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おおかみちゃん  作者: 功野 涼し
過去も未来も夢見て

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3.踏み出してしまった一歩

 冷めた心を温めたい。そう思うのは至極当然のことだと自分に言い聞かせながらスマホの画面を見つめる。


 自分の心は自分では温められない。


 だから温めてくれる人を探しているのだが、両親には先立たれ、兄弟もおらず、交友関係も狭く友達と呼べる人もいない俺はネットで宛もなく()()を探すことにする。


 ひと昔前なら出会い系とかそんなサイトが盛んだったのは知っているが利用したことはない。それに年を取った中年の男であり、ましてや既婚の身、温もりを求める相手を探すということは後ろめたさがないわけではない。


 話を聞いてもらうだけなら異性じゃなくてもいいのでは? と思いはしたが、昨日の100円玉の温もりを求めて気付けば、女の子を探していた。


 ただ話すだけ、ちょっと会話を交わして温もりを感じたいだけ。やましい気持ちはないんだという気持ちを、ときどき心の底にある黒い気持ちにぶつけ抑えているからなのか、画面をスワイプする指が雑になる。


 金銭のやり取りで互いに利益が合う相手を探す。主に男は性を求め、女は金を求めるかつては援助交際、略して援交などと呼ばれた行為は、肉体関係を排除し気軽に出来るパパ活と呼ばれる行為に浸食され、敷居を低く感じさせ罪悪感を薄めてくれる。


 肉体関係を行わず楽しい時間を過ごすことを主としたパパ活なら犯罪行為ではないし、問題はない。本当に?……と時々涌き出てくる自分への疑念を振り払うように指と目を必死に動かす。


 容姿や性格、どんなことが出来て、値段はいくらという、一見華やかに見えて定型文のような文章の羅列に、どれを選んでいいのか分からず目が滑ってしまう。


 そんな中で『お話しませんか?』とシンプルな文句に会う時間もある程度指定ができ、話すだけだからと値段も安い。

 こんなときにお金をケチるのは良くないとは思うが、月のお小遣いが一万しかない身としては安いのは助かる。


 これ以上探しても成果は得られないだろうし、自分が良いと感じた直感を信じて、その募集へメッセージを送ることにする。


 何を書くか悩んだ挙げ句、シンプルな誘い文句に対し『お話がしたいです』とシンプルなメッセージを送ることにする。


 何度も躊躇し、緊張で震える指で送信したメッセージは、俺の緊張など知ったことではないとあっさりと自分の業務をこなしてしメッセージ送信完了を告げる。


 一言のメッセージを送っただけなのに、とても大きなことを成し遂げたような気分になり生まれ変わった気さえしてしまう。

 つまらない人生のなかで大きな一歩を踏み出した気分だ。

 座っていたベンチから立ちあがって大きく手を伸ばし、久々に充実感を感じた俺は午後からの仕事に励むため歩くのだ。


 定時の時間が近付いた頃、スマホのステータスバーにアプリ内にメッセージが来てることを知らせるアイコンに気付き慌ててアプリを開くと、


『メッセージありがとうございます。私を選んでくれて嬉しいです。沢山お話出来たら嬉しいです』


 短いメッセージだが丁寧な言葉遣いにテンションの上がった俺はメッセージを返すと、いつもより残業に精を出すのだった。

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