魔剣 いとのこ 7
「やれやれ、随分と頭の固い奴じゃったの」
襲撃者達の死体と、生き残りを乗せた、青ドラゴン騎士の紋章入り馬車を見送りながら、田ノ上老は腰を伸ばす。
「仕事熱心なのは、いい事じゃないか、警察騎士ってのは、やる気の無い奴が、なるもんだと思ってたがな」
クロスロードにおいては、基本的に、騎士位には世襲が無く、毎年行われる採用試験に合格するか、貴族や官僚の推薦が必要となる。
その中でも、戦に出る事のない、治安維持の為に、番所に常駐する騎士の事を、警察騎士と呼び、出世を諦めた者や、新人騎士が配属されている。
「確かに、私も経験がありますが、警察騎士は、どうにも、他より低く見られがち、ですからね」
「そうか? 同じ騎士だろう、まぁ、俺は知らんがな」
からから、と笑う茶髪の大男は、苦い想い出に浸る親友の背中を叩き、少しばかり、白い眼を向けられていた。
早くから腕っ節を買われ、鳴り物入りで、赤虎炎帝騎士団に入団したビュレッフェには、経験の無い事であったのだ。
「とりあえず、飯にしよう、引き渡しに手間取ったせいで、もう、ぺこぺこ、だ」
青ドラゴン騎士の、執拗な取り調べは、どうにも長引いたのだ、これ程の死体と、怯えて震えるばかりの生き証人である、不信感を持たれるのも、仕方の無い事であったのだ。こういった場合に、普段ならば、アドルパスを頼っていたのだが、今回は近所の農家に頼んだ為、近場の番所に駆け込む他は無かったのだ。
御用猫は、今更ながらに、彼の威光が、どれ程の効果を持っていたのかを、知ったのだ。
馬を笑った事は、今度会った時に謝ろう、などと思いながら、先程から、ごろごろ、と鳴り止まぬ腹をさすり、御用猫は道場の母屋へ上がるのだが。
「ごめんなさい、お先に頂いています、お腹が空いていたのです、ごめんなさい」
もりもり、と、どんぶり飯をかき込みながら、大雀が頭を下げる。
(なんとも、器用なやつだ)
ティーナの姿は見えないが、まだ支度が終わらないのだろうか、大雀は、白飯と、白菜の漬物だけを食べている。
「なんだ、我慢できなかったのか? 卑しい奴め、後からご馳走が来て、後悔しても知らないぞ」
御用猫が、笑いながら隣に腰を下ろすと、大雀は、尻を振って、少しだけ距離を離す。
「失礼な事を言わないで下さい、潰しますよ、あと、あまり近寄らないで貰えますか、御用猫の先生は、手近な女を、直ぐに孕ませてしまうと聞いています、それと、ご馳走は美味しかったです、ごめんなさい」
「……みつばちか、彼奴には、一度、説教、いや、折檻が必要だな」
御用猫が、あの、役に立たないくノ一を、どうやって吊るそうかと思案し始めるのと同時に、鍋を抱えたティーナが現れた。
「あぁっ、先生! ちょっと、大雀に言ってやってよ! 私が止めるのも聞かずに、ごはん全部食べちゃったのよ! もう、今日は湯豆腐しか出来ないからね」
ぐりっ、と顔を向ける御用猫の、冷たい視線にも臆さず、大雀は咀嚼を続ける。
「……おい、食い物のな、恨みはな、深いって、知ってるか? 」
乱れた金髪ごと、彼女の頭を鷲掴みにするのだが、どんぶりと箸の方が大切なのか、手を弾かれる事は無かった。
「ごめんなさい、でも、働かざる者食うべからず、お前らみたいな役立たずは、飯を食わなくて良い理屈です」
「お前、働いて無いよね」
にっこり、と笑う御用猫に、気持ち悪いです、と返事を返し、大雀は、湯豆腐の鍋に箸を伸ばす。
「お前、ふざけんな! もう里に帰れ! 姫雀だかと交代してこい! 」
「あいつは、寝技専門ですよ? 欲求不満ですか、いやらしい、けだもの……私は、そういうの、出来ませんからね、ごめんなさい」
御用猫は、皆に謝り、明日からは、倍の食材を納める事で話は付いたのだが。
豆腐と野菜は人に譲り、彼は白飯に、出し汁と醤油をかけ回しただけの物を、夕食にした。
それはそれで、旨かったのだが、それを真似して、おひつを空にした大雀に、なにか、殺意に近いものを、御用猫は、覚えていたのだった。




