第4話 生命の剣
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ベンズの後に続いて、螺旋階段を下り、回廊を通り、祭壇を越え、城下町を抜け、橋を渡って門をくぐると、草原に出ることができた。
草原は見渡す限りの緑豊かな大草原といった感じだ。
今の所終わりが見えない。なんて広いんだ…。
「ここはレイアデン草原…我が国の領土ですぞ。」
リハルドが背後から俺に説明をしてくれた。
なるほど、この国の領土か。
しかし、ここでいったい何をするというのだ?
「よし、ここら辺でいいだろう。」
ベンズは、城下町を抜けて50m位のところで立ち止まった。
俺たちも同じようにその場で立ち止まる。
ベンズは俺たちの方へ向き直ると、再び口を開く。
「よし。ここでお前らには”モンスター”と戦ってもらうぞ!」
「え?まじ~…?」
「いきなりモンスターとは…随分と無茶ぶりですね…。」
マコトがメガネを中指でクイッとしながら呟く。
確かにそうだ。いきなりモンスターは鬼畜過ぎる気もする。
だが、いずれは強力なモンスターと戦わなきゃいけないんだろどうせ…。
だったら今のうちにモンスター慣れしておくべきか。
「安心しろ。いきなりは無理だ。最初は獰猛レベルの低い雑魚モンスターからだ!」
そういえば、昨日の夜はモンスターの説明も受けたな。
確か、モンスターは強さや危険度ごとに獰猛レベルが設けられているらしい。
獰猛レベルは数値化されているらしいが、雑魚モンスターというから、おそらくレベルは1とか2だろ。
「あそこに丸いのがいる。見えるか?」
ベンズは、草原の奥の方を指差す。
確かに、何やら茶色くて丸い物体がある。
距離は15mちょっとくらいだろうか?
「あれは獰猛レベル2のコロンだ。あれくらいなら大丈夫だろ。」
そう言うと、ベンズは独りでにコロンの方へと走り出す。
コロンはベンズに気付いて逃げようとするが、ベンズは躊躇することなくコロンを持ち上げ、こちらに向かって思い切り投げつける。
「オラァァ!こいつを倒してみろ!」
何やら叫んでいる。
しかし、ベンズの思惑通りに事はいかず、コロンは投げつけられた勢いで死んでしまったようだ。
その場で灰となって消えていった…。
「おいおい…野蛮すぎるぜベンズ…。」
マサルに付いた気分屋であろう男がそう呟く。
俺はベンズを見るが、コロンが死んだことに気付かず、次々とこちらに向かって投げつけてくる。
無論、コロンは俺たちの前に姿を現すことなく灰になる。
「…これどうすればいいの?」
「仕方ないですな。あそこのコロンを倒しましょう。」
リハルドはすぐ右を指差しながらそう言った。
見てみると、確かにコロンが一匹、こちらを見て威嚇している。
「威嚇していますな。」
「大丈夫?怒らせちゃった?」
「威嚇するということは、モンスター側が、勝てると思っている証拠。本当に怖いものを目の前にすれば、さすがのモンスターも恐れて逃げていきますので。」
なるほど、確かにベンズを前にしたコロンは震えていた気もするな…。
ベンズ…あいつ鬼だろ。
「…ではスグル様。さっそく戦闘開始でございます。」
「お、おう…。」
戦闘の仕方なんか分からない俺は、とりあえず背中の生命の剣を構えた。
ゲームなんかではやったことがあるが、こういうのは適当に斬りつければ勝てる。
「よ、よっしゃ!」
俺は唾を飲み込むと、無言でコロンに斬りかかる。
コロンはそれに驚き、その場から動くことはない。
見た目が若干可愛いため、ちょっと抵抗があるな…だが仕方ない!
俺は剣を振り下ろす。
それは明らかにコロンに直撃した……筈だった。
しかし、それはコロンを切り裂くことはなかった。
「え?…なんで?」
俺の振り下ろした剣は、確かにコロンの体を貫いた。
しかし、貫いただけで、外傷は一切なく、むしろ元気になっている気がする…。
「ねぇおかしいって!」
俺は焦って剣を引く。
コロンはここぞとばかりに悪そうな顔で俺に噛み付いてきた。
「うわ!」
俺はコロンに足を噛まれた。
こいつ…意外と力が強い…。
噛まれた足をブンブンと振り回し、コロンを何とか振りほどく。
コロンは吹っ飛ばされる…。
「痛ってぇ…。」
コロンに噛まれた右足首を見ると、僅かに血が出ている。
歯形もくっきり残っていて、なんだか生々しい…。
「うおおぉ…怪我したぁ…。」
その場でウダウダ言っていると、俺の持っていた生命の剣が薄紫色の光を発した。
俺は驚き、その場に剣を投げ捨てる。
剣から出た光は、線状になり、コロンに噛まれた傷跡へと纏わりつく。
「は?何意味わかんない!」
俺は気味が悪くなり、右足を上下にブンブンと振る。
しかし、光が振り払われることはない。
暫くして、光は消えた。
俺は、光が消えた後の自分の足を見て、唖然とする。
「え…!?」
「!!」
それには、さすがのリハルドとティアも驚いているようだ。
そう、足首の傷は、綺麗さっぱりなくなっているのだ。
傷が治った…いや、むしろ、噛まれる前の足より綺麗かもしれない。
ただでさえ白い俺の足は、また更に白く見えた。
「……すごくね?」
「うむ…これは驚きましたなァ…。」
「これが……生命の剣……。」
ティアとリハルドはもれなく感心中のようである。
しかし、感心しているのは俺だって一緒だ。
攻撃型ではないこの剣…傷を癒すことのできる剣だ。
「…今まで傷を治すタイプの武器はいくつか見てきましたが…ここまで早く、それも完全に傷を治すことのできる武器は初めて見ました…。」
リハルドは目を輝かせてそう言う。
さすがは勇者の武器…と言ったところだろうか。
しかし、この剣には大きな問題がある気がする…。
「いや…確かにすげぇ武器だけど……これじゃあ攻撃しようがなくね?むしろ、相手の傷を治しちゃいそうな気がする…。」
「た、確かに…。」
そうだ。これでは戦いようがない。
完全補助系じゃないか。道理で女性専用なわけだ。
「どうすんだ…。」
俺はその場にしりもちをつきながら、辺りを見回した。
いつの間にか、他の3人もコロンを見つけて戦闘をしている。
アユムは、黒い槌を振り回してうまいこと敵を倒してる。
あいつ、運動が嫌いと言っておきながら、結構いい動きをしている。
あいつに付いている女性魔導師2人も、感心している。
マコトは弓矢を射っていた。
矢は木とか鉄じゃなく、青白い光の矢だった。
さすが勇者の武器…矢の本数は無制限というわけか。
それに、さすが弓道歴7年。
矢を射るその姿は、なかなか様になっている。
そして、驚くべきなのはマサルだった。
絶対戦闘強そう…とは予想がついていたが、その強さは予想以上だった。
2本の太刀を華麗に使いこなし、いつの間にか前に進んでいる。
「うわぁ…なんかみんなすげぇ…。」
「退魔の武器ですからな……しかし、本当にどうしましょうかスグル様。それでは敵を斬れないですな…。」
リハルド…言っていることは正論なんだが、フォローはないのか…。
ここまで悠然と敵を倒している他の勇者を見て、俺は結構ショックがでかいんだぞ!?
すると、再び剣が光り出した。
今度は先ほどとは違って、赤黒い不気味な光だった。
その光は線状となり、なぜかリハルドが持っている杖に向かっていった。
「え?なんで!?」
俺は思わず声を上げる。
リハルドも驚く。
杖は、赤黒い光を纏ったようだ。
「……どういうことですかな…これは…。」
さすがのリハルドもこれには戸惑っている。
すると、ティアが何かを思いついたような表情を浮かべ、口を開いた。
「分かったかも!リハルド、なんでもいいから魔法を使って!」
「ま、魔法ですな…。」
リハルドはティアに言われたとおりに、杖を前に構え、魔法を繰り出す構えをした。
「ウォム!」
リハルドがそう唱えると、杖からは水が飛び出す。
ただの水ではない。刃状に鋭くなった水だ。僅かに赤黒い。
その刃状の水は、先ほどのコロンに直撃。
コロンは体に傷を負って、灰になって消えた…。
「…え?何が!?」
何がしたかったんだ…。
今の状況を分析するに、ただ単にリハルドの魔法がコロンを倒した…ということだろ?
「ティ、ティア!?いったいどういうことだ?」
「…今一瞬見えたんだけど…コロンが負った傷には、リハルドの魔法によるものと…もう一つ……あなたの足の歯型があったわ。」
「!?」
つまり…どういうことだ?
俺が負ったはずの傷を、コロンも負ったということか?
「な、なるほど…つまりはこういうことですな!」
リハルドは自分なりの考えを口に出す。
どうやら、生命の剣によって俺の傷は完治したわけだが…その”ダメージ”は消えることなく、剣の中に保管されたようだ。
そして、保管されたダメージが、リハルドの杖に纏い、魔法と共に放出されたわけだ。
必然的に、リハルドの魔法には、もともとの魔法の威力にプラスして、俺が足に負った分のダメージが加わったということか。
「おおおおおっ!それってすげくね!?」
「確かにすばらしい能力ですな!」
「…言うならばダメージの再利用…ってことね。」
ティアななんかちょっとかっこいい感じのことを言った。
しかし、その後に怪訝そうな表情を浮かべる…。
「…どうされましたティア殿?」
「…確かに凄い能力だけど…ほんとは女性が使うべき能力だったんでしょ…?」
ティアのさりげない発言に、俺はビクッとする。
そんなことを考えていたとは…だからさっきまで不機嫌そうだったのか。
「そんな能力を…男であるあなたが本当に使いこなせるのかな?」
「うっ…。」
それもそうだ。
女神の神託によれば、勇者のうちの一人は女性でなくてはならない。
しかし、召喚士のミスで、男である俺が召喚されてしまった。
本来女性が使うはずのこの剣を、男である俺が使っているわけだ。
そりゃあ…不安にもなるか…。
「いや…うん。確かにそうかもだけど、何か後戻りはできないらしいし…。」
「…やれるの?」
「ふぇ?」
ティアは可愛げな眼差しで俺を見る。
俺は少しドキドキしていたが、冷静になって応える。
「や、やれるわ!だって俺、男だし?」
「そんなの分かってるわよ!私だって、女性に付けると思ったのに…まさか男が来るなんて…。」
いや待てそれは知らん。知ったことではないぞ。
「ま、まあとりあえず…俺を男として見てるなら…それは嬉しい気もする…。」
「アンタなんか顔以外バリバリ男じゃない!」
「あ、ああそうだよ!ついでだからこれからの長旅を機に、顔も男前になってやるよ…!」
なんだか低レベルな口喧嘩が始まった。
リハルドは、それをニコニコしながら見守る。
幸先は不安だが、仲間とは上手くやっていけそうだ。
これからの長旅…どうなることやら……。
冒険は次の次くらいからかもです…。