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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第七章 ポメラニアンの苦悩
125/144

125 好きになった理由

 気がつくと、朝になっていた。

 太い鉄格子でできた檻の影が、真っ白い俺の毛並みに縞模様を描いている。まるでシマウマみたいなだなぁ……なんてどうでもいいか、そんなこと。

 外は良い天気らしいが、俺の寝起きは最悪だった。


「……ふう」

「何よ、元気ないなぁ!」

「ふげっ!?」


 いきなりの大声に思わず変な声が出てしまった。見ると、鉄格子の向こうに可愛らしいヨークシャー・テリアが立っている。もちろんそれは、ナツキだった。


「閉じ込められちゃって、落ち込んでるのはわかるけどさぁ」

「おまっ、何しに来たんだよ?」

「そりゃー、大好きなイケメンのモフくんが捕まっちゃったから、面会に来たんじゃない。あー、私ってダメ男好きなのかなぁ」

「面会って」


 ナツキは檻のすぐ近くに寄ってくると、俺の足をペロリとひと舐めした。


「うひょっ、くすぐったいだろ」

「あはは、げんきげんき!」


 相変わらず、明るい子だ。こっちは悩んでいるし寝起きは最悪だし、機嫌も悪かったのが、ナツキを前にしているとどうでも良くなってきた。


「ナツキ、お前さ、俺の近くに来たら危ないとか思わないわけ?」

「なに? 悪い男に騙されるんじゃないかって心配してくれてんの? 悪い男本人に言われちゃ世話ないけどね〜」

「だからー! 俺、魔王に操られているかもしれないんだぞ? わかってんのか?」

「わかってるよ! 可愛いトイプードルが大好きなんでしょ? この浮気者!」


 犬なのに、アッカンベーとばかりに舌を出すナツキ。


「悔しいけどさ、モフくんの気持ちはわかるよ? 好きになるのに、理由なんかないじゃん。モフくん昨日『プーのことが好きだった』って言ってたよね?」


 あ、そういえばそんなこと、みんなの前で言ってしまった。ちょっと、恥ずかしい。


「私ね、それを聞いた時『マジ悔しい〜』って思ったの。だって、モフくんの目がマジだったからさ。まあ、あの化け猫チャトランおばさんじゃなくて良かった〜とも思ったけどね」

「……」

「私バカだけど、好きになっちゃう気持ちのことは、自分で良くわかってる。モフくんは多分、操られているんじゃなくて、その犬のことが好きなだけなんだよ」


 にこやかに、でもはっきりとナツキは決めつけた。


「俺は……なんで彼女のことが好きなのか、わかんなくなったんだ。もしかしたら、操られていたんじゃないかなって、今は思ってて……」

「だったら、私もモフくんに操られているよ! チャトランおばさんも、モフくんに操られているよ! 理由はね、私の場合、カッコいいから! イケメンだから!」


 きっぱりと、何のてらいもなく、ナツキは断言した。


「何で好きなのかって、それきっと、モフくんが彼女のこと『かわいい』って思ったからに決まってんじゃん。理由づけなんて、バカみたい!」


 そうか、そうなのか。

 俺、プーの仕草が可愛いと思って。

 すごくプラス思考で、オプティミストで楽天的な考えがいいなと思って。

 元人間同士で、一緒にいて、話してて楽しいと思って。


 それで、プーのことを好きになったんだ。

 別にそれ以上の理由なんて、元々ないんだ。


「わたし、諦めないから! 魔王から、モフくんの心を奪ってみせるんだから!」

「はは。ありがとうな、ナツキ」

「何よ? 感謝するなら私と付き合ってよ!」

「考えとくよ」

「あー、なんだかテキトー。ちょっと! 本当にアンタ、魔王には操られてないんでしょうね?」


 今なら、自信を持って言える。


「ああ。心は奪われているけど、操られているわけじゃない。魔王は魔王、プーはプーだ。どうするかは、これから考える」


 俺がそう言った時。

 ガチャリと俺が入っている檻がある部屋のドアが開き、人が入ってきた。

 佐藤パパ、その後ろには賢者ソースやサバトラ、チャトランの姿もあった。


「モフ、すまなかった。試すような真似をして、本当に申し訳ない」


 俺が無傷で戻って以来、動物軍の中には「勇者は魔王に操られているのでは?」という声が絶えなかったという。そのため、今回みんなで作戦を立て、俺の本心を聞き出したというのが佐藤パパの説明だった。


 檻から出された俺に、さらに賢者ソースが続ける。


「お主が操られていないとすると、考えられることは一つじゃ。魔王は、お主のことを特別視しておる。だから、お主の怪我だけをそのチカラで治癒してくれたのじゃ」

「特別視って……」

「だからそう言ったでしょ、賢者様。針の穴を通すような作戦だけど、多分いけそうだって」

「うむ、やむをえんな」


 パパさんと賢者様だけが何やら目配せをして頷いている。


「ちょっと、何がどうだっていうんですか? その作戦、教えてくださいよ」

「そうだね。じゃあ早速、作戦決行だ。モフ、急いで新宿に行くよ」

「はっ?」


 そして俺は作戦名「針の穴」の全貌を教えてもらった。

 その作戦があんなにうまく行くなんて、聞いた時は思ってもみなかったけどね。

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