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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第七章 ポメラニアンの苦悩
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135 拭えぬ違和感

 チュン太が俺に伝えてくれた賢者ソースの訃報と同じことを、魔王軍と思われるカラスたちは豆之助に伝えにきたのであろう。

 俺が愕然としているその前で、豆之助は何も言わず門から撤退していった。

 魔王軍の鎌倉どうぶつ大聖堂の庭に残されたのは、俺とサバトラとチュン太。そして倒れている魔王軍の動物たちだけとなった。


 人間の信者たちの姿も、今は見えない。

 どうやら魔王軍たちは、この拠点を捨てていったようだった。


「モフっ! サバトラっ! 大丈夫か?」


 門から駆け寄ってきたのは、佐藤パパさんだった。


「豆之助とカラスたちが走り去って行ったのを見たんだ。やつに逃げられたんだな? ロイエンさんはどうなった?」

「パパさん、実は……」


 俺の話を聞き、パパさんの顔も青ざめていく。

 周囲はまだ薄暗いが、山の稜線が夜明けの光と共に薄く姿を表していく。

 長かった夜が、やっと明けようとしていた。

 だけど、俺たちの指導者はもう二度と戻っては来ないのだ。


 ◇◇◇


 その後俺たちは気絶しているロイエンさんをパパさんの車で運び、大船の湘南第4地区本部へと戻った。庭では、賢者ソース様が絶命していた。

 何者がソース様の命を奪ったのか、それはわからない。だけど不思議なことに、ソース様は自ら舌を噛み切って絶命したらしい、と後に検死をした動物医から連絡があった。


「モフに入ったという緑の光は、きっとソース様の隠されたチカラだと思う」


 そう話してくれたのは佐藤パパさんだ。

 自らの最後を悟ったソース様は、モフに大事な情報を伝えるために誰にも話していなかったチカラを使ったんだろうとパパさんは推測していた。


「どうしてソース様は、自ら命を絶ったのかニャ……」

「これも推測だけど……ソース様は、誰かに操られるのを自ら阻止したんじゃないかな。もしすでに操られていたとして、自死するように操られた、というのはどうしても効率が悪すぎる」


 俺も、そう思う。ソース様は誰かに操られるのを良しとしなかったんだろう。

 最後のチカラを振り絞り、大事な情報を俺たちに伝えたに違いない。


 だけど、そうなるとソース様を追い詰めた『敵』は自然と絞られてくる。

『魔王』そのもの、もしくは『魔王の使徒』カールのどちらかだ


「そうだね、モフ。今の魔王が、湘南第4地区に現れる理由がない。現に公安からの情報では、魔王は渋谷の真王教本部から動いた形跡はないとの報告もある。だとすると」

「ソース様を追い詰めたのは、カールだ……!」


 魔王の使徒、カール。きっと奴が、ソース様を死に追いやったのだ。


 俺たち動物軍にとっての指導者だったソース様が亡くなったのは大きな痛手だったが、それだけでない。ソース様は、俺を『勇者』と呼び、導いてくれた。


(お主は平成時代の勇者となって、魔王を倒して欲しいのだ)


(知恵を絞り、やるべきことを成せば、魔王と対峙することも不可能ではなかろう)


(やってくれるか、勇者モフよ)


 賢者ソースがいなければ、俺は単なるポメラニアンに過ぎなかったかもしれない。彼が導いてくれたおかげで、俺は進化し、勇者として戦ってこれた。


 だけど、その賢者ソースはもういない。

 魔王の使徒カールによって追い詰められ、操られるのを阻止するため、自ら命を絶った。


「…………ソース様の(かたき)は、きっと取ってみせます」

「……そうだニャ」


 俺たちは改めて憎き魔王軍を倒すため、心を新たにした。


 ◇◇◇


 あの戦いから1ヶ月が経過した。

 俺たちは賢者ソースが最後に俺に伝えてくれた言葉「『破魔の剣』は魔王の近くに存在する」について、佐藤パパさんや公安警察の意見を含め、多摩川18地区でその中身を検討し続けた。


 公安警察の意見としては、こういった声が多数だったという。


「今の状態の魔王が、自らの意思で『破魔の剣』を近くに置いているということはありえない」


 パパさんからその話を聞き、俺も同意した。魔王が、つまりプーが『破魔の剣』を誰かに命じて持ち歩くなど、あの選挙演説の時の様子からしても考えられなかった。

 もちろん『魔王のチカラ』で持ち歩いているなどのチート能力でも持っているならば話は別なんだけど。


 となると、一番可能性として高いのは『他の誰か』が持っているということだ。一番自然なのは、魔王の使徒・カールだろう。

 とはいえ奴も様々な場所を移動していることから、常に持ち歩いているというわけではあるまい。


「『破魔の剣』を隠し持っている可能性が高いと考えられる場所は、2箇所まで絞り込んだよ。ひとつは渋谷の真王教総本部、つまり宗祖の夜麻騨(やまだ)の自宅だ」

「しかし、そこではワシらには手が一切出せないではないか、佐藤どの」


 賢者ソース亡き後、俺たち動物軍の暫定リーダーとして指名された、ウシガエルのウシダ師匠が俺たちの意見を代表して答えた。

 師匠の言う通り、真王教の総本部は常に信者が数十人単位で暮らしているし、ましてや魔王軍がどれほど潜んでいるか、こちらは公安警察の調査でも全くつかめていない。つまり、スズメ1匹潜入することは難しいのだ。


「確かにそうだね、ウシダ師匠。だけどね、僕はもう一つの場所が怪しいと睨んでいるんだ」

「もう一つ? パパさん、それはどこなの」

「近年、真王教が土地を買い占めている富士山麓のとある地域に、真王教は次々と建物を建築しているんだ。その建物のことを彼らは『ハジュン』と読んでいるんだけけどね」

「ハジュン? それってどんな意味なのかニャ?」

「サンスクリット語で『天魔』、つまり『魔王』を意味するらしいんだ」

「ニャー、なんだか難しいニャ」


 ここまで話を聞いた時、俺の頭の片隅に何かひっかかることがあった。だけど、その考えはそれ以上の閃きを見せず、すぐにどこかに消えて行ってしまう。

 ……俺、いま何が引っかかったんだろう? 建物のことを『魔王』って呼ぶこと? 真王(まおう)教だから、真王=魔王で、それを建物の名前にしていること?


 いや待て、俺はそのことの何が引っかかってるんだろう。一瞬の引っかかりに過ぎなかったが、なんだかすごく気になる。

 思い出さなくちゃならないのに、思い出せない感じがする……何を?


「なるほどのう。その『ハジュン』と呼ばれている建物は、どんな建物なんじゃ?」


 ウシダ師匠の質問に、パパさんは彼が知る限りの情報を教えてくれた。

 曰く、真王教のハジュンには『第1ハジュン』から『第12ハジュン』まであるが、その中でも『第6ハジュン』は宗祖の夜麻騨(やまだ)の別宅でもあるという。


 それを聞いた俺の脳裏に、またひとつ何かが引っかかった。でも……何なんだろう。またしても思い出せない。


「その中でも、第2ハジュンという建物と第6ハジュン、そして第7ハジュン。この3つの警備が、とりわけ厳重なんだ」


「その中に、何かがあると佐藤さんは睨んでいると?」

「その通りだ、アレクサンドル」


 会議に参加していたアレクサンドルはパパさんの答えに頷くと、ウシダ師匠と俺に顔を向けた。


「ウシダ師匠、そしてモフ。ダメ元でもいいから、その3つのハジュンの中を探してみるのはどうだ?」

「……現状ではワシもそれが最善だと思うぞ」

「おれもいく けんじゃさまのきもち おれたちでなんとかする ぜったい!」


 豆之助に噛まれたお腹の大怪我にも関わらず、今回の会議に参加していたくーちゃんが力強く言う。そして俺も大きく頷いた。


「そうだな、くーちゃん。ソース様が命をかけて俺たちに伝えてくれた情報だ。なんとしても『破魔の剣』を見つけよう」


 こうして『破魔の剣』を探すための綿密な計画を俺たち動物軍は練り上げることになった。

 だけど……俺、何がひっかかっているんだろう。

 ハジュンなんて言葉はポメラニアンに転生してから聞いたことは一度もないし、前世でももちろんない。


 待てよ、前世……?

 俺の前世に、なにかヒントでもあるのだろうか。

 だとしたら、そのことは誰にも相談できない。俺の頭の中の記憶にしか残っていないことだ。今後、じっくり考えてみないと。


 だけど、この時俺がもっと早くあの結論に辿り着いていれば……

 真王教と魔王軍によるあの悲劇を防ぐことができていたかもしれない、と俺は後に後悔することになる。

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