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続・御用猫  作者: 露瀬
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魔剣 いとのこ 8

 南町の一番街に、さぬきや別館、という宿がある。


 この高級な宿屋は、貴族や大商人の御用達であり、表に出せぬ会合や、逢い引きなどに利用されているのだ。


 特別に、防音の呪いが施された室内は、広くはあるが薄暗く、呪いに耐性のない者には、テーブルを挟んで座るだけの、互いの顔まで、ぼんやりと、滲んでいるように感じるだろう。


「まぁ、話は分かったがな、他所を当たんな」


 ほぅほぅ、と、息の抜けるような喋り方で、南町の裏口屋を仕切る組合長、ふくろうは、素っ気なく告げるのだ。


「なんでぇ、びびってんのか? クロスロード人は、肝が細ぇなあ……あぁ? 」


「弟を殺されて、びびってんのは、そっちだろ? ロンダヌス人は、良く吠えやがる」


「あぁ? 殺すぞ! 」


 だん、と、テーブルを鳴らし、ふくろうを睨み付けるのは、バリンデン一家の三男、キッチョン バリンデン。長い黒髪を、首の後ろでくくり、柄は悪いが、なかなかの男前であった。


「長剣」のキッチョンといえば、ロンダヌスでは、短気な事で有名で、すれ違った貴族と、肩が触れ合った際に口論になり、相手の名乗りを聞いた上で、街中で首を刎ねた事もあるのだ。


「まぁ、熱くなんなよ……危ない橋を渡るのは、馬鹿のする事だろ、お前さん方の雇い主が誰かは知らねぇが、そもそも、けつを拭くなら、そっちに頼むのが筋ってもんだろう? 」


 これは、何とも白々しい嘘なのである。バリンデン一家を呼び寄せたのは、ふくろう自身であるのだが、依頼をこなすまでは赤の他人である、しかし、それは、互いに承知している事なのだ。


「ふくろうさんよ、あんたに迷惑はかけない、金も好きなだけ出す、足のつかない所で、紹介くらいは、できるだろう? 兎に角、俺たちは、腕利きが欲しいのだ」


 落ち着いた喋りの男は「小剣」のボルト、兄とは正反対の冷静さであるが、男ぶりの方は、兄より数段劣るのだ。モイライモイは、この二人を棒組として、火付の良過ぎるキッチョンには、常に弟を同行させていた。


「ふむ……そうか、ならば、それなりのを紹介しとこう……あとな、これは、其方さん次第なんだが……ひとり、とびきりの奴が居るのだ」


 ふくろうは、片目を閉じて、兄弟の様子を伺う。


「あぁ? 腕利きが要るつってるだろうが、つべこべ言わずに、連れて来いや! 」


「……居るだろ? そこに」


 ふくろうの言葉に、がたっ、と、二人が立ち上がる。


 彼に言われるまで、全く、気配を感じなかったのだ、いくら何でも、これは有り得ない、こんな事は、初めての体験である。武器に手を掛け、距離を取りながら慌てて振り向き。


 そして、バリンデン兄弟は、同時に、顔を青ざめさせるのだ。


 その男を、見てしまったのだから。


 中肉中背のその男は、藍色の着流しに、黒い総髪。閉じているかと思う程に細い目と、その下に、病的な程の黒い隈。


 ただ、その男が、そこに居るだけで、兄弟は肚の底に、何やら冷たい物が溜まってゆくような、感を覚えるのだ。


「そいつはな、東方の、周防の国から来た、本物の、お侍様だ……俺の見立てじゃ、田ノ上ヒョーエとも、互角以上に遣り合える……ただな、とんでもない化物だ、あんたらに、使いこなせるかね」


 ほぅほぅ、と、愉しげに息を漏らし、ふくろうは、肩を竦めてみせる。


 バリンデン兄弟は、互いに顔を見合わせ、一度だけ、頷くのだ。


「こいつは、連れて行くぞ、金は銀行から降ろせ……好きなだけな」


「おぅ、毎度あり、無口な奴だが、無理に話しかけるなよ……死ぬぞ? あと、五人ばかし、当てもあるから、そっちの隠れ家に行かせとこう、それとな、これは、俺からの、期待を込めた、おまけなんだが」


 話の途中から、退室を始めた兄弟であったが、ふくろうの言葉に足を止める。


「御用猫には、娘が居るんだ」


 ほぅほぅ、と、ふくろうは息を漏らす。


 それほ、どこか、愉しげな笑い声にも、聞こえただろうか。



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