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続・御用猫  作者: 露瀬
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銀盤踝 15

 七人が乗るには、少々狭い籠であったが、てんてん丸の飛翔は、その重量を物ともせぬ程に、実に力強いものであった。短距離ならば、軽量化の呪いすら、必要無いのであろう。


 相変わらず、涎を垂らし夢の中のチャムパグンを背負い、籠の中心に立つ御用猫は、再び口を開けっ放しに、放心状態である、サクラを肩越しに、目下に広がる樹冠の作り出す、壮大なる地平線を眺めるのだ。


「……若先生、以前に、お話頂いた冒険譚、疑って申し訳ありませんでした……しかし、これは確かに、皆に話す土産話にしては、いささか、荒唐無稽に過ぎるでしょうか」


 腕の使えぬ御用猫を支えながら、リチャード少年も、どこか興奮ぎみである。


 てんてん丸の速度は、両脚に荷物を抱えながらも、皆の額が露わになる程で、ホノクラちゃんは、聖地まで半日もかからぬと言うのだ。


「ゴヨウさん! 見てください、あすこに、小さな、芽花椰菜のような、ひょっとして、あれが世界樹なのでは」


「おお、今回は、当たりのようだな」


 サクラの肩に顎を乗せると、少女は顔を赤くするものの、くるぶしと籠の縁に両手を取られている為、がしがし、と、側頭部を御用猫にぶつけて、抗議に変える。


(少しばかり、調子も、戻ってきたかな? )


 いつまでも落ち込んでいては、彼女らしくも無いであろう、早めにくるぶしの治療をして、また、姦しい程の娘に戻って貰わねば、こちらの調子までおかしくなるのだ。


 そう、御用猫は、何度も頷き、決意を新たにする。


「さて、そうなれば、ホノクラちゃんよ、そろそろ、森の銀の採り方を教えてくれ、そいつが、必要になるのだろう? 」


 御用猫は、彼に預けている井上真改二に、視線を落とす。出発前に聞いていたのだが、オーフェンも「記憶」からの情報以外、詳しくは知らぬ様であった、たとえ、氏族の若族長とはいえ、そうそう簡単に、世界樹の間近まで立ち入る事は出来ぬらしいのだ。


「ふふ、君らしい、夢見がちな発想だけれどね、残念ながら、守護者と戦う、なんて、英雄譚のような試練は、無いのだよ」


 くつくつ、と、肩を窄めて、笑ってみせるホノクラちゃんであったが、すぐに、その表情を、少しばかり、固いものにするのだ。


「まぁ、もう少し待ちたまえよ、その目に映せば、簡単に理解出来るだろうからね……だけど、ゆめゆめ、期待はしない事だよ、これは、確かに、お伽話ではないのだし、キミは、英雄でもないのだから」


 現実は、残酷なのだと、そう締めるホノクラちゃんに、前を向いたまま、サクラは俯いて唇を噛む。


「ホノクラちゃんよ、こいつはな、これでも、可愛い妹なんだよ、あまり脅かさないでやってくれ」


「おや、それは、悪い事をしたね……ふふ、でもね、正直、期待もしているのだよ? キミがまたぞろ、何か面白い事を、仕出かしてくれるのを、さ」


 それほど、自分は、騒動を起こしているつもりは無いのだが、と御用猫は内心にて、不平を並べる。たとえ、そうであったとしても、それは、騒動の方からやってくるのであり、それに対処しただけで、悶着を起こす人間だと思われるのは、全くに、心外であるのだ。


 その心情が、表に出ていたのか、下唇を突き出す御用猫に、ホノクラちゃんが再び笑う。


「勘違いしないでおくれよ、ボクはね、キミの、そういったところが、いたく、気に入っているのさ、そう、実に好ましいよ」


 狭い籠の中、背伸びをして、ぐい、と、その美しい顔を寄せてくるホノクラちゃんから、御用猫は、背をそらして距離をとる。


「なんだい、昔は、鼻の下を伸ばしてくれていたのにさ」


「ぐぅ、人の汚点をほじくりやがって……まぁ、ホノクラちゃんは、アルタソ並みに、作りだけは、無駄に良いんだ、騙されたのは、仕方ない」


 そうだ、仕方ないのだ、と己の過ちを肯定する御用猫に、両脇から、冷やかな視線が注がれる。


「……僕などは、リリィ様の方が、お綺麗だと、思いますけれどね」


 何が面白くなかったのか、不機嫌そうに呟いたリチャード少年であったが、次の瞬間には、はっ、と息を呑み。


「いえ、若先生、これは、違うのです! 決して、そういった意味では、ありません! 」


 珍しくも、慌てた様子で、猫手を左右に、何度も往復させるのだ。


「ほほぅ、リチャード君は、リリィ派であったか、薄いのが好みかな? 」


「ふふ、とうとう、馬脚を現したようだね、なに、恥ずかしがる事は無いのだよ、人間の、健康な男子ならば、それは当然の事だと、ボクも理解しているのさ」


 やいのやいのと、少年を揶揄う大人げ無い大人二人に、背を向けたまま、ぷるぷる、と、しばし肩を震わせていた、サクラであったが、すぐに、その怒りは爆発したのだった。


 やれ、緊張感が無いだの、エルフなのに落ち着きが無いだのと、延々と説教をしていたのだが、不意に、途中で、ぴたりと、言葉を切り。


「……あと、リチャードには、帰ったら、お話があります」


 心のこもらぬ、冷たい眼で、そう、締めくるのであった。




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