老剣 木枯らし 3
「うぅん……うううぅん」
少し大きな通りの交差点、丸く開けた空き地には、大道芸人や、吟遊詩人などが集まり、見世物を催している。
その一角を眺めながら、サクラは腕を組み、眼を閉じて唸り続けていたのだ。
「……どうしましょう、何というか、期待とは少々違っていたというか、その」
隣に並ぶフィオーレも、困ったような、呆れたような顔付きであるのだ。
空き地の隅に、高い幟を立て、それぞれをロープで繋いだ結界の中心には、小さなちゃぶ台でお茶を啜る老人がひとり、座っていたのだ。
ぽつぽつ、と眺める見物客もいるが、老人に挑む者が無いと知ると、他の見世物に興味を移し、足早に立ち去っていた。
「あのおじいちゃんが、てんかむそうなの? 」
「あら、ゆっこちゃんは難しい字を読めるのね、偉いわ」
おじいさまに習っているから、と、少女は些か偏った知識を披露しながら、フィオーレに撫でられるまま、首を左右に揺すっていた。
しかし、小さな老人である、六十代後半であろうか、おそらく百六十センチに満たないであろう体躯は、だからと言って筋骨隆々、という訳でも無いのだ。
草臥れた茶色のズボンに、ベージュのシャツ、防寒用だろうか、赤いチョッキを身に付けていたが、それが尚更に、どこか、物寂しさを感じさせるのだ。
(あれは……いけない、この感じ、おそらく、僕らの遥か上をゆく……)
しかし、ひとり、リチャード少年だけは、その老人から、ただならぬ気配を感じ取っていたようだ。先日の死闘を経て、少年の感性は更に磨き込まれたのだろう。
「ううん、とにかく、一手御指南願いましょう! ひょっとしたら、かつては高名な剣士であったのかも知れませんしね」
「さ、サクラ! いけない……その、そう、あの人に怪我でもさせたら、大変だよ、どこか別のところに」
リチャードは慌ててサクラを制止するが、やはり御用猫とは違い、こういった経験が不足しているのは明らかで、なにやら彼女に不信感を抱かせてしまったようなのだ。
「……何ですか、リチャード? まさか、私があのような御老体に、遅れをとるとでも思っているのではないでしょうね? 心外です! 分かりました、最近はリチャードと地稽古もしていませんでしたし、ちょうど良いでしょう、私の成長ぶりを見せてあげます! 」
つかつか、と肩を怒らせて進むサクラに、リチャード少年は頭を抱えるのだ。
「リチャードが心配性なのは分かりますけれど、流石に、気にし過ぎではないかしら? それにほら、あの竹刀、上から布も巻いてありますし、万が一にも、おじい様を怪我させたりはしませんよ」
行きましょう、と、ゆっこの手を引き、フィオーレもサクラの後を追う。
「あぁ、若先生が、いつもどうやってサクラをだま……説得していたのか、もう少し見ておくべきでした」
少年は一度首を振り、いざとなれば自分が飛び込む他は無いと、決意を胸に、走り出したのだ。




