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番外編 なかなか我慢は難しい

「おい、レヴィ。」

ロイは花馬車の扉を開けた瞬間「ゲッ」と声をあげた。

そしてすぐにバタンと扉を閉めた。レヴィが中でシクシクと泣いているのだ。面倒な気配しか感じない。そのまま見なかったことにしようとしたが、はぁと溜息をついて、もう一度扉を開けた。

「おい、どうした?」

レヴィはチラッと顔をあげると、視線でお前じゃない感を出してシクシクと泣き続ける。一瞬ぶん殴ろうかと思うが、なんとか堪えて馬車に乗りこみ、レヴィの額に手をあてる。こういう時のレヴィは大抵体調が悪い。

「ちょっと熱いな。」

「頭痛い。」

「エイダンとイーサン様はどうした?」

レヴィが馬車の中で一人きりというのは珍しい。たいていは誰かが傍についている。

「お医者様とダニー呼びに行った。」

「ふーん。」

突然の休憩と、何だか周りがバタバタしていたのは、こいつのせいか。合点がいったロイは取り合えず馬車の空いた席に座る。泣くのをやめたレヴィが「おれ、頭痛い。」と再度訴えてくる。

「それ、泣く前にちゃんとイーサン様に伝えたんだろうな?」

「・・・・。」

はぁ、とロイは溜息をついた。

どうせ朝から我慢して限界がきて泣き始め、イーサン様を慌てさせたのだろう。

「我慢するなら我慢し通せ。それが出来ないなら先に言える人間(幼馴染)に言って薬をもらえ。結局、今みたいに周りに迷惑をかけることになるんだぞ。」

「俺、我慢しようとした。」

「できてないだろ。」

返事代わりにまたシクシク泣き出したレヴィに対して「ケッ」と吐き捨てる。


 いい年して、頭が痛いとか熱っぽいとかで泣き出すような感情表現しかできないレヴィにイライラとする。

「どうせ我慢できないんだから、我慢するより周りにちゃんと伝えろ。言いにくかったら俺たちに言えばいいだろ。」

精霊の庇護者ということで、ただでさえ甘やかされがちなのだ。言える人間(幼馴染)が厳しく言い聞かせないと、レヴィの甘ったれコミュ障は直らない。138歳のウェイロン様は子供っぽいレヴィのことを孫のように可愛がってしまうし、他国の人はそもそも遠慮がある。セルバスだけはレヴィを叱り飛ばしてくれるが、残念ながら彼は忙しい。


 馬車の外から人が近づく気配があり、「レヴィ、大丈夫?」という妹の声とともに馬車の扉が開いた。デナーリスと医師、後ろにイーサン様やウェイロン様もいる。混み合いそうだなと思ったロイはさっと馬車を降りた。

「ダニー、俺、頭痛い。」

「うん、お医者様に見てもらいましょ。」

「魔法で治して。」

「まずは診察よ。」

デナーリスにあしらわれたレヴィの隣に旅団の医師が座り、パパっと診察をするとカカカと笑った。

「少し疲れが出とるようじゃが、なに、たいしたことはない。薬を飲めばすぐによくなる。」

レヴィの顔が引き攣っている。このじーさんの薬はもれなく苦い。

「ダニー!」

レヴィがダニーに泣きついて、魔法で治癒してくれと訴える。

「それくらいで魔法に頼ってたら、自己治癒力が落ちるからあまり良くないんですって。」

「カカカ!我慢してワシの薬を飲むことだ。さて、よく効く薬を煎じてくるとするか。」

医師は豪快に笑うと馬車を降りていき、レヴィが泣きながらダニーの意地悪と文句を言っている。ウェイロンは馬車を降りた医師に礼を言いながら薬について話し始め、そのまま一緒に離れていく。

「あほらし。」

どうでも良くなったロイが馬車に背を向けたところで、隣にいたエイダンが「あっ!!」と声をあげた。振り返ると開けられたままの馬車の扉からレヴィがダニーにぐずぐず言ってウザ絡みしているのが見える。

「えっ、あれいいのか!?」

「関わると面倒だぞ。ダニーに任せて、とっとと逃げた方がいい。」

「え?え?いいの?あれ?」

狼狽えるエイダンにロイは怪訝な視線を送る。

「あの状態のレヴィに絡まれたくないだろ。ガキみたいにピィピィ泣いてマジで鬱陶しいし。俺は知らねー。じゃあな。気になるなら面倒見といてくれ。」


*****


 ロイにあっさりと立ち去られたエイダンは、えっ?えっ?と戸惑いの声をあげながら、仕方なく馬車に戻る。

「エイダン様、レヴィがワガママ言ってごめんさい。」

馬車の中ではデナーリスがレヴィの横に座り、広がった金色の髪の毛を優しくすいている。

「い、いえ全く、大丈夫です。」

馬車の中、普段よりも近い距離感のデナーリスに、エイダンはドギマギしながら答えた。彼女の護衛は大抵女性のエマが付いているし、その弟であるナバイアの方が同じ馬車になることが多い。実に羨ましい。

「ほら、レヴィもエイダン様に謝って。」

「俺、頭痛いだけで、ワガママ言ってない。」

レヴィがデナーリスの()()()の上からモゴモゴと喋った。涙に濡れた宝石のような瞳がエイダンをチラリと見上げる。見慣れていてもドキリとする神秘的な美しさだ。とはいえ、先ほどから繰り広げられている目の前のことについては、敬虔な一教徒として一言物申しておかなければならない。

「レヴィ!」

と意気込んだ瞬間、戻ってきた師匠のイーサンが馬車に乗り込みながら、状況を見てハハハと陽気に笑う。

「デナーリスに()()してもらってるのかい。レヴィは甘えん坊だな。私もしてあげようか?」

「・・イーサンさまでもいいよ。」

エイダンの身体に衝撃が走る。


『花の乙女に膝枕をしてもらうなど超絶羨まし、いや、不敬なことをしておいて、おじさんの膝枕でもいいとか何を言っているんだ。どう考えてもデナーリス様の方が良いに決まっている。そもそもロイはロイで妹が膝枕させられているのに気にならないとはどういうことなんだ。いくらレヴィが身内のような存在だとはいえ対応が甘すぎる。花の乙女だぞ。世界中の信者が一瞬でもいいからお会いしたいと願う女神の化身だぞ。王侯貴族でさえも膝枕など絶対にお願いできない高嶺の花に、苦い薬を飲むのが嫌だとかいうくだらない理由で膝枕をしてもらって超絶羨まし、いや、不敬なことをしておきながら、おじさんに乗り換えてもいいとは一体どういう思考回路をしているんだ。デナーリス様からおじさんだぞ!それならまだデナーリス様から俺の方がマシだろ!』と、ここまでを脳内で0.2秒くらいで処理したエイダンは、デナーリスの膝枕という衝撃に確かに混乱していた。


「それなら俺でもいいだろ!」

結果、気づいたらそう口走っていた。膝枕を不敬だと指摘しようとしたのに、なぜかデナーリスとイーサンに対抗する膝枕希望者の立ち位置になってしまった。

「・・エイダンはいや。」

しかもレヴィに断られる。

「エイダンはダメで、私はいいのか。うーん、エイダンはまだまだだなぁ。やはり頼りがいの差かなぁ。」

満更でもなさそうなイーサンがうんうんと一人頷いている。

「エイダン様、本当にごめんなさい。」

「ダニー、頭痛い。やっぱり魔法で治してよ。」

「もー、ダメだって。ほら大人しく寝ておきなさい。」

「んー。」


なんかめちゃくちゃ腹がたってレヴィをぶっ飛ばそうかと思ったが何とか我慢したとエイダンは後にナバイアとラリーに語って大きな共感を貰った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 番外編とはいえ、更新されてて嬉しい まだまだ読みたい。
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