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続・御用猫  作者: 露瀬
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銀盤踝 17

 御用猫は、行き当たりばったりな男であったが、しかし、考え無し、という訳でもない。


 無理は通すが無茶はせず、無謀なようで無策を嫌う。


「我々が此処に来たのは、祖霊の導きに、よるものなのだ! 聖地を守護せし、偉大なる戦士達よ、この、小さき生命を見よ! これは、既に滅んだと思われていた、月狼、その、最後の、真の月狼なのだ、それを救わんがため、我等は導かれた……人と、森エルフと、黒エルフが、一様に、導かれたのだ!……これは、そう、森の意思である! 」


「……あはっ」


 なので、この芝居掛かった宣言も、彼の、確信によるものなのだ。


 人間の発する、森の意思という言葉に、狼狽える黒エルフの戦士達と、呆気にとられる仲間達を置き去りに、御用猫は言葉を紡ぐ、ただ、ホノクラちゃんだけが、まことに、愉しげに、相好を崩し、胸の前で組んだ手の、指先だけを、艶めかしくも蠢かせる。


「今は亡き、我が友、ブブロスと、誇り高き月狼マダラ、祖霊となった二人が、我等を導いたのだ」


「……信じ難い、確証を求める、そなたの言葉に力はあるが、確証を求める」


 戦士長の言葉も、当然である、彼らは元より、リチャードやサクラ、森エルフ達も、じっと目を閉じ、動かなくなった御用猫の言葉を、その答えが出される瞬間を、固唾を飲んで見守るのだ。


「……我等は、祖霊の言葉を聞いた、この大樹の幹を、身体を切り開き、その血を、月狼に飲ませよと」


「否定! 否定する! 」


 被せるように、戦士長が、声を荒げる。背後の戦士達も、ローエとイリヤラインさえも、御用猫を咎め、諌めようとするのだが。


 御用猫には、確信があったのだ。


 ホノクラちゃんは、傍観者などと宣うが、その実、非常に優しく、お節介な男であり、困り事には、必ず、手掛かりを与えてくれる。


 御用猫が、刀を遣う必要があるか、と、問うた時には、戦いは無いと言ったものの、刀を遣う事、それ自体を否定はしなかった、そして、彼は言ったのだ。


 御用猫が、何か仕出かすのを、期待する、と、確かに、そう言ったのだ。


 ホノクラちゃんは、直接に、御用猫に伝える事は出来なかったのだろう、しかし、彼を信じたのだ。そもそもの話、現在、世界樹から、森の銀が採れるかどうかなど、番人たる彼には、最初から分かっていた筈なのだから。


 それなのに、御用猫を連れて来たからには、何かしらの方法があるに違いない。


 ホノクラちゃんは、御用猫を信じたのだ。ならば、その信頼には、友人として応えるべきであろう。


 そう、御用猫は考えるのだ。


「世界樹は、人の手で傷付けられるものでは、無い! 」


 御用猫は、大声を発する。


 エルフ達は、沈黙する。確かに、どれ程の呪いをもってしても、どれ程の大力の持ち主でも、この世界樹に、傷を付けられるとは、到底、思えなかったのだ。


「しかし、我等は違う! 祖霊の、森の導きがある! 刮目せよ! その意思を、その目で確かめるのだ! 」


 御用猫は、井上真改二に手をかけたが、ぴたり、と、動きを止め、鞘ごと外したそれを、リチャードに預ける。


 この、血に塗れ、汚れた妖刀で聖樹に傷を付けるのは、流石に躊躇われたのだ。


「サクラよ、お前の刀を、貸してくれないか……二人で、やるのだ」


 にこり、と笑いかけた御用猫に、未だ、会話にはついて行けぬ様子の少女であったが、一度だけ頷くと、両手でベルトから愛刀を外し、彼を真っ直ぐ、見つめながらに、手渡すのだ。


「ごめんなさい……また、頼ってしまいます、ですが、私の、想いを乗せておきますから……頑張って、お兄ちゃん! 」


「ふふ、よしよし、その言葉があれば、百人力だぞ」


 少女の頭に手を乗せ、ぽんぽん、と軽く叩くと、御用猫は、リチャード少年に目を向ける。


「リチャード、よく見ておけよ、カディバ一刀流の、奥義だからな」


「はい、心して」


 満足そうに頷くと、御用猫は、ちらり、とホノクラちゃんに視線を送る。


 果たして、傍観者からの言葉は無く、ただ、見守る彼の表情は、とても、穏やかなものであった。


「我が剣に祝福を! そして森の導きを! 」


 大きく手を挙げ、抜刀した御用猫は、つかつか、と、世界樹に歩み寄る、滑る足元の安定は悪く、腰が入らない。間近に見る大樹の皮は、分厚く、硬そうで、銀の混じった樹皮は、巨人の斧さえ通さないだろう。


(条件は最悪だが……チャム、いけるか? )


 背後で転がる森エルフに、視線を合わすことも無く、御用猫は、念話を送る。


 念話と言っても、御用猫には、何も出来ぬ。ただ、チャムパグンに頭の中で言葉を送るだけなのだが。


(我が人魚刀に、断てぬものは、無しでごぜーますよ……もちろん、足裏も吸い付けときますわ、高いですがね、ぐへへ)


 げすげすげす、と、脳内に、ぼんやりと、卑しい声が響く。


 以心伝心、この、卑しいエルフとも、付き合いが長くなってしまったものだ、と御用猫はしみじみ思う。


 彼女は、実に、便利で、卑しく。


(場所は、どこだ、分かるだろう、指示してくれ)


(あー、それは……ご遠慮しときますわ、やつらに、聞いてくだせぇ)


 悪魔的に、心を惹きつける。



 御用猫の目の前に、ひときわ明るい蛍火が、ふたつ現れる。それは、ちろちろ、と輝きながら、世界樹の一点に張り付いて、彼を導くのだ。


「これは……はは、参った、そうか、そうか! 元気そうで何よりだ」


 御用猫は、確信した。


 返さねばならぬ恩は、あちこちに、随分と増えてしまったが、これは、良い旅であった。


 そう、皆に感謝して、目を閉じ、呼吸を整える。


 カディバ一刀流の奥義、花鳥風月。そのひとつ「二輪咲き」は、横薙ぎの斬鉄。


「……応ッ! 」


 一閃鋭く、振り抜かれた斬撃は、しかし、優しく世界樹に吸い込まれたようにも、見えたであろうか。


 御用猫は、確信しているのだ。



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