第7話:東海道線の追撃戦(後編)
「待てッ!」
蒼生はインバネスコートの裾を翻し、一目散に逃走する清吉を猛然と追いかけた。
蓮もまた、息を切らしながらその後を追う。名古屋駅のプラットホームには、すでに東京行きの最終乗車を告げる鐘が鳴り響いていた。
(――この列車に乗車さえすれば、こちらのものだ……!)
逃げる清吉の思考が、蓮の脳裏に激しく飛び込んでくる。
「神山さん! あいつ、発車間際の二等客車に飛び乗ろうとしています!」
蓮の叫びを聞き、蒼生はふっとスピードを緩めた。かと思えば、駅のホームに放置されていた手荷物運搬用の台車を掴み、線路脇へと力任せに押し出した。
ガタガタッ! と派手な音を立てて転がった台車が、清吉の進路を完璧に塞ぐ。
「うわっ……!」
バランスを崩した清吉は派手に転倒し、懐から飛び出た分厚い設計図の束が、雨上がりのプラットホームにパラパラと散らばった。
周囲の駅員や乗客たちが驚きで足を止める中、蒼生は軽やかに歩み寄り、その設計図の束を拾い上げてパァンと埃を払った。
「はい、お疲れ様。国家機密の持ち出し未遂、そして工房の器物損壊の罪……東京の警察へお巡りいただくには十分すぎる証拠だね」
清吉はもはや立ち上がる気力もなく、その場に崩れ落ちた。
騒動が落ち着き、再び走り出した東海道線の客車の中。
窓の外では、名古屋の街並みが夕暮れの光の中に溶け込んでいく。
「……お疲れ、蓮。名古屋での一件も、君の『心読み』のサポートがなければ危うく取り逃がすところだったよ」
席に戻ってきた蒼生が、やれやれといった様子で肩をすくめる。
蓮はぐっと息を整えながら、しかしその瞳には強い光を宿して首を振った。
「いえ……。でも神山さん、気になります。あの清吉が持っていた設計図、そして東京の使者という言葉……。私たちの旅の目的地である東京には、一体何が待ち受けているのでしょうか」
蒼生は懐から真鍮の時計を取り出し、パチンと蓋を閉めた。
「さあな。だが、これで確信に変わった。京都から東京へ向かうこの東海道線は、単なる鉄の道じゃない。国を揺るがす陰謀の『導火線』だ。――さあ、次は浜松の険所へ向かうとしようか」
迷宮列車はさらにスピードを上げ、夜の闇へと突入していく。
(※本作に登場する組織、事件、機密文書、およびスパイ工作に関する描写はすべてフィクションであり、実際の歴史上の出来事や実在の人物・団体とは一切関係ありません)




