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続・御用猫  作者: 露瀬
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無情剣 面の皮 12

 御用猫は、ギンタに張り付けておいた黒雀を呼び戻し、彼の事は、しばらく放置しようと決めた。


 あの様子では、逃げるとも思えぬし、もしも逃げ出したなら、むしろ、なんの気兼ねもなく、今度こそ首を刎ねる事が出来るだろう。


 最近は、何か決まり事の様になってしまったのだが。リリィアドーネの作る、取り立てて美味くもない朝食を、黒雀とつつきながら、ぼんやりと、御用猫は待っていた。


 その待ち人は、最初、何も言わずに立ち去ったのだが、二日目になると、御用猫の方を、何か、困ったような目で、何度も見やり。


「先生、あいつ、いつになったら追い出してくれるのさ」


 とうとう、三日目になると、直接苦情を入れにきたのだ。


「さてね、最後に、罪滅ぼしをしたいって言うからさ、まぁ、せっかくだ、少しは相手してやれよ」


 冗談じゃない、と、憤慨する少年の頭に、御用猫は、そっと手を乗せる。どうやら、まだ、叩かれたりはしないようだ。


「まぁ聞けよ、トウタ、俺の親父も、中々にな、非道い男だったんだけどな……生きてる内に、もう少し、話しておいても良かったかな、と、今になって、思う事もあるのさ」


 頭に乗せた手を、少年の肩に降ろすと、そのまま、ぽんぽん、と叩いてみせる。


「それに、お前だって、客商売してるんだ、色んな人を見て、そうだな、これは勉強だと思え、世の中には、マルティエみたいな善人も居れば、悪人だって腐るほど居るんだ、だけどな、そんな奴らだって、必ず飯は食うんだ、つまりは、お前の客に、なるって事なんだからな」


 分かるか、と、御用猫が笑ってみせると、少年は、しばらく考えたのだが。


「うん……そうだね、分かったよ、猫の先生の、言う事だからな」


 なんとも素直に頷くのだ。これは、母親の教育か、それとも反面教師というやつか。


 ミザリの尻を撫でながら、ばたばた、と走り去るトウタを見送ると、御用猫は、黒雀を膝の上に乗せる。


「いらない」


 炊き方が悪かったのか、お粥のようになってしまった飯を、さりげなく彼女に処理させようと、木匙ですくったのだが、流石に、そう上手くはいかないだろう。


 まぁ、美味くもないしな、と、心の内に呟くと、御用猫は、仕方なく、それを口にするのだった。



 それからは、トウタも、いつものように笑顔であった。五日目には、なんと、木扉の向こうに、居心地悪そうに肩を竦める、ギンタの姿が見えたのだ。


 少年いわく、こそこそ、と、隠れて付いてきたから、棒を担がせているのだとか。


 棒手振り中年とは、なんとも締まらない話であるが、文句を言いながら、父の尻を蹴り上げるトウタの横顔は、どことなく、楽しげであっただろうか。


 六日目の朝食は、そこそこに味が良かったのだろう。もごもご、と、里芋の煮物を咀嚼する黒雀も、何か機嫌が良さそうなのだ。


 しかし、御用猫の表情は、どこか翳りを見せており、最初こそ、自信に満ちた顔つきであった、リリィアドーネだが、期待した様な答えが返ってこないと知ると、しょんぼり、と、肩を落として登城してゆく。


(あぁ、悪いことをしてしまった)


 分かっては、いたのだが。


 料理の味も、こうなる事も、分かってはいたのだ。


 だが、少しだけ笑いながら、家路につく二人を見てしまえば。


 ぎこちなくも、少しづつ距離を近付けてゆく「親子」を見てしまえば。



 明日には、刎ねる首だと、分かってはいるのだ。


 いるのだが、御用猫の気分は、まるで、粘りつく泥の中に、沈んでゆくようであったのだ。



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