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お化けが出ました

 思いがけず一角獣が捕獲されたという出来事があったが、旅団は順調にターオの街に到着した。

大所帯だとさすがに悪目立ちするので、いくつかの隊に分けられる。


 このままターオの主神殿に向かうデナーリスとレヴィの隊と、ターオの要所に向かうリアムとウェイロンの隊、ギルドめぐりをするので小回りの利く小隊となったロイの隊に分かれる。3隊に分かれると責任者が変わる。


 デナーリスとレヴィの二人の警備責任者は大国イルラロンドから派遣されているSランク冒険者のメイソンだ。その従者としてラリーが付きそう。

 メイソンはかなり有名な冒険者でとにかくいかつい。オーラというか威圧感があるうえに悪人顔でレヴィは苦手としている。萎縮したレヴィは馬車の中で無と化していた。


4人が同乗する馬車の中で唯一喋っているというか喋り倒しているのが、同世代参加者のラリーだ。


「こちら“いつも君を見守ってるよ”君の試作が完成しましたのでぜひご覧ください。一見するとただの手鏡、どなたがお持ちになっても不自然でないよう枠はシンプルな木製にしました。希望があれば素材をかえて装飾することも可能です。性能の問題上あまり大きくできずこのサイズとなってしまったのが残念です。ナバイア君ほどの魔力がある人ならもっと大きいサイズでもよかったんですが。しかし、ここはあえてこのサイズとしました。その方が待ち運べる、まさに“いつも君を見守ってるよ”君にふさわしいというものです。」


ラリーはただただデナーリスに向かって魔道具を紹介している。


「デナーリス様ぜひ手に取ってみて下さい。普通にお、お美しいデナーリス様のお姿が写っていることと思います。ではここの起動スイッチに魔力をこめて、こんにちはと手鏡に微笑みかけてくださいますか。」

「こんにちは。」

「ぶほおおおお。ご協力ありがとうございます。さすがデナーリス様。その、と、とてもお美しい微笑でした。か、完璧です。さて、ではこちらの鏡の持ち手を握りながら少し魔力を流していただき、もう一度こんにちはとお声を出していただいてよろしいですか。」

「こんにちは。」

『こんにちは。』


鏡からデナーリスの声が出たので、無と化していたレヴィも思わず横から鏡を覗き込んだ。

「まぁ、すごいわ。この手鏡。見ててレヴィ、もう一度、こんにちは。」

『こんにちは。』

覗き込んでいるのはレヴィなのに手鏡にはデナーリスが浮かび上がっている。

鏡のなかのデナーリスはにっこりと微笑み、デナーリスの声で喋っている。

「鏡の中にダニーがいる・・。」


「デナーリス様ありがとうございます。その手鏡をこちらに頂いてよろしいでしょうか。もちろんご本人以外の人が起動させても登録された者の姿が写し出されるようになっております。私の魔力を流しても「こんにちは」『こんにちは』ごごご、ご覧の通りデナーリス様が映し出されます。もうお分かり頂いていると思いますが、デナーリス様のお姿とお言葉をこの手鏡に取り込まさせて頂きました。現在まだ試作品の段階ですので一言が限界です。また起動するにも魔力が必要でして、今回は単純に「こんにちは」と同じ言葉を繰り返せば起動するようになっております。残念ながら魔力のない方にとってはただの手鏡です。このあたりがまだ改良が必要な点ですし、どうしても一点物となってしまい高価なうえに、た、たとえばデナーリス様のような皆様から慕われる方ですと需要が高まりすぎて登録者の負担が大きくなってしまいます。なので、おそらく市場から熱望されるかと思いますが、まずはウェイロン様と協議の上、精霊の活性化のために使っていくこととなるかと思います。しかし、いずれは改良を続け多くの方が家族であったり、その、し、慕わしい方を身近に感じられるようにしたいと思います。」


ラリーがノンストップでそこまで言い切るとドヤ顔をしつつ、さっと手鏡を胸ポケットにしまった。


「素晴らしいです。ラリーさんは本当に天才です!さすがイルラロンドの開発王です。」

「そ、そ、そ、そんな。褒めすぎです。私はこの旅団でお役に立てるよう精進するのみです。」

「お心掛けも立派です。その手鏡感動いたしました!次の試作品が出来ましたらぜひ私にも頂けますか?」

デナーリスがぎゅっとラリーの手を握った。

「ぶほおおおお。も、もちろんです。真っ先にデナーリス様にお渡しします。」

「ありがとうございます。嬉しいです。」


デナーリスが笑顔のまま手を離すと、ラリーは真っ赤になったまま額の汗をぬぐった。

「デナーリス様の期待にお答えできるように今すぐ改良点を考えねば・・・・。」

とブツブツ言いだすと、その場で手帳を開いてなんだかよく分からない計算式を書き始めた。


 レヴィがちらりとデナーリスを見るとご機嫌で「ラリーさんは本当に素晴らしい開発者よ、推し活の神だわ。」と胸を押さえている。

 絶対にウェイロンさまを登録する気だ。ウィンウィンなのだろうか・・。


 レヴィが再びスンと無に化しているうちに馬車はターオの街を走り抜けていく。

デナーリスが乗車していることもあり、外から見られぬよう馬車にはカーテンがかけられ残念ながらターオがどんな街なのか見ることはできない。

しかしどうせならチラっとでも見たい。

ちょっとだけならいいかなと、カーテンの隙間から覗いてみる。だが街は見えず、あれ?と思ったところでレヴィはそれに気が付いた。


落ちくぼんだ黒い目に振り乱したようなボサボサの髪。

馬車は動いているにも関わらずこちらを覗きこむように窓に張り付いている。


レヴィは一瞬で固まって意識が遠のいた。


「どうした。」

ハッと気づいたメイソンが肩を押さえてくれたので、失神を免れたレヴィがハクハクと口を震わせる。

心臓が異常な音を立てる。レヴィは震える指でカーテンをさす。


「おおお、おおおおおお、おおおおおおおおおおおお」

「レヴィ、どうしたの?」

「おばけ出たぁああああああああああああああああああああ。」

「はぁ?」


レヴィの大絶叫に三人が耳を抑える。

「こんな真昼間にお化けなんて出るわけないでしょ。」

「でも、でも、そこにいる。」

レヴィのあまりにも怯えた態度にメイソンが訝し気にカーテンを少し開けた。

「おい何もいないぞ。」

「い、い、い!」


いる~と言おうとしてレヴィは今度こそ失神した。

黒い髪のお化けが口をニタァと開けて笑っていたのだ。

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