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プロローグ
小さな女の子が泣いている。
庭園の茂みに隠れ、ドレスが濡れるのも構わず涙を流している。
そこに突然影が差し、驚いた女の子は顔を上げた。
ポンポンと頭を撫でられ、女の子は何かを言い、ますます激しく泣いてしまう。
その様子に苦笑した誰かは、自分の服が濡れるのも構わずに女の子を自分の方に引き寄せた。
これは夢だと、大人になった女の子は気づく。
だって、これは過去の自分が通った道。純粋で、全てではないけれど世界は優しく美しいと信じていた最後の夜。
霞みがかって見えなかったその人の顔を、彼女はもう知っている。初めてまともに話したあの時、泣きじゃくっていた自分を慰めくれた彼の手が温かくて。少し素っ気ない態度と声が、滅多に見せない彼の素だったのだと、後になって知って、彼女は、ボロボロになっていた胸の奥に、小さく温かい灯が点ったのを確かに感じた。
誰かに話したら、きっと笑われてしまうだろう。たったそれだけの、些細なこと。冷たく傲慢な、国のためなら何だってする男の、気まぐれな優しさのせいで。何て単純なことか。
それでも、確かに彼女は、あの瞬間、恋に落ちたのだ。
昇り始めた朝日がカーテンの隙間から入るのを感じて目覚めた女の子の頬には、張りついた涙の跡があった。




