第二十話
右近はゆっくりと空を見回した。
次いで下を見回し人がいないのを確かめる。
彼女は城門に近い物見櫓の上にいた。
再度空を見上げる。
鋭い瞳は一羽の鷹を追っていた。
「右近、交代だ」
仲間の忍がそう告げる。
彼女は返事をすると櫓を降り勢いよく駆けだした。
少し離れた松の生い茂ったところへ身を隠すと、鷹は彼女の後を追いゆっくりと旋回した後下降してきた。
「良い子、おまえは頭がいいね」
鷹の羽を慈しむように撫で、足に括り付けられている文を外すとゆっくりとそれを開いた。
「弦之介様・・・」
そう呟くと彼女はさっと立ち上がった。
「せんせえ、せんせえ」
呼ばれて響四郎はふり返った。
「なんだい?」
町はずれの寺とはいえ学問を教わりに来る子供たちはかなりいる。だがこうも沢山の子供らが集まるのは彼――小村響四郎の人柄の良さのためであろう。
彼は旗本家の長男だが幼少の頃患った病のため目が不自由になってしまった。家を継がせようと思っていた息子が盲になってしまったので両親は落胆したが、当の響四郎はもともと堅苦しい将軍家に仕えるのが嫌だったのでこれ幸いと家督を弟に譲ることを父に納得させ、自分は気の向くままにあっちへ行ったりこっちへ行ったりとしながら生きてきた。
昨年ここの住職と知り合い、仏に帰依しているとは思えないほどの奔放な人柄が気に入り、それ以来寺男同然の雑用から手習い師匠までやっている。
「ぼくも先生みたいになるにはどうしたらいいのかな」
「先生みたいになったっていいことなんかないよ。安月給で働かされるしね」
「でもぼく、先生を尊敬してるもの」
「いいかい。偉くなりたいのなら誰かみたいになろうと思っちゃいけない。尊敬されたいのなら尚更僕みたいになっちゃいけないんだよ」
幼い少年には理解しがたいことだったのかぽかんとしている。響四郎はにっこりと笑って少年の頭を撫でた。




