第二十四話
「このような、人間として生きられぬ人々が何故懸命に生きるための努力をするのか」
弦之介は打ちのめされた気がした。
所詮己は将軍の弟。何不自由なく生きてきた人間だ。
己の苦労などここで生活する人々の苦しみの万分の一にも満たぬ。
「若君、このような者達もいるということです。民の目線となって考えるべきです。今すべきことは国の内に潜む憂いを払うことではないのですか」
「お侍さま」
声をかけてきたのは幼児かと思うほど小さく痩せて腹の膨れた少年だった。
割れて汚い器を差し出し、何かお恵みをと言う。
顔は目鼻がどこにあるのか分からないほど黒く汚れ、纏っているのは襤褸のような着物である。
無邪気な笑顔でお恵みを、お恵みをと言うのがたまらなく憐れであった。
「あいにく食べ物は持ち合わせていない。これで何か買いなさい」
そう言って弦之介は多少の銭をやった。
「こんなもの食えん!やぱっり侍は人でなしじゃ。おらたちを扱き使うだけ使ってっ!あんたらのせいで父ちゃんは死んでしもうたっ!!」
「小千太おやめ!あんた、お武家様になんてことを」
甲高い声を出して走ってきたのはこの少年の姉であろう。
「ああ、お武家様。弟がご無礼を・・・どうぞ私の首を斬ってくださいませ」
犬のように這い蹲って泣き叫ぶ少女を見やり弦之介は当惑した。
「別によい、俺の方に非がある。どうか頭を上げてくれ」
「首はいらぬと言うのですか!ならば何でも致します故弟を見逃してくださいまし。畜生のように這いますから!泥だんごでも馬糞でも食べますから!どうか、どうかっ!!」
少女は半ば狂ったように叫び続けた。そんな姉の姿を悔し涙を流しながら見続ける弟。
弦之介は気が遠くなりそうになった。




