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転生最弱ポメラニアン、魔王を倒す  作者: キサラギトシ
第七章 ポメラニアンの苦悩
124/144

124 魔王に、操られていた

 結局、解決策が何一つ提示されないまま、その夜の会合はお開きになった。

 残ったのは佐藤パパさんと相田さん、俺、賢者ソース、サバトラとチャトラン、ナツキだった。


「とりあえず、明日1日考えよう。公安でも今晩、僕の上司が作戦を立案中だ」


 確かに、賢者でもお手上げなのに、俺にいい案なんて浮かぶはずもない。


「ただ一つだけ、針の穴を通すような可能性の薄い作戦がないでもないんだけどね」

「……佐藤さん、その作戦だが、我は難しいと思うぞ」

「賢者様、確かにおっしゃる通りですが、まあ一度説明させてもらえますか?」


 なんだろう、その作戦って。残った俺たちは車座になって話を聞いた。


「まずモフ、君が魔王軍の動物支部で倒れていたのを救った日のことを話そう」

「……そうでしたね。もうすっかりそのこと、忘れちゃってました」

「無理もないね。あの日、僕は車で建物に突入したあと、ビルの外で状況を見守っていたんだ」


 佐藤パパは、魔王軍横浜支部の入り口に車を突入させた後、一旦姿をくらまし、バレないように服装を変えたのちに支部に戻ってきたそうだ。


 すると、横浜支部のあるビルの入り口に白のワゴン車が付けられた。運転していたのは、教団の幹部だったという。

 すると、ビルから数匹の動物が出てきた。先頭には茶色いトイプードル、つまり魔王がいた。続いて、項垂れたままヨロヨロと歩くミニチュアシュナウザー、大きなツキノワグマ、茶色の柴犬が現れ、そのまま4匹の動物はワゴン車に乗り込み、どこかに立ち去っていったという。


「決死隊の豆之助が一緒に歩いていたことに驚いたけど、僕が一番恐れていたのは、モフたちの姿がないことだった。もしかしてと思い、僕は急いでビルに入っていった。そこで見たのは、倒れているモフと、瀕死の決死隊の動物たちだったんだ」


 サバトラを始め、ファンキーもドンキーもヴァイキングも、主要だったメンバーは重症。横浜第一地区と第二地区の精鋭4匹は、残念ながら死亡していたそうだ。


「僕は息がある君たちを急いで動物病院に搬送した。でもね、モフ。君だけは、まったくの無傷だったんだ」

「……無傷だった? そんなバカな。俺、怪我してましたよ?」


 あの夜は、戦いの連続だった。大怪我をした記憶はないけど、豆之助と戦った時に多少の擦り傷もあったはずだ。


「まるでね、誰かに治癒されたかのようだったよ」


 まさか。

 魔王が、いやプーが、俺の傷だけを治してくれたとでも?

 なぜ魔王が、敵である勇者の俺を……?


「ただね、傷はなかったけど、君は心に大きなダメージを負っていたようだった。本来だったら1ヶ月は続くはずの『進化の秘宝』の効果が切れ、君はサモエドからポメラニアンに戻っていた。そして、傷もないのに1ヶ月目を覚まさなかったんだ」

「……」

「ここからは、僕がモフに質問だ。君はなぜ、勇者なのに、魔王に殺されなかったんだ? ましてや、傷を治してもらうなんて普通ではない」


 チャトランとナツキが、何かに勘づいたかのように目を見張る。


「僕はその時、まだ魔王があのトイプードルだとは知らなかったんだ。でも、君はあのトイプードルのこと、知っていたらしいね? サバトラくんに聞いたよ。なんでも、トイプードルを探していたそうじゃないか」


 どことなく、佐藤パパっぽくない喋り口だ。まるで、僕が敵であるかのような、慇懃な感じの口調だ。そうか、俺は……


「モフ。君は、魔王の何なんだい? 操られているのかい?」


 俺は、疑われているんだ。


 ショックだった。俺を探し出して飼ってくれた、元は俺の飼い犬の「モップ」だった、佐藤パパさんに。一緒に旅をしたパーティの賢者やサバトラに。そしてチャトランとナツキにも。


「……俺は……」


 操られていたのか? 彼女のことを好きになるように。


「俺は……魔王になる前の、プーのことが好きだった。そして彼女もたぶん、俺のことが好きだったんだと……」


 思っていたけど、根拠はない。すべて、魔王の作戦だったのかもしれない。最初から、魔王の思う通りに進んでいるだけかもしれない。


「…………魔王に、操られていた、かもしれない」


 みんなの、目線が冷たかった。さもありなんだ。だって、動物軍の希望である「勇者」が魔王に操られていた可能性が高いのだから。勇者本人がそう認めたのだから。


「モフよ。お主の疑いが晴れるまで、すまんが拘束させてもらう」


 沈んだ声で賢者ソースが言う。


 ◇◇◇


 俺が拘束されたのは、佐藤家の近所にある空き家に設置された、頑丈な檻だった。

 あの後すぐにこの檻に佐藤パパさんによって入れられた。

 見張りは、なぜか付けられなかった。もしかしたら、魔王に操られているかもしれない俺を、恐れてのことだろうか。


 俺はゴロリと檻の中に横たわった。目を覚ましてから、ちゃんと一人で考えをまとめる時間はなかった。今、俺は俺自身のことをよく考えなければならない。


 俺は、本当に魔王に操られているのか?


 プーとの出会いは、六本木のペットショップだった。思えばそこには、魔王の使徒がいて、賢者ソースがいて、アフロディーテがいて、くーちゃんがいて、豆之助もいた。

 だけどペットショップでまともに話したのは、プーだけだった。


 プーは俺に「一緒に逃げ出さない?」と誘いをかけた。不幸な売れ残りの犬になりたくないから、というのがその理由だった。


 ペットショップからはうまく脱出できたが、その晩のうちに魔王の使徒に見つかり、俺たちは離れ離れになった。


 そもそも、俺はなんで彼女のことが好きになったんだっけ?


 元は人間の女子大生の、可愛らしいトイプードル。一緒にいた時間は、ほんの1日程度。どんな性格なのか、どんな過去を送ってきたのか、本当のところは何も知らない。


 あれは全部、演技だったのだろうか。

 俺の心を取り込んで、勇者の心を掴んで、操るためだったのだろうか。


 そうだとしたら。

 俺はバカだ。勇者だなんて恥ずかしくて名乗れないほどの大バカだ。

 魔王にいいように心を操られて、ずっとそれに気づかなくて、今も「そんなはずはない」って自己弁護している愚か者だ。


 もう、ダメだ。何のために俺、生きているんだっけ……?


 佐藤パパにも、仲間たちにも、疑いをかけられている、自称勇者。その実は、魔王の操り人形と化した哀れなポメラニアン。


「……プー。俺を、助けてくれ……」


 無意識に口に出したのは、大好きな犬の名前だった。

 俺の心を操っている、魔王の名前だった。

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