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推し活は肉弾戦

 精霊は神殿内に現れなかったのでレヴィは恐怖体験をせずにすんだ。

歓迎式典に十分間に合う時間に目を覚まし、すぐに傍にいたリアムにお化けのことを一生懸命伝えて「そうか、怖かったな。」と慰めてもらった。

ちなみにリアムはお化けを信じない派だったので、かなり適当に慰めている。お化け怖さに一人でいるくらいなら歓迎式典に参加すると非常に珍しく前向きな姿勢を見せて、歓迎式典に参加することになった。


 主神殿ではミサが開かれており、デナーリスが参詣した信者とともに女神に祈りをささげている。

 乳白色の生地に金色の刺繍が施されたミサ用のローブを羽織り、大勢の信者の前で優雅に微笑んで手を振ればそれだけで大歓声が沸く。


 レヴィはその様子をこっそり主神殿の3階からリアムとラリーと一緒に見下ろしていた。ターオの主神殿は横幅はさほどでもないが高さがあり、巨大な女神像が祭られている。祭壇が半円の舞台上にあり、そこから吹き抜けの3階まで届くほどの大きな女神像が主神殿の象徴となっている。

 祭壇に飾られた色とりどりの花束はすべて花の乙女デナーリスに捧げられた信者からのお供えものであり、祭壇に収まりきらないものが神殿中至る所に飾られている。


 1階には多くの信者、2階のバルコニー席にはターオの有力者が座り、3階では神殿の関係者が大勢つめかけ一目でも花の乙女を見ようと集まっている。

 大勢の信者を前にしてもデナーリスは堂々としている。同じ村で育ってずっと一緒にいるのに、信者の前にいるデナーリスは不思議といつもと違う存在に見える。衣装のせいかもしれないが普段より大人びている。

 大勢の人に注目されるなか滔々と祝詞を口にしミサでの勤めを果たしていく。人前に立つと頭が真っ白になってしまうレヴィにとって、臆することのないデナーリスはカッコ良くて尊敬できる幼馴染だ。


粛々とミサはすすみ、最後にデナーリスが錫杖を掲げた。


「皆様に祝福を。」


 ふわりと風がおこると、捧げられた花束から花ビラだけが舞い上がる。そして神殿内を一瞬で吹き抜けると、風はその勢いのまま開け放たれた扉から神殿前の広場にまで花ビラを届けていく。

 わーっと神殿からも神殿の外からも歓声があがり、みなが美しい花びらに手を伸ばす。


 レヴィのいる3階にも花びらがヒラヒラと飛んできてラリーが一生懸命手を伸ばしている。

 レヴィはデナーリスのこの魔法を見るのが大好きで、いつもワクワクして待っている。今日も花びらを捕まえるとそれをハンカチで包んだ。集めた花びらはビンに入れてコレクションにしている。

 ミサで使用されずに残った花はレヴィの花輪づくりに回されるのだが、それとこれは別で、デナーリスの魔法の花びらはレヴィにとってのお守りなのだ。


 興奮さめやらない熱気のままデナーリスの1回目のミサが終了した。この町に滞在中何度もミサが開かれる予定で、デナーリスがミサに参加する町はいつも活気に満ち溢れる。


ミサが終わって裏側にはけたデナーリスを1階におりたレヴィたちが迎え入れる。


「レヴィ、もう大丈夫?」

「うん、見て見て今日の戦利品。紫色の花びら。」

「どこで見てたの?」

「3階。」

「素晴らしいミサでした!」

ラリーがすかさず褒めたたえる横で、リアムもお疲れ様とデナーリスを労わる。

「ありがとうございます。リアムもお疲れ様。そちらは大丈夫だった?」

「ああ、問題なかった。」

「ダニー、あの魔法、俺の馬車でもやってよ!」

「それはだめ。」

「えー、けち。」


 天下の花の乙女に自分のためだけに魔法を使えと簡単に口にできるレヴィである。冗談でも口にできないラリーと、ついでに周りの神官たちが羨ましそうにそのやり取りを見ている。


「あっ、髪の毛に花びらついてる。取ってあげる。」

レヴィは無造作にデナーリスの髪を触るとその花びらをポイッと捨てた。

ラリーがその花の落下先を静かに見守っている。


「あっ、ここにも、ここにも。すごいいっぱいついてる。」

ポイッポイッといくつかの花と葉っぱを取り除くと、レヴィの関心はすでに神殿の女神像に移っている。


「ここの女神様すごい大きい。近くで見たいから見に行こう。」

「今はまだ片づけ中で迷惑かけるわよ。」

「じゃあ片づけ手伝うから見たい。」

「ちょっとだけよ。迷惑になりそうだったら明日にするからね。」


 なんだかんだレヴィに甘いデナーリスとリアムの3人が歩き出して祭殿の扉を開けた瞬間、ラリーはすかさず動いた。


 周りの神官たちも同じタイミングで地面を蹴る。

スライディングでの争奪戦のすえ、ラリーは最初にデナーリスから取り除かれた花びらを手に入れた。


 推し活は時に肉弾戦である。


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