Sクラスの面々
レインとガイアスの模擬戦が終わった後も、授業はそのまま続いた。
「終わりじゃないぞ」
ロイドが気怠そうに言う。
「むしろここからだ。Sは一人じゃない。全員見せろ」
ガイアスが悔しさを滲ませながら席へ戻る。
教室の空気は、少し変わっていた。
レインを見る目に、侮りは減った。
代わりに増えたのは、警戒と興味。
それでも“得体が知れない”まではいかない。
派手ではなかった。
だからまだ、理解の範囲に収まっている。
都合がいい。
「次。エドガー、セシル」
呼ばれて前に出たのは、茶髪の大柄な少年と、小柄な少女だった。
エドガー・ベルン。
十一歳。
子爵家三男。
土属性。
背が高く、肩幅も広い。
魔導士というより騎士寄りの体格だ。
対するセシル・ノアは十歳。
小柄で栗色の髪を肩で切り揃えた少女。
風属性。
細い指先が落ち着きなく揺れている。
「始め」
エドガーは堅実だった。
土壁を前に出し、守りながら詰める。
対してセシルは風で距離を取る。
牽制、回避、牽制。
丁寧だが、火力が足りない。
エドガーの土壁を崩せず、じりじりと追い詰められる。
「《土杭》」
床から突き出た土柱が、セシルの足元を止める。
動きが止まった一瞬で、勝負が決まった。
「終了。エドガー」
堅実な勝ち方だった。
「守って詰める。悪くない」
ロイドが言う。
「セシル、逃げるだけじゃ勝てん」
セシルは悔しそうに唇を噛みながら戻る。
「次。ダリオ、ユナ」
前に出たのは、眠そうな目の少年と、白衣じみた上着を羽織った少女だった。
ダリオ・ヘイン。
十歳。
水属性。
気怠そうで覇気がない。
対するユナ・フェル。
九歳。
魔法医療課程志望から編入してきた変わり種。
本来なら医療寄りだったが、魔力精度が高く魔導へ回されたらしい。
属性は水。
同属性同士。
「始め」
地味な戦いだった。
水同士。
派手さはない。
だが、精度が高い。
水弾、水膜、水流。
互いに小さく削り合う。
その中で目を引いたのは、ユナだった。
「《水針》」
細い。
異様に細い水の針。
火力はない。
だが精度が高い。
ダリオの術式の継ぎ目だけを狙って崩す。
「へえ」
ミレナが小さく感心する。
「嫌らしい」
実際その通りだった。
弱い。
だが厄介。
ユナは火力不足だが、術式の継ぎ目を突くのが異様に上手い。
結局、総量差でダリオが押し切ったが、印象は残った。
「ダリオ、出力頼り。
ユナ、火力不足。だが嫌がらせは上手い」
ロイドの評価は雑だった。
ユナが少しだけ頬を膨らませる。
「嫌がらせって言わないでください」
「褒めてる」
「褒め方が嫌です」
教室に少しだけ笑いが漏れた。
「次。オルド、リナ」
前に出たのは、痩せた長身の少年と、背の低い少女。
オルド・ゼイン。
十一歳。
風属性。
細身で神経質そうな顔つき。
ガイアスに少し似ているが、こちらの方が落ち着いている。
対するリナ・マルシェ。
九歳。
土属性。
小柄で、ぼんやりした目の少女だった。
始まってすぐ、オルドが風刃で押す。
速い。
正確。
だが決定力に欠ける。
対してリナは、土壁も張らず、ぼんやり立っていた。
「何してんだあいつ」
ミレナが呆れたように言う。
次の瞬間、オルドの足元が沈んだ。
「え」
床が、泥になっていた。
いつの間にか。
「《泥沼》……」
リナがぼそっと言う。
遅い。
小さい。
地味。
だが、厄介だった。
足が沈み、オルドの機動が死ぬ。
風の強みを潰された瞬間、勝負は決まった。
リナは土槍を一本だけ出して、オルドの喉元へ向ける。
「……おわり」
静かに告げる。
教室が一瞬、静まった。
「……地味に嫌ね」
フィオナが初めて小さく漏らす。
ロイドが頷く。
「遅い、地味、火力なし。だが相手は死ぬほど嫌だ」
リナは少しだけ嬉しそうに席へ戻った。
レインは静かに教室を見回す。
Sクラス。
上はフィオナやミレナ。
頭ひとつ抜けている。
その下に、エドガーやダリオ。
堅実で、優秀。
さらに下に、セシル、ユナ、リナ。
まだ弱い。
だが、特徴がある。
そしてガイアス。
実力はあるが、頭に熱が乗る。
Sクラスは完成された集団ではない。
尖っていて、歪で、未完成だ。
だからこそ、面白い。
ロイドが教壇へ戻る。
「今日の授業は終わりだ」
生徒たちが息を吐く。
「明日から座学と実技を半々で回す。Sは課題も多い。泣くなよ」
面倒そうに言いながら、ロイドは書類をまとめる。
その時、ふと振り返った。
「あとレイン」
教室の空気がまた少し止まる。
ロイドは眠たげな目で、レインを見る。
「お前、放課後残れ」
ざわ、と空気が揺れた。




