神官の心を無暗に乱すべからず
部屋に戻る際、リアムとロイはロープを使わず軽々と3階まで登ってしまったがレヴィはそうはいかない。しっかりとロープに捕まり、リアムに引き上げてもらった。リアムは釣った魚を巻き上げるような手軽さで、ひょいひょいと上げてしまう。
尋常ならざる剛腕を持つリアムの怪力さは人間離れしている。ちなみに脚力も尋常ではなく、ちょっと力を入れて蹴ると大抵の物は壊れる。子供の頃からコントロールに苦労した結果、彼は繊細な力加減ができる人間になった。そしてレヴィを引き上げると、リアムはさっさと部屋に戻ってしまった。
ロイとレヴィが見つめ合う。
「じゃあ、部屋に帰れよ。」
「えー、俺の護衛騎士の人呼びだされちゃうじゃん。」
「・・うっ、それはそうだけど。」
「寒くないし、俺ソファで寝る。」
「はぁ、しょうがねぇな。」
そういうことで、レヴィはその晩ロイの部屋のソファに持参の枕を置いて寝ることになった。
レヴィはご機嫌で花カゴをソファの前の机の上に置いた。
その晩の夢の中でレヴィの周りには小精霊が集まっていた。
レヴィの手には花カゴがあり、捕まえた精霊がその中で眩しいくらい光っている。よく見ると、花カゴの中の小精霊は青い球体から膨らんだトゲトゲボディになっている。そして、他の小精霊が隙間から入ろうするとトゲで弾き返している。
周りに集まった小精霊たちは次々と赤色に変わっていく。どうやら花カゴの精霊に文句を言っている感じだった。
レヴィはこの夢の中で小精霊が姿と色を変えられることを知った。思えばウンディーネさまはでかいミミズだ。なら黒髪お化けも、もしかして別の姿になれるのかもしれない。
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「・・おい、起きろ!」
「うーん、赤あげ・・むにゃ・・青あげにゃい・・赤あげ・・むにゃむにゃ。」
「はぁ?おい!朝だぞ!」
「青さげ・・ん?」
レヴィはハッと飛び起きると花カゴをガシッと捕まえる。
「あっ、いる!良かった!」
花カゴの中で青い光がぽよぽよ~と浮いている。昨晩は気づかなかったが、どこか歴戦の猛者を感じさせる風格ある小精霊だ。さすがはぐれ、面構えが違う。
部屋に戻って着替えてから、レヴィは花かごに細い枝を取り付けて持ち運べるようにした。朝で分かりにくいが、精霊が中で発光するので本物の提灯のようになっている。
レヴィはご機嫌で部屋を出ると、呼び出されたばかりの護衛騎士がレヴィの花カゴにギョッとする。神殿に所属する護衛騎士も神官ほどではないがそれなりに訓練を積むので見える人は見えるらしい。
「レ、レヴィ様・・ソレ・・いえ、何でもありません。」
護衛騎士はそういうとだんまりして後は何も言わなかった。レヴィも人見知りを発動させて何も言えなかったのだが、時々思わせぶりにブンブン提灯を振り回しながら進むと、そのたびに後ろの護衛騎士がウッとかグッとか反応するのでちょっと面白かった。
それ以外にも通りすがる神官たちがギョッとして後ずさったり二度見してきたりするので、それも面白くて食堂に着くころにはすっかりドヤ顔になっていた。
「ダニー、俺、精霊捕まえた!」
そして食堂でデナーリスの姿を見つけると駆け寄って花カゴを見せつける。
辺りがシーンとした。
バタッとどこかで神官の一人が気絶して食堂は騒然となりレヴィはデナーリスに怒られた。そして、神官たちの心を無暗に乱すべからずということで、花カゴはいったん取り上げられた。
しかし、駆け付けたウェイロンがレヴィは優しくていい子だとべた褒めしてくれたので、デナーリスに怒られたことも忘れてご機嫌で朝ごはんをモリモリ口に入れていく。
「ねぇ、あの精霊本当に神殿で捕まえたの?」
「うん。昨日の夜3人で中庭に行って捕まえた。」
「酷いわ。なんで私にも声かけてくれなかったの?」
「だってもう遅かったし、ロイは2人もおんぶできないじゃん。」
「こっそり行くからでしょ。普通に行けばいいじゃない。」
「嫌だ。恥ずかしい。」
「なんでよ。」
「見つからなかったらカッコ悪いじゃん。」
「もー、そういうとこだけ自意識高いんだから。」
「そんなに見たかった?」
「精霊取りなんて頭おかしいわよ。見たいに決まってるでしょ。それに私はロイにおんぶしてもらわなくても魔法で飛び降りるくらいできるんだから。」
デナーリスは案外腕白な花の乙女なのである。




