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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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 さあて、俺と魔王の二回戦だ。

 前回はやられたからな。今回、そうは行かせない。何しろ俺は……。


「逃げるからなっ!!」

「なっ!?」


 身体に魔素を漲らせた状態で、俺は跳躍した。

 ここが空中庭園で助かった。


 壁を蹴り、三角飛びの要領で城の上までのぼる。


「こりゃ、ゴーラン! どういうつもりじゃ?」

 下でトラルザードが怒っている。そりゃそうだ。

 戦うと言っておきながら、逃げたのだから。


「軍師セイトリーは大したものだよ。よく思いつく。だから違和感を抱いた」

 俺は城のてっぺんに立ち、下にいる魔王を見た。なんか気分がいいな、ここに立つと。


「どういうことじゃ?」

「セイトリーが俺に祖国の話をした理由。俺が暴発すると睨んだだろ?」

「……そうじゃ。よく分かったの」


「そしてお膳立てまでされて戦うほど、俺もお人好しじゃねえ。勝手に駒にされたら怒るぜ」

「ぐっ、そこまで分かっておったか」


 トラルザードが歯を噛みしめる。

 ちなみに祖国の話を聞いて我慢できないのは本当だ。


 俺がこんなところでのほほんと暮らしている今も、オーガ族の村が襲われているかもしれない。

 仲間が必死に戦っていることだって考えられる。


 だから一刻も早く、国に帰りたい。

 そう思わせるのがセイトリーの狙いだった場合、何が考えられるか。


 俺は必死に考えた。

 軍師の考えを予想した。必死に予想した。


「俺は襲撃者ということにされて死んだ。だから塔に閉じ込められたわけだが、セイトリーは敵に対してこう考えたはずだ。仲間の襲撃者は戦いの最中に死んだらしい。だったらこちらの情報は漏れていない。安心だ」


「そうじゃ。その隙を突いて一網打尽にする予定じゃった」

 ワイルドハントと繋がりがある組織。情報を聞き出したあとは始末しただろう。


 もうあれから何日も経っている。

 足の速い連中を集めて襲撃をかけたら、もう終わっている頃だ。


 俺の予想だと、結果は空振り。

 ネヒョルもその部下も連絡役もすべて糸が切れてしまったのではないかと睨んでいる。


 そこでセイトリーは考えた。「ならば、もう一度同じ手を使うか」と。

 実は襲撃者が生きていたことにして、ネヒョルの出方を見ることにしようと。


 トラルザードと戦って逃げるあたりまで考えているのかもしれない。

 ワイルドハントの一員でなくてもいい。何でもいいから、逃げた俺に接触してくる奴を捕まえる。そのために、戦って逃げ出した事実が必要。


「俺を囮に使うつもりだろう?」

 それが俺が出した結論だ。


「まるで見てきたように言うな、ゴーランよ。本当にオーガ族から進化したのか疑わしくなるわい。……まあ、間違っておらん。分かった降参じゃ。我の負け。もう攻撃せんから、おりてくれんか。我がそこへいくと、城が崩れる」


 初回は不意打ちを喰らったが、今回は機先を制すことができた。

 実際に戦ってないが、一本取れたようだ。実戦だと負けるから、うまくいった方か。


 俺は空中庭園に降り立った。


「そこまでネヒョルを重要視している理由が分からなかったが、予想が合って良かった」

「お主はかなり洞察力が優れておるな。すぐに我の軍師になれそうじゃわ」


「知的なオーガ族ってのも流行るかもしれませんよ」

「……想像できんな」

 うん、俺も想像できない。


「で、どうしてそこまでネヒョルを問題視するんです?」

 言っては悪いが、たかが小魔王。魔王の敵ではないだろうに。


「うむ。お主が塔にいる間に、ワイルドハントと繋がりのある集落を急襲したのじゃ。そこで捕まえた者を尋問した。大した成果はなかったが、ネヒョルの目的がいくつか分かった」


「ほう。ネヒョルは俺の国にいた頃から、訳の分からないことばかりやっていましたが」


「行動原理は至極単純。本人がエルダーヴァンパイア族になることを目的としておる」

「それは城から盗まれた手記から、だいたい想像が付きます」


「進化に必要なものは魔王級の支配のオーブらしい。他にもあるようじゃが、ネヒョルが狙っているのは魔王の命そのものであった」


「小魔王が魔王の支配のオーブを狙うんですか?」

 なんて無謀な。


「我が戦えば、百ぺんやってもすべて勝つ。ネヒョルの目的は支配のオーブであるので、なにも強力な奴を倒す必要はないのじゃ」

「なるほど。『なりたて』を狙うわけですね」


 小魔王から魔王になるとき、身体に変調がおきるかもしれない。

 特殊技能がうまく使えないかもしれない。


 それらすべてできたとしても、力は全魔王中で最低だろう。

 下克上するにはうってつけだ。


「それゆえ、わが国の西で暴れておったようじゃ。小魔王どもをたきつけて魔王へと成り上がらせるつもりだったらしい」


「なるほど。だからあそこにいたんですね」


 俺に邪魔されたが、あれは俺も死にかけた。

 ネヒョルを斬ったことは後悔していない。

 というか、殺す。


「ネヒョルが魔王を倒し、エルダーヴァンパイア族に進化すれば、おそらく魔王級。新しい魔王の誕生じゃ」

「あり得る話です」


「そして次に狙うのは、大魔王に成り上がることであろう」

 ネヒョルが魔王から大魔王へ? あり得るか? あり得そうだな。


「でも、そっちは大変ではないですか?」

 トラルザードですら魔王止まりなのだ。大魔王になれるのか?


「セイトリーが言うには、小魔王のときと同じ事をするじゃろうと。つまり、多くの魔王国を巻き込んで戦乱を起こし、自分が喰っていく」

「あー……」

 あり得る。すげー、やりそうだ。


「そうするとわが国も無縁ではいられん。魔王どうしの戦乱に必ず巻き込まれる」

「この周辺に四つの魔王国がありますからね。理想的な環境でしょう」


「ゆえにネヒョルが魔王に……エルダーヴァンパイア族になってからでは遅いのだ。その前に奴を見つけて葬り去ろうと思ったわけじゃ」

 それで俺を囮に利用したと。


 ネヒョルは情報を重視する。

 トラルザードのところから逃げてきたと分かれば、魔王がどこまで知っているか、知りたいに違いない。


「俺と戦って、わざと逃がそうとしましたね」


「うむ。仕方ないのじゃ。いまネヒョルはお主の国を含めたあの小魔王国家群に狙いを定めておる。魔王を作り出し、刈り取るために裏で糸を引いておるのじゃ」

「だから手伝えと?」


 理屈は分かったが、軍師のいいなりになるのは癪だ。


「ネヒョルの野望を阻止したら、お主の国には援助をしよう」

 魔王が後ろ盾? おいしい話だな。


「俺は一介の兵卒なので、そういう話は将軍としてください。俺は俺でネヒョルを追います。その前に国に帰らないと……」


 そこまで言ったとき、地面が揺れた。


「なんじゃ!?」

 驚くトラルザード。城には俺でも分かる結界を張ってあるのだ。

 簡単に揺れるはずがない。


 俺はこの感覚に覚えがあった。


「天界からの侵攻……来るのか?」


 そう言えば、聖気の杭が見つかったって聞いたなと、何日か前の話を俺は思い出していた。



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