ダンゴハネムシ
「ウェイロン様、セルバス様をお連れしました。おまけに、レヴィもいます」
「ありがとう。どうぞ、なかへ」
現在、ウェイロンが執務室代わりに借りているのは、神殿の隠居神官たちが集会所のように使っている一室だ。小さなキッチンにダイニングテーブル、ゆったりとくつろげるソファスペースがあり、素朴ながらも質の良い調度品と観葉植物で整えられている。
ウェイロンがいると、まるでハイエルフの隠れ家に紛れ込んだような雰囲気がある。
「ちょうどハーブティーを淹れたところです」
ゆったりとしたローブを羽織ったウェイロンが、長髪をさらりと耳にかけながら、穏やかに微笑む。デナーリスがいれば「はわわわわ。オフ感最高」と呟いていただろう。
レヴィがすすすとウェイロンに近寄り、手伝いを申し出る。
「ありがとう。では、これを運んでください」
「はい!」
ダイニングテーブルに座ったセルバスの前に、ハーブティーを置く。
「ふむ。良い心がけだ。いただこう」
セルバスに褒められ、レヴィはちょっとだけびくっと肩を揺らしてから、そそくさとウェイロンのもとへ退散した。キッチン近くの椅子に隠れるように着席したが、すぐにエイダンに連行され、セルバスの斜め向かいに座らされる。
「はい。レヴィはこっちね」
残りのハーブティーを用意し終えたウェイロンが、レヴィの隣に腰を下ろす。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
護衛の二人は部屋の外に控えているため、室内にはウェイロンとセルバス、エイダンとレヴィしかいない。
セルバスを前にして落ち着かないレヴィは、キョロキョロと視線を彷徨わせていたが、やがてスンとフリーズした。頼れる幼馴染がいないこの場では、置物に徹することに決めたらしい。
「ウェイロン、一体どうなっている」
「相変わらず心配性ですね。大丈夫です。逆に、今のところ、どうにもなっていない、とお伝えしたほうが良いでしょう」
「デナーリスの霊力の塊を、二つも沼に沈めたと聞いたが?」
「デナーリスからレヴィへの贈り物ですよ。ダンゴムシ型なところに、彼女の優しさを感じましたが、残念ながら二つとも沼地に沈んでしまいました」
セルバスの眉間に、深い皺がよる。
「それで、何もなかったと? 吸収されたんだろう?」
「ええ、せめて刺激か栄養になっていればいいんですが」
「怒らせてはいないだろうな?」
「それは大丈夫でしょう。ねぇ、レヴィ。……いえ、怒っているのはレヴィの方でしたね。ふふ」
二つめのダンゴムシが沼地に引き込まれた際、レヴィは「また食べられたぁぁぁ」と叫び、その場で地団駄を踏んで悔しがっていた。レヴィは隣のウェイロンをチラリと見てから、ぼそぼそと口を開く。
「……次は、羽のはえたダンゴムシをもらいます」
「なるほど、それはもはや、ダンゴムシではありませんね」
「えっ!? じゃ、じゃあ、羽があるから、ダンゴ、ダンゴハネムシ……?」
「なにその名前、新種じゃん」
エイダンの突っ込みに、ウェイロンが楽しげに笑う。
「ダンゴハネムシ、悪くないネーミングですね。シンプルで、イメージも湧きやすい」
「そ、そうですか。えへへ。じゃあ、これからは、ダニーのダンゴハネムシって呼ぼうかな」
「普通に、ダンゴハネムシで良くない?」
「でも、ダニーしか作れないし」
「名前はダンゴハネムシでいいだろう。それで、なぜ羽がいる?」
ハーブティーを一口飲む余裕を見せてから、セルバスが話を軌道修正した。ずばりと聞かれて、レヴィの目がまた泳ぎ始める。
「怒らないから、言ってみなさい」
セルバスの促しに、チラリとウェイロンを見上げる。
「大丈夫ですよ。私も一緒に怒られますから」
ウェイロンが優しく肩を抱き寄せると、レヴィはぐふふと嬉しそうに声を漏らす。もっとも、ウェイロンはすでに怒られる前提だ。
勇気をもらったレヴィが、キリッとした表情で宣言する。
「もう二回もダンゴムシ取られた! 今度は俺が精霊捕まえる番! ダニーのダンゴハネムシで、やっつけてやる!」
「……なにが、やっつけるだ! 精霊のことは敬いなさい!」
案の定、怒られたレヴィであった。




