ストーカーと治療院
引き続きナツメ視点
「レル、カル! 大丈夫ぅうううううう!?」
「だ、誰ですっ!?」
「不審者……?」
治療院の一室。
いきなり大声で部屋に突入してきた青髪の女性はベッドで横になっているレルとカル目掛けて突進――。
「落ち着いてください、ユリーグル様」
――するのを襟を掴んで止めたのはシンシア。怪我人に目掛けて突進しようとするナツメを止めたのは、やはり包帯に巻かれて安静にしているレルとカルの怪我への配慮と、ユリーグルのままの姿で彼女たちと説明無しに会わせるのは混乱が起きてしまうと考えたためだろう。
ナツメもシンシアに引き止められてから我に返る。治療院に来る前に二人で確認した内容は「慌てず騒がず静かに」であり、受付の女性からもそれは言われていたはずなのだが、レルとカルを目にしたナツメがすぐにその決まりを忘れ飛び出したのはシンシアにとっては想定済みともいえることだ。そのために引き止めたご主人様へ落ち着くよう宥める。
「ごめんなさいシンシア。二人が無事なのは分かっていたけど、それでもすぐにでも容態を確認したくなるのが親心というものだと思うの」
親心などと一人でも子供を生んだことも無いナツメがそれを言うのはお門違いだ。などと無粋な事を言う者は一人もいない。実際にナツメは彼らを実の子供のように思い、人には真似出来ない様な大きな支援をしてきたのだから。まして孤児院の子供たちを実質引き取って育てているのだから、親と自称しても何ら変ではないだろう。
「それでも突進するのは良くないかと。変身を解き、ご主人様の姿を見せてレルとカルを安心させることが第一かと存じます」
「そ、それもそうね、今の姿のままだと分からないわよね。『物真似師の休日』
」
ナツメが魔法を唱えるとユリーグルの青色だった髪は綺麗な黒髪へ、そして見る見る内にいつも通りにナツメへと変身が解けていく姿をレルとカルは唖然として見ている。
「あっ……」
「ナ、ナツメねぇ、なのです?」
「そうよ、貴女たちの事をとてもとても愛しているナツメお姉ちゃんよ! それにしても、ああ、なんてこと。こんなに包帯なんか巻いてしまって……傷は大丈夫? 痛みはない? 我慢しないで私に言っていいのよ。ほら怖かったでしょう、ギューって私に抱き付いていいわ」
人攫いに襲われ全身傷だらけ、未来を閉ざされる寸前だった彼女たちを慰めて安心させるには、母親の如き優しさと、女神と評しても相違ない程の上限なき愛情を持ってレルとカルを撫でまわし、抱き包み、安らかに胸元へ……。
「ナツメねぇ、こんな時までするです?」
「私たちけが人……自重する」
「あ、あれ……?」
な、なんでこの子達は私をジト目で見つめてくるの? そんないつもみたいなスキンシップ多めの我侭なお姉ちゃんを仕方なく見つめる様な。仕方ない人だなと本気で思われているようなそんな目、空気が漂っているのだけど!? なんてこと、私はレルとカルにまで私自身の欲を一番に優先するダメ女みたいに見られてる!?
「ち、違うのよ!? 私は怖い思いをした貴女たちを存分に慰めようとしただけで、いつもの身体中を犯罪者みたいに撫で回すようなことはしないわよ!?」
「つまり、いつもやっているあのナデナデは犯罪だと思っているです?」
「自分で分かっていながら……怖い」
「んにゃ!?」
ま、まさか私が墓穴を掘ったと言うの!? 完璧に小さな子に近付き続けたこの道のプロである私が……? で、でも確かに最近の皆へのスキンシップはちょっとやり過ぎかなぁと思ったりもするし、元世界から考えたら完全に事案……。スキンシップだと言い張れば幼女のフトモモでもお腹でも胸でもほっぺでも髪でも足裏でも脇でもなんでもござれの異世界なのだからと吹っ切れている部分は確かに否定できない。異世界だから法律も無いしやってもいいだろう。むしろやらない方がおかしいという謎の先入観と認識の甘さが今の状況を生んでいる……。
いつしかレルとカルだけでなく、他に部屋で待機していたレルとカルを治療院まで運んでくれた侍女たちも、ナツメを我侭な仕方ないお嬢ちゃんを見るような目で見てきて……。ああ、やめて! そんな可哀想と不思議なものと、若干引き気味な感じの表情で私を見つめないで!
彼女たちは屋敷でもナツメとは接点が少なくは無いが多くも無い侍女たち。このような幼女にスキンシップを求めはっちゃける姿を見るのは珍し……くもないが、見慣れてもいないだろう。そんな彼女たちからの視線を受けるのは何か恥ずかしい!
「そこまでにしなさい、ご主人様は心外だとのことですよ。人攫いに襲われ心も体も傷ついたレルとカルを本気で心配して、身を貸して慰めようとしていたのです」
そんな空気の中、いきなりのシンシアの言葉に一同はぴしゃりと背を伸ばす。それは微々たる怒気の察知。この部屋にいるナツメ以外の人間がシンシアを見つめて背中に冷や汗を流した。
「あぅ、ごめんなさいです」
「もう言わない……ナツメぎゅーして」
「ふふ、いいわよ。ほら、ぎゅー」
シンシアが注意した途端にこの変わり身具合、やっぱりすごい影響力だなぁ。と感じながらレルを抱きしめる。うんうん、やっぱりレルは素直で超可愛い! 本当はこうやってぎゅーってしたかったんだよね? うんうん、大丈夫だよ。
レルを傷が痛まないように優しく抱き包む。背中をさすってやり、頭にキスを落とす。
「ナツメおねえちゃん……好き」
「私も大好き、食べちゃいたいくらい」
「あっ、ずるいです! カルも、カルも!」
二人ぎゅーっと抱き合ってレル成分を補給していると、カルも包帯まみれの身体のまま突進してきた。抱き合う二人の、というより私の腕を引っ張って片方をこじ開けようとする。
「こーら、安静にしていないとダメでしょう? でもほら、ぎゅー!」
片腕を広げてカルを引き込んで、レルもカルも両腕で包み込む。柔肌の暖かさと包帯のザラザラが肌につく。彼女たちはやっぱり私の愛おしい子たちだ。そして愛おしい子達が包帯姿になっている事が余りにも許せない。この報復はすでにほぼ済ませたとしても内に秘めた怒りが消えることは無い。この憤りは他に誰にぶつければ良いのかしら。
*************
ひたすらに彼女たちを抱き癒した、もとい癒された後。
私は彼女たちに告げる。
「いいかしら、レルにカル? 怪我が治るまで当分は運動は禁止、それと怪我が治っても屋敷の敷地から出ることも禁止よ。当然魔物狩りに街の外なんて持っての外。期間は私が良いと許すまでね」
「ええぇー、です!」
「ぶーぶー……」
レルとカルの身を案じてとりあえず謹慎を言い渡したが、彼女たちはご不満な様子。プクッと頬を膨らましてこちらをジト目で睨む、彼女たちなりの抗議のつもりなのだろう。
やれやれ、あんなに怖い思いをしてもまだ外に出たがるなんて、どれだけ図太い神経をしているのかしら。私なら外に出なくて済むし子供たちと遊べるし良い事尽くめだから、ウェルカム謹慎なんだけど。まぁレルもカルもまだまだ幼い子供。折角魔物も倒せるようになってこれから始まりだって時に禁止にされるのも面白くないんだろうなぁ。
「そんな不満な顔されても可愛いだけよ。……でもそうねぇ、ずっと外に出ちゃダメって言うのも可哀想だし、一つ条件でも考えておくわ」
「条件、です?」
「なに……それは」
「んふふ、それは屋敷に帰ってからのお楽しみ。ほらまずはその怪我を治して退院してからね。ほらそんな顔しないで、大丈夫無理難題なんて言わないわよ。でも私も貴女たちの事が本当に心配なの。また怪我なんてしたら心配のし過ぎで私が倒れちゃうかもしれないわ、だからそんな思いを私にさせないためにも、言う事を聞いてくれたら嬉しいな」
レルとカルに寄り添って二人の頬を撫でる。私の言葉を聞いて何を思ったのかは私は知らないが、さっきまで落ち込み気味だった顔つきはすっかり無くて、何かを決心したように私の事を見つめ返して……何この子達めちゃ可愛いんですけど!
「わかったです。ナツメねぇに心配させないように頑張るです!」
「うん……」
「二人ともありがとう。よし、じゃあ今日は私もここにお泊りしちゃおうかな! シンシア、院長のところに行って宿泊の許可を取ってきて」
「承知いたしました、部屋が身内だけになるようすぐにこの部屋の寝具を全て押さえます。ジェミー、本日のご主人様の御付きの侍女もすぐこの治療院まで呼び寄せるように。それではご主人様、少々お待ちください」
そう言ってシンシアはすぐに部屋を出る。続けて仕事を任されたジェミーも私に頭を軽く下げてから部屋を出て行った。そんな様子を見た二人の幼女から洩れた声。
「凄いカッコいいです」
「うん……テキパキしてる」
彼女たちはどうやら侍女たちに憧れも抱いているのだろうか。そういえばカルは侍女見習いになっていたはずだ。シンシアに憧れてなろうと思ったのだろうか。まぁそれもその内聞いてみようかな。とりあえず今は可愛い可愛いこの子達の心の傷をもっともっと癒してあげなきゃね!
「レル、カル、ほら今日はナツメお姉ちゃんにいーっぱい甘えて良いんだよ?」
「仕方ない、です」
「やった……もっとぎゅーして」
口数とは反対に素直すぎて可愛いレルと、顔を赤らめながらも素直じゃなくて可愛いカル。どちらも私の宝物だ。今度からは絶対に怖い思いなんてさせないからね。そのためにも……。
進みが遅いような気がしますが、定期的に幼女とスキンシップを取らないといけないんです。物語に必要です。




