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第9話 王都奪還作戦と銀髪の仮面

 朝日が立ち上る。

 森の中で新鮮な空気が漂う。

 森で夜営をしていただろう三人は地面に地図を広げて何やら会話をしている。


「という作戦でいく」


「無理です死にます反対です」


「なら、いい案が貴様にはあるのだろうな」


 揉め事が起きている。

 互いの意見が別れて言い争いをしているようだ。


「今のよりかはマシな作戦があります」


「言ってみろ」


「まず、正面突破は馬鹿のやることです。わざわざ敵に現在地をアピールしてもしょうがないですよ。フランさん馬鹿なんですか?」


「馬鹿だと! ユウキ、貴様の作戦がロクでもないものだったら、この場で切り捨てるからな」


 大剣に手をかけて怒り狂った魔女のような目付きで睨むフランに失言をしたことに後悔する。

 時すでに遅しとはまさにこの事。

 特に作戦は考えていなかったユウキは目が挙動不審状態だ。


「フラン姉様やめてください! 私もユウキの言う通りだと思うわ」


「むぅ......レイナが言うなら私の作戦はやめておこう」


 レイナはホッとしてユウキに向かってウインクする。

 あまりの可愛さにデレデレになっているところを見ると危機感が全く感じられない。


「鼻の下が伸びてるとこ悪いが作戦はあるのか?」


「は、はいぃぃぃ」


 バレていると思わず、びっくりして変な声をあげる。

 レイナは首を傾げているので、なんのことか理解していなさそうだ。


 もちろん作戦は考えていないだろう。

 ユウキは地図を眺めて作戦を練っている。


「敵の人数と主力を教えてくれませんか?」


「総勢二千と思ってくれ。内、主力は一人だが、奴等のクーデターを唆した者もいるから、主力がもう一人ってとこだな」


 もう一人とはハルトニウムに狙いを付けた者で間違いないだろう。

 そいつを何とかしなければ敗北も同然。

 ユウキは中々いい案が浮かばない様子だ。


「要は主力二人を倒せないと話になりませんね。俺達だけで勝てる相手には見えませんので、出直しません?」


 無謀であると悟ったのか逃げ腰になる。

 仮に父親級の化け物であるとすれば、命がいくつあっても足りない。

 命は一番大事だとユウキは常々思っている。


「そうか、ならば――」


 フランは大剣に手をかける。

 慌てるユウキはふと思い出したことを口にした。


「お、俺のスキルに『チートスキル』ってものがあったんです! それの扱い方を知ってからでも遅くはないでしょう」


「――ッ!」


 二人の目が驚きのあまり見開かれる。

 ユウキからしてみれば「どういうスキルなのかわかっているのか?」と言いたげな顔をしている。

 無論、本人も理解していないので、何か知っているなら知りたいところだ。


「ユウキよく聞け。『チートスキル』はな、『ユニークスキル』のさらに上をいくスキルだ。世界が誕生してから五人と満たない者しか持っていなかったとされる」


「――っ嘘だろ!?」


 予想外にやばいスキルだったことに驚愕する。

 いや、人智を超えた代物。

 今、所持しているスキルがまさにチートと呼べるスキルなだけにチートなのだと。

 しかし、扱いがわからないユウキは現状、宝の持ち腐れ状態。


「でも、このスキル良くわからないんです」


「わからないとは?」


「ある条件が揃えば必ず一撃必殺になると......」


「スキルの名前はなんだ?」


「『宿り木の弾丸(ラピットグロウ)』です。銃を使うことだけはわかるんですけど、弾に植物魔法を込めればいいんですかね? でも、俺の植物魔法じゃ蟻一匹倒せませんよ」


 スキルの発動条件に三人は悩んだ。

 蟻すらも倒せない植物魔法をどうやったら一撃必殺に出来るのか。

 はっきり言って考えても考えても答えが出てこない。


「今の俺にはまだ早いってことなんですかね」


「そんなことはない。スキルが現にあるなら可能と考えられる」


 となると、何かしら方法がある。

 誰も見つけられていない落とし穴が。

 ふと、レイナが「はいっ!」と挙手をした。


「わからないなら実戦で試してみましょ」


「い、いや、ぶっつけ本番は流石に不味いですよ」


 慌てふためくユウキにレイナはニヤニヤと笑う。

 両手を広げて、


「ふっふーん。此処を何処だと思ってますか? 実戦には持ってこいの場所じゃないかしら」


「――ッ! そういうことか!」


 此処は森の中。

 ユウキが初めて出くわした魔物ゴブリン等、様々な魔物の棲みかなのだ。

 スキルの発動条件を探る実験は魔物で出来る、まさにこういう事であった。


---


 方針が決まって一同は行動するべく、森を探索する。

 珍しい事にフランがヤル気満々なのは、希望が見えたからに違いない。


「探すとなると出くわさないものだな」


 魔物探索を始めてから約一時間。

 不思議な事に魔物の気配が全くない。

 普段は数分で一体は出るほどいるのに、今日に限っていない。

 逆に異様である。

 森に何か異変でも起きているのではないかと一行は怪しむ。


「上位の魔物がやって来たとなれば話は片付くんだが、気配も感じられないのは不思議だな」


 その通りである。

 考えられるのは二つしかない。

 誰かが魔物を一掃したか、気配も悟られないほど静かに根絶やしにしていった魔物か。

 前者であるなら有難い話ではあるが、後者となれば話は別。

 後者の場合は間違いなくレジェンド級の一生に一度お目にかかれるか、かかれないかの魔物。

 正直、この場でそんな化け物と出くわしたくないと一行は思っている。


 それでも探索を続けるのは『チートスキル』を試したいというユウキの好奇心、なんとなく付いていってレア中のレアスキルを拝みたいレイナの好奇心、民間人に被害が出る危険性があるのか探るフランの善人っぷり。

 うまいこと一致して探索続行している。


 暫く歩き、川沿いに着く。

 何かに感付いたフランが二人に手でストップをかける。


「人影が見えるぞ」


 フランは小声で川の向こう岸を指差す。

 それに反応し、ユウキとレイナは指された場所を見る。

 それはなんとも言い難い複雑な光景であった。


 仮面を被る銀髪の男が赤く巨大なドラゴンに大量の魔物を食わせている。

 剣が真っ赤に染まっているのは魔物の血で間違いないだろう。

 世の中には『魔物使い(モンスターテイマー)』という変わった職業を持つものがいるらしいが、基本は弱い魔物が主流だ。

 強い魔物を従える者は人ではなく人型の魔物が多いらしい。

 吸血鬼(ヴァンパイア)や魔王と呼ばれるレジェンド級の魔物だ。

 向こう岸にいる男は人なのか、魔物なのか非常に怪しい。


 果たして、あの男は敵なのか。

 敵であればこちらに勝ち目はない。


 ユウキは昔、母親から読ませてもらったレジェンドドラゴンの物語を聞かされた事がある。

 世界の実力者総出で袋叩きにしても、かすり傷一つ負わず、嘲笑うかのように世界を半壊させたと。

 レジェンド級の魔物は物語の本になっているほどの化け物中の化け物。

 

 記憶を思い出すと命が惜しいユウキは逃げ出したくなっている。

 が、遅かった。

 

「覗き見とはいい趣味をしているな」


「「「――ッ!」」」


 気付いた時には空中に浮いている黒い鎌が首に構えられていた。

 ずっと視界に入っていた人物が目の前に立っている。

 瞬間移動とも言える速さ、フランすらも気付けないほど速く、そして恐ろしく静かに。

 危機に陥るとすぐに滝のような冷や汗をかくユウキだが、今回は二人も同様。

 いつ殺されてもおかしくない状況。


 相手の声を聞いた限りでは女性の声。

 仮面越しからでもわかるくらい冷静で余裕そうだ。


「喋るなとは言ってないんだがな......」


「き、貴様は何者だ? こ、こんな実力者......見たこともないぞ」


 声を絞り出して問う。

 恐怖に負けじと睨むような顔付きをしているため、フランは自制心を保つのに必死なのだろう。


 レイナは自制心を保てず、全身震え上がっている。

 ユウキはいつも通り、意識がどこかに飛んでいきそうなのを必死に堪えている。


「......私の事は答えられない。重要な役目を持っている......とだけ言っておこう。驚かして済まなかったが、覗き見は良くない。不可抗力だと思ってくれると有難い。それに私は魔物ではない。人の子から産まれたれっきとした人だ。人種は混ざっているがな」


 首に構えられていた黒い鎌は吸い込まれるように消えていった。

 一同は地面にへたりこんだ。

 息も荒く、動く気力もないようだ。


 が、ユウキは余計な事を企んでいた。

 レイナ達同様、彼女を仲間に出来ないかと。

 そして、鑑定で能力やレベルを覗きたい衝動に刈られる。


 それがどんな過ちになるのか。

 その時のユウキは知るよしもない。

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