女の子みたいなクレハ
扉が開き、二人が帰ってきた気配がした。
「あっ、おかえり!」
いつものように駆け寄ってみると、様子がおかしい。イリスの後ろにクレハが隠れていた。
「えっと……どうしたの?」
「ほら、クレハ。前に出てください」
「う、うぅ……」
不思議に思って尋ねると、イリスが困った顔をして後ろにいるクレハに話しかけた。だけど、クレハは唸るだけで前には出てこない。
しばらくそのままで待っていると、おずおずとクレハが前に出てきた。耳をパタンと閉じ、尻尾を丸めて。
「どうし……あぁっ!」
しょぼくれた顔から視線を下に動かすと、その服が盛大に破けているのに気づいた。
「ど、どうしたの、これ!? まさか、魔物にやられた!? 怪我、怪我は大丈夫!?」
こんなに服が裂けているのだから、きっと大けがをしたに違いない。痛い思いをしたんじゃ。怪我は治った? 気分は大丈夫?
「大丈夫です。怪我はほんのかすり傷で、私が治しました」
「そ、そう……良かった……。じゃあ、どうして、こんなに服が裂けているの?」
「それは、クレハが調子に乗ったからです」
イリスが少し怒り口調でクレハを睨みつけた。
「体の調子がいいからって、戦闘中に激しい動きをしたんです。そしたら、服が木に引っかかって、見事に破けました」
「あ、あぁ……。そういえば、今朝はテンション高かったなー……」
思い出せば、今朝からクレハのテンションは高かった。体調が良すぎて、どうやら無茶な事をしてしまったようだ。
「あれほど私が気を付けてって言ったのに、クレハったら調子に乗って……。もう、何度言えば分かるんですか?」
「ご、ごめん……」
「絶対に心から謝ってないですよね。クレハったら、いっつもそうです。また、繰り返すんですよね」
クレハが項垂れて謝っているのに、イリスは許さないとばかりに怒っている。これは相当だ。
「ま、まぁ……イリスもそれくらいにして。それにしても、こんなに服が破けちゃったら修理は出来ないかも。仕立て屋に行って、新しい服を仕立ててもらおうよ」
創造魔法で作り出すことは出来るけれど、私たちはもうクレアさんのファンだ。クレアさんが考えて作る服しか考えられない。
「それが、一番いいですね。それまで、服はどうします?」
「私の創造魔法で作った服を着ればいいよ。ちょっと待って、今出すから」
すぐに魔法を発動させる。どんな服が良いか考えていると――ふと、クレハのズボンがひらひらと揺れているのを見てしまう。
そういえば、クレハの服といえばシャツにズボンばかり。男の子に見える服装ばかりだった。たまには女の子の服を着ているところも見てみたいけれど、クレハはそれを拒否する。
今は服がなくて困っている状態だから、どんな服でも着ないといけない。ということは、合法的にクレハに女の子の服装をさせることが出来る。そんな魔が差した。
「……イリス、ちょっと」
「なんですか?」
イリスを呼んで耳打ちをする。クレハに女の子の恰好をさせる絶好の機会じゃないか、と。
すると、イリスがこっち見て目を輝かせて頷いた。……よし、やろう。
「クレハ、ちゃんと反省していますか?」
「も、もちろんだぞ! もう、絶対に調子に乗らない!」
「だったら、クレハが調子に乗らないように、しばらくこの恰好になってもらいます」
イリスがそう言うと、私は創造魔法を発動させた。手元が光り、服が作られていく。その光りが収束すると、その手元には一着の赤いワンピースと白いレースのリボンが作られた。
「なっ!? そ、それは!」
「女の子らしい恰好なら、クレハも無茶なことはしませんよね?」
イリスがにっこりと笑ってワンピースを差し出す。クレハはそれを見て、戸惑いに目を泳がせる。
「いや、流石にそれは……」
「ズボンが動きやすくて無茶をするのでしたら、スカートにして動きにくくするんです。それだと、少しはお淑やかにしてくれますよね?」
イリスの強い圧がクレハに注がれる。クレハは戸惑ったのち、苦しそうに顔を歪めると諦めたように頷いた。
よし、これでクレハの見た目を女の子に出来る。私たちは心の中でガッツポーズをして、早速クレハを着替えさせる。
破れた服を脱がせ、ワンピースに腕を通してもらう。しっかりとボタンをしめ、皺を伸ばす。そして、離れたところから見ると――。
「うぅ……恥ずかしい……」
いつも男の子の服を着てやんちゃだったクレハの姿が、立派な町娘の恰好になった。
「わぁ、クレハ! 似合うよ、可愛い!」
「か、可愛い、言うな!」
「ちゃんと可愛い女の子ですよ!」
「だから、可愛いっていうな!」
私とイリスはクレハの姿を見てハイテンション。服が変わるだけで、クレハはいつも以上に女の子に見える。
「じゃあ、次は髪を結ってリボンをつけましょう。絶対に可愛いです!」
「クレハはこっち!」
「ま、まだやるのかー!?」
クレハの手を引っ張って、ダイニングテーブルの椅子に座らせる。一本結びの紐を取ると、ブラシを持ってくる。
「クレハの髪はフワフワして気持ちいいんですから、もっとちゃんと梳かせば綺麗になりますよ」
「別に綺麗に拘っているわけじゃないしな……。ちょっと、髪の毛がはねていたほうがカッコいいだろう?」
「なるほど、そこにはクレハなりの拘りがあったんだ。でも、クレハの髪って癖っ毛みたいだから、それを生かすっていうても……」
「でも、今ははねがない綺麗で真っすぐな髪が見てみたいです」
イリスは慣れた手つきで髪を梳いていく。すると、はねていた毛が真っすぐになっていく。
「うん、綺麗な感じですね」
「うぅ、なんだか落ち着かない。髪の毛をわしゃわしゃさせたいぞ」
「じゃあ、編み込みをして、頭の上でお団子にするのは?」
「いいですね、それ。可愛いですし、髪の長さも分かります。ノアは反対側を」
「分かった」
うずうず体を揺するクレハを置いておき、私たちは頭の横から髪を編み込みしていく。それが頭の後ろまでたどり着くと、前側の髪と一緒にひとまとめにしてお団子にしてリボンで結ぶ。最後に髪の流れを整えて、離れてみてみた。
すると、そこには――いつも以上に女の子らしくなったクレハがいた。
「クレハ、可愛いよ! 似合ってる!」
「可愛いって言うな!」
「こうして姿を整えば、クレハもちゃんと女の子に見えますね」
「この恰好は似合わないぞ……」
「「全然似合う!」」
「そ、そうか?……でも、ウチはいつもの恰好が……」
クレハは恥ずかしがってもじもじとする。その様子がさらにクレハを女の子に仕立て上げていて、私たちは舞い上がった。
「じゃあ、今度はポーズも考えないとですね!」
「えっ!? こ、これで終わりじゃないのか!?」
「可愛いポーズって色々あるから、悩むね。耳と尻尾もあるから、それも生かしたポーズとかでもいいかも!」
「お、おい! ウチに何をさせるんだー!?」
今のクレハの恰好でさせるポーズを考えると、テンションが上がっていく。絶対に可愛いポーズにさせたい。
「クレハ! こんなポーズをとってください!」
「えっ……い、いや……恥ずかしいし……」
「じゃあ、この恰好は? 耳と尻尾を強調したんだけど」
「いやいや! なんだ、その恰好! めちゃくちゃ恥ずかしいぞ!」
二人でポーズの指定をするが、クレハはいやいやと首を横に振るだけ。絶対に今のクレハに似合うはずだから、絶対にやって欲しい。
「まずはこのポーズでいこう」
「順番ですね。分かりました。じゃあ、クレハ。ポーズをとってください」
「少しはウチの話を聞いてくれー!」
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