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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
215/359

215

 俺はいま、塔の中でダラッと過ごしている。

 魔王トラルザードから、もうしばらくここにいて欲しいと言われたからだ。


 断る理由はないし、俺が泊まっていた宿はすでに引き払われているという。

 俺の存在を消すために、軍師セイトリーがいろいろ手を回しているようだ。


「元気していますか?」


 当のセイトリーだが、いま目の前にいる。

 トラルザードとの会談を終えて今日で三日目だ。


 巡回兵に紛れて、セイトリーがやってきていたりする。

 なんでも、普段からこうして城内をうろつき回って情報を集めているらしい。真面目なことだ。


 ちなみに今回セイトリーが行った軍師死亡の噂。

 一般には隠しているらしい。考え方がちょっと面白い。


「元気と言われてもな……退屈でしょうがない。そっちは順調そうでなによりだ」


 セイトリーは、俺とトラルザードの戦いを利用して、自身の死を印象づけた。

 俺も協力しているのだから、うまくいってもらわねば困る。


「おかげさまで偽装は順調です。この国を探っている者たちは多いですが、塔に私がいると考えています。目端が利く者は真実に気付くでしょうが、ではどこにいるのか、捜索しきれるわけがありません。調査能力のある者もいますが、その者たちこそ偽装に引っかかってくれます」


 そう。つまり軍師の死を隠しているからこそ、セイトリーが死んだという情報を持って帰るわけだ。隠蔽が三段構えなのだ。


「それで俺はいつ頃ここを出られるんだ?」

「もう少し待ってもらいたいのです。陛下が戦った余波で、いま周辺国の注目が城に集まっています」


 取り締まっていないが、商人を出入りさせている国がいくつもあって、彼らはこの町で情報を集めているという。


 いま城から無関係な俺が出てくると、先の戦闘と関連づけられる可能性があるし、コソコソと城を出ていったら、逆になにかあると勘ぐられる。


 注目度が低くなるまでこのままでいてほしいのだという。


「と言われてもなぁ……」

 ここにいると何の情報も入ってこない。

 俺は自分の部下とか、国のことが気になるのだ。


「そう言うと思いまして、小魔王メルヴィスの国についての情報を持ってきました」

「おっ、そいつは助かる。ちょうど知りたいと思っていたんだ」


 不満を述べたらすぐにこれだ。

 さすが軍師、手玉に取られている気がする。


「小魔王キョウカの台頭は私たちも無視できない問題ですからね」

「それで、いまどんな感じなんだ?」


「キョウカはファーラを破ったあと、進軍をストップさせました。おそらく深手を負ったのでしょう」

「なるほど、無傷で倒せる相手ではなかったか……あっ、そうか。短期決戦か」


 小魔王ファーラもまた、魔王への階段を上り始めていたのだ。

 本来ならば少しずつ力を蓄えつつ、敵の勢力を削りながら優位に進めていくのが常道だ。


 だが俺がキョウカの噂を聞いたときにはもう、ファーラを倒した後だった。

 なぜそんな急ぐことをしたのか。ファーラのとなりにはレニノスがいる。


 急に台頭してきたキョウカを疎ましく思うならば、一時的に手を組むこともあり得るのかもしれない。

 なんにせよ、犠牲を覚悟で短期決戦した方がよいとキョウカは判断したのだ。


 だがメラルダ将軍から聞いた話では、俺たちの部隊と交換した部隊が、レニノスを破ったはずだ。

 すると、キョウカの国と俺の国がぶつかることになるのか?


「ファーラに勝った勢いのまま、進軍するわけにはいかなかったのでしょう。奪ったファーラの地は部下に任せて、一旦軍を引いたようです」


「ということは俺の国は無事か」

 ファーラが敗れたので、キョウカの支配国は五つか六つになっているだろう。

 このままキョウカが魔王になってもおかしくない。


 だが、キョウカが軍を引いた。これには意味がある。

 深手を負ったのかもしれない。怪我が軽いかもしれない。その辺は分からない。

 ただキョウカは考えたのだ。


 ――このままレニノスを破った者と戦いたくない


 妥当な判断だ。よほどの阿呆ではないかぎり、そうする。

 負ければ全てが失われるのだ。


 しかも相手はレニノスを破った者。

 自分も敗れる危険があったから、傷を治すのと情報収集に入ったのだろう。

 これなら、しばらくは小康状態かな。


「いま危機を感じている国はどこだと思います?」

 そんなことを言われたが……どこだろ。


 周辺の小魔王国はみな危機を感じているんじゃなかろうか。


「キョウカの目的は魔王になることだから、傷が癒えたら必ず小魔王国と戦争だ」


「そうです。レニノスとファーラの争いだったはずが、レニノスもファーラも斃れました。残ったのはキョウカと、正体不明の者です。しかもそれはレニノス以上の脅威として皆の目には映っているはずです」


 実際はメラルダ将軍の配下なのだが。

 今さらながら、かなり強力な者を貸し出してくれたものだ。


 おそらく将軍の補佐役とかなのだろう。


「小魔王国がとる行動といったら……戦争?」


「察しがいいですね。周辺の小魔王国が脅威を感じています。クルルの国、ロウスの国、ルバンガの国、ナクティの国が手を結びました。メルヴィスの国に攻め込みました」


「一度に四ヶ国と戦争?」


「小魔王国はそれだけ追い込まれているのでしょう。そしてこの戦争、メルヴィスの国が小魔王国をひとつ滅ぼしただけで、キョウカは傷が癒えようが、癒えまいが攻めてくるでしょう。向こうだって、メルヴィスの国が力を付けるのを座して見ているはずがありません」


 他国の攻略途中で、背後からキョウカの軍を受けざるを得なくなる。

 攻められたからといって、相手国に軍を持っていくのは危険だ。

 とくに呑気に一国ずつ攻略するわけにはいかない。


 キョウカが自国に引きこもった今だからこそ、なんとかしなければならないのか。

 だが、レニノスを屠ったのはメラルダ将軍から借りた軍だ。

 いつかは自国に戻る。


 そもそもレニノスを倒したんだからお役御免になっている?

 そのへん、どういう契約になっているんだろう。


 後ろにキョウカを抱えて四カ国と戦争か。

 大変過ぎないか。


「……というか俺の国、詰んでいる?」


「はい。このままですと」

「……マジか」


 そうだよな。

 守るも打って出るもヤバい。

 戦力の中で一番強いのが借り物の軍隊って……。




 マジヤバいかも。



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