゼであった。
○ ワイルドハント ネヒョル
「……でさあ、これ、どういう状況?」
魔王トラルザードの町に天界の住人がやってきたらしい。
天界からの侵攻はすぐに撃退され、ボスと思しき者も倒された。
さすがに魔王が住む町と言ったところだろう。
潜入していた部下が、生命石を死体から抜き取り、ネヒョルのもとまで届けた。
エルダーヴァンパイア族になるために必要なもののうち、ひとつがこうして手に入った。
これでネヒョルはまたひとつ進化に近づいた。
あとは、魔王が持つ支配のオーブのみ。
ちょうど小魔王キョウカの台頭によって、それはすぐに手に入るところまできていた。
南方の国をそそのかし、キョウカに撃破させる計画は着々と進行していた。
すでに魔王への成長は秒読み段階に入っていたところである。
ネヒョルは隠れて、南方の小魔王をどう導くかを思案していた。
……ところが。
「あれ、何者?」
ネヒョルはまったく見ることができなかった。
ゆえに発見が遅れた。
気がついたら、ネヒョルが誘導していた小魔王たちが倒されていったのである。
姿が見えないことで、魔素量を推し量ることもできない。
だが、小魔王をあっさりと屠ったことから、相手の力量は自ずと分かる。
小魔王級ならば上位。もしかしたら魔王級かもしれない。
だがそれも目で追えなければ意味はない。
四小魔王のうち二体は倒され、残りの二体は命からがら撤退してしまった。
ネヒョルとしては「何なんだ」と嘆きたい気分であった。
「……あっ、思い出した」
ネヒョルがまだ小魔王メルヴィスの国に来て間もない頃。
メルヴィスの副官として、目に見えない双子が控えていると聞いたことがあった。
その双子は、メルヴィスが長い眠りに入ったあと、どことも知れずいなくなったとも、一緒に封印の寝室にいるとも、ともに眠りに入ったとも言われていた。
目に見えないのだから、真実を知る者はいない。
だが、その噂だけはしっかり流れていた。
「……もしかして、復活した?」
その呟きに答える者は誰もいない。




