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続・御用猫  作者: 露瀬
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魔剣 いとのこ 10

 戦場は、少し開けた農道であった。


 御用猫は慌てていない、周囲の地形は、常に把握している、これはもう、癖と言えるだろうか。


 左手は小さな山、右手には田圃を挟み、少し深めの谷川がある、川沿い山沿いに大きく曲がる農道の陰から、バリンデン一家の二男、バンス バリンデンは現れた。


「斧」のバンスは、その見た目とは裏腹に、思慮深く、家族の中では一番に、穏やかな性格であった。


 恐ろしげな唇の傷は、弟を庇って付いたものであったし、迫力のある禿頭も、ロンダヌスに残してきた、愛妻の好み、というだけの理由なのだ。


 しかし、今の彼は、弟の敵討ちとあって、視線鋭く、咆哮は野獣のそれである、大型の戦斧を胸前に構え、猛然と突進してくる様は、御用猫に、いつぞやの猪剣士、ズゥロを思い起こさせていた。


「では、ごめんなさい、仕事にかかりますね」


 まるで、近所に買い物にでも行くかのように、気軽な調子で大雀は前に出るのだが。


「待てよ、あの、禿げいの、は、俺の仕事だ、他を頼む」


「あれは、賞金首でしたっけ? 浅ましいですね、そんなに、小銭が欲しいのですか、分かりました、ちょっと小突いてから行きますね……それで死んだら、ごめんなさい」


 じゃらり、と鎖を鳴らして金具を外すと、大雀は背中の大金棒を、無造作に肩に担いだ。どう考えても、彼女の身体より重そうな武器なのだが、体勢を崩す様子もないのだ、おそらくは、足裏に呪いか何かの力を、働かせているのだろう。


 彼女の得物、巨大な金棒は、四角い鉄柱を二本組み合わせたような、特異な形状をしている、巨大な鉄扇と言えば分かりやすいだろうか、ただ、二本の鉄柱は一回り大きさが違う、相手に叩きつければ、小さい方が、大きい方に格納されてしまいそうな形状だと、御用猫は首をひねる。


(まぁ、あんなもので殴られれば、そんな事、関係もなかろうが)


 その光景を想像し、ぶるり、と、御用猫は肩を震わせると、井上真改二を抜き払い、バンスの方に一歩踏み出すのだが。


「ぐおぉっ?」


 その、バンスの巨体が宙に舞う、大雀に、突き飛ばされたのだ。百四十キロはありそうな、禿頭の熊猪は、ごろごろ、と藪に転がり、何か、信じられない、といった様子で、すれ違った大柄な女を振り返るのだ。


 その隙を逃さず、飛び込んで斬りかかった御用猫であったが、バンスの右手の、不穏な動きを見逃さず、横っ跳びに飛び跳ねる。


 ちりっ、と金属音、そして、空気を裂く音と共に振り抜かれたのは、ベルトに偽装した蛇剣であったのだ。


「む、噂には聞いていたが、勘の良い男だな」


「そりゃ、どうも、お前の噂は知らないが、バリンデン一家には、ペットの熊も、居たんだな」


 御用猫は、愛刀を正眼に構えるが、ふと、目に入ったその光景に、戦いの最中に、思わず気を逸らしてしまったのだ。


「ごめんなさいっ」


 この様な過ち、普段の御用猫ならば、考えられぬ事であろうが、しかし、人間の上半身だけが、綺麗に二つ並んで宙を舞うなどという、異次元の景色を見せられれば、全く、仕方のない事であるのだ。


 吹き上がり、噴水の様に拡散する血飛沫は、いっそ、幻想的ですらあるだろう。


「ごめんなさいっ」


 びだん、と、次の男に叩きつけられた大金棒は、闇討ち屋の頭を潰し、膝を折りながら、人の背丈を、半分以下にしてしまった。金棒の先が地面で止まらねば、真っ平らになっていた事だろう。


 はっ、と我に帰り、慌ててバンスに意識を戻した御用猫は、まさにその相手と、視線を絡ませるのだ。どうやら、二人して、今の惨劇に目を奪われていたようだ。


「逃げるなら、殺しませんよ」


 四つ目の挽肉を、辺りに撒き散らしながら、大雀は最後の一人に問いかける。


 当然に、尻に帆を掛けて逃げ出す闇討ち屋であったが、その背中を、白い杭が貫いた。


「ごめんなさい、嘘です」


 左手の、砲身にも似た、筒状に穴の貫通する手甲をかざし、大雀は、のんびりと首を回すのだ。


 新たな獲物を、確認するように。


 青い顔を見せたのは、バンスであった、じりじり、と少しづつ下がったかと思うと、巨体に見合わぬ俊敏さで、一気に林の中に滑り込もうと、駆け出すのだが。


 白杭に貫かれ、目の前で弾けた、太い椎の木に、逃走を諦める。


「サンドコンパクションパイルです、弾切れはありませんので、ごめんなさい……ねえ、猫の先生、早くやっちゃって下さいよ、お腹が空きました」


 大雀は、甘えた声で、しかし、何とも、つまらなさそうに言うのだが、御用猫は、青い顔で、井上真改二を固く握り締めるのみであった。


 怖れているのだ。


 しかし、それは、たった今、圧倒的な戦闘力を見せつけた大雀にではなく。


「おぉ、いとのこの先生、来てくれたのか、助かった! 」


 林の中から、まるで、散歩でもするかのように、不自然に現れた、その、着流しの男に、で、あったのだ。



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