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やばい情報だけ伝えて、セイトリーは帰っていった。
おそらく今も、城のどこかで情報を集めているのだろう。
「……しかし俺の国周辺は、相変わらず戦乱が絶えないな」
どこかに疫病神がいるんじゃなかろうか。
問題は小魔王キョウカが、魔王への階段をかなりのところまで上ってしまっていることだ。
小魔王ファーラを破ったキョウカは、小魔王レニノスを撃破して魔王へと成り上がる予定だったはず。
ところが、ちょうど同じ頃にレニノスが斃れ、その道が閉ざされた。
レニノスを破った者をさらに撃破すればいいのだが、相手の情報はない。
当たり前だ。
魔王トラルザードからの援軍というのは伏せてある。名前すら出回ってないと思う。
キョウカが分かっているのは、相手がレニノスより強いということだけ。
キョウカがファーラを無傷で撃破したわけではないだろうから、警戒して当然。
傷を治すことを優先したのは正しい。
貴重な時間ができたので、俺たちの国も準備を……と思ったら、小魔王国群の戦いに巻き込まれたとか。
というよりも、四カ国合同で攻められているとは、どんな罰ゲームなんだか。
おそらくレニノスが撃破された情報が伝わったのだろう。
キョウカを破るには、南の小魔王国群を制覇する必要がある。
俺たちやられるの? だったら先にやってしまおうぜ!
そんなことを考えているのかもしれない。
まったくもって、魔界はどこもかしこもヒャッハーしている。
セイトリーが俺の元を去ってから五日が経った。
俺は相変わらず、塔の中にいる。
何もすることがないので、自主鍛錬をしているが、成果があるのかどうなのか。
一応、敵の魔素を吸収する技を身につけようとしたり、身体に魔素を巡らせたり、魔法が使えないか試してみたりして過ごしている。
「……おい、どうした? こんなところで」
塔の最上階で黄昏れていたら、ヨルバがやってきた。
砂鎧族のヨルバは、外見に似ずお人好しのようで、なにかと俺を気に掛けてくれている。
「いつになったら、ここから出られるんだろうなと思ってな」
ヨルバにそれを告げるのは、何度目だろうか。
「それは陛下に聞いてみるしかないな。俺たちではどうしようもない」
ここに常駐している者はみな上位種族ばかり。それでもどうしようもないことはある。
塔を厳重に守っているのだから、ヨルバたちはみな強い。
侵入者が勘違いして襲ってくるので、それを返り討ちにするのが仕事だ。
俺も一度、手伝ったことがある。
あれはなかなか楽しかった。
「おまえは悩み過ぎだぞ。どうだ、組み手でもするか?」
最近、俺がヨルバに組み手を教えたら、こうしてよく誘ってくれるようになった。
組み手とは、お互い一定の距離に立ち、足を動かさずに上半身だけで打ち合うのだ。
当然技術を身につけている俺に軍配があがるが、天然の鎧に身を守られているヨルバを打ち崩すのは容易ではない。
俺の鍛錬にもなる。
「そうだな。たっぷりとシゴいてやろう」
「前みたいにできると思うなよ」
組み手はその場で出来るのが強みだ。
広い場所は必要ない。
俺はヨルバと技の応酬をしながら、この前セイトリーが話した内容を反芻していた。
わざわざ単独で来て、俺の国の話をしていった。
セイトリーのことだから裏があると踏んだので、慎重に話を聞くことにした。
(あのタイミングで俺に話した意図はなんだ?)
これがずっと気になっていたことだ。
単純に親切心ということも考えられる。だが、そうでなかった場合。
(何かの策があるわけだよな……)
たとえば俺が我慢できなくなってここを抜け出すとか。
トラルザードが嬉々として追っ手を差し向ける?
だが本気になった俺を倒せる者はそういないはず。
戦えば周囲に大きな被害を与えるだろうし、優秀な部下を失うことも考えられる。
しかも俺が抜け出すかどうかも分からない。それに備えるのは下策だ。
(では一体なにを目的としている?)
焦って俺が動き出すのを待っている?
魔王トラルザード配下の軍師なのだから、魔王の意に沿う形、しかも国益になることを考えているはず。
「うーん、分からん」
「参った。降参だ」
言われて気がついた。いまヨルバと組み手の最中だった。
見たら、ヨルバの顔が腫れ上がっていた。
「あれ? 終わった?」
「終わった? じゃねーよ。バカスカ殴りやがって!」
「あー、覚えていない」
ずっと考え事をしていたから。
「マジか……俺が本気で頑張ったってのに……」
ガーンとした顔をしつつ、ヨルバがヨロヨロと部屋を出て行った。顔を冷やしに行ったのだろう。
悪いことをした。あとで謝っておこう。
おそらくセイトリーは何か意図をもって俺に近づいたはずだ。
セイトリーが知っていて、俺が知らない情報がまだあるのだろう。
「破片が揃わなきゃ、絵は完成しないか」
そのとき、俺はどう動くべきなのか。
それから二日後。
メシを運んできた兵から、ヨルバが外の情報を聞いてきた。
塔の周辺は高い塀に守られていて、監視の者もいる。
食事を運ぶ者はローテーションがあるものの、みな顔見知りであり、ヨルバはよく兵と雑談している。
「どうやら、町の周辺で『聖気の杭』が発見されたらしいぞ」
「聖気の杭? ああ、あれか」
天界が魔界の情報を得るために打ち込んでくるやつ。
魔界に打ち込まれた杭は、数日から五日ほどで塩に変わる。
その間に魔界の情報を天界に届けている。
最初は周辺の地理。そこが海なのか、川なのか、森なのか、砂地なのかを届ける。
次に魔素の濃度。周辺に魔界の住人がいるのか、いないのか。瘴気地帯ではないのか。
そして未確認だが、聖気の杭には特定の魔素を持つ者を探す力もあるという。
強大な魔素を所有している者や、特定の魔素を持つ者。
おおまかであれば、種族すら分かるとも言われている。
これらはみな、堕天した者からの情報だ。
天界の住人は聖気の杭によって大まかな魔界の情報を得ることができる。
それが打ち込まれた。
杭一本こちらに送るだけでも、かなり大変らしい。
つまり、天界は本気でやってくるつもりがある。
「忙しくなるな」
絶対に何かが起こる。俺はそう確信した。




