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勇者祭3 ゾエ編  作者: 牧野三河


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第20話


 翌朝、一剣流ゾエ派、トワダ道場。


 シズクが馬車を降り、ばす、ばす、と雪を踏んで門前のマサヒデ達の横に並ぶ。

 いつもは馬と馬車の見張りに残っているアルマダの騎士達も、今日は並んでいる。

 雪が積もって静かだが、道場の中から大きな声と撃ち合う音が響いてくる。


「一剣流って、やっぱ道場ちっちゃいんだね」


 一剣流贔屓のアルマダが、じろりとシズクを睨む。

 ふ、とカオルが鼻で笑い、


「シズクさん。一剣流は門弟をふるいに掛ける道場。これといった者しかおられぬのですよ。門弟も今は弱くても、これは才があると見られた者しかおりません。でなければ在籍を許されないのです」


「そうなの?」


「ここの冒険者ギルドは大きかったですね」


「だね。それが?」


「冒険者には剣を使う者が多いのに、何故ここにおらぬのでしょう。道場の稽古代など、大した額ではありませんよ。何十人と冒険者を抱えていてもおかしくはないはずでしょう」


「あ。あー・・・そっかあ・・・一剣流って、そういう道場なのか。それでちっちゃいんだね」


「はい。そういう事です」


 アルマダが看板を見ながら、ぽつりと呟いた。


「一剣流の開祖アキタダは、門弟を殺し合わせて、生き残った者に一剣流を継がせたんです」


「・・・まじで?」


「一剣流は、そういう剣です。ここは分派ですが、そういう木の幹の所はどこも同じですよ。分派というのは、おまけの枝葉の色が違う程度です」


 ぶる、とシズクが身を震わせた。

 この震えは雪の寒さだけであろうか。


「あのさ、ヤダ先生も・・・やったのかな。他の門弟さんと」


「まさか。もう戦乱の世ではないのですから、流石にそんな事はしていないでしょうが・・・厳しい試験であったはず。ただ腕が立つだけでは、一剣流の看板は背負えませんよ」


「ここの人も?」


「当然、そうでしょう」


「どんな試験すんだろ?」


 マサヒデが鼻で笑って、


「シズクさん、本当に知らないんですか? この国の武術界隈じゃ有名ですけど」


「え? 知らんけど・・・どんなの?」


「今は門弟同士で殺し合う事はしなくなりましたが、斬るのは1人だけです。師匠を斬る事が出来たら、宗家になります。師匠を超えたって証ですよ」


「まじで!?」


「嘘です」


 ぶふ! とカオルが吹き出し、皆がくすくす笑う。


「ビビらせんなよー! もおー!」


 ばさっ! とシズクが雪を蹴ったが、おっと、おっと、とマサヒデが笑いながら避ける。


「もおー! もおー!」


「あはは! 私も入れて下さい!」


 クレールがえっちらおっちら足を上げて、雪を歩いて来る。


「おおっと、シズクさん。そこまで」


「何だよ!」


 ひょいと飛んで来た雪を避け、マサヒデが雲切丸の柄に、ぽんぽん、と手を乗せると、シズクも治まった。


「真面目な話ですよ」


 皆が揃った所でマサヒデが道場を指差し、


「クレールさん、ラディさんも聞いて下さい。ここ、勇者祭の参加者がいます」


「え」「まじ?」


「・・・」


 ラディが無言で懐から鉄砲を出し、かしゃ! とシリンダーをスイングアウトして弾薬を確かめる。イザベルが真剣な顔でラディの横に立って頷き、


「うむ。この広さであれば、そちらの方が良い。八十三式は邪魔になろう」


「はい」


「狭い空間での乱戦になろうから、なるべく撃たぬようにせよ。味方に当たるとまずい。だが、お前が死ぬと確実に死者が増える。自分の命を第一にせよ。迫られたら迷わず撃て。助けるのは事が終わった後か、残りが少なくなって睨み合いになった時で良い。斬り合いはすぐに済むはずだ」


「はい」


「近間での拳銃の使い方は」


「身にぴたりとつけ、左の手の平を前に出す。下腹に適当に狙いをつけ、ぱぱっと3回引き金を引く」


「そうだ。そして離れる。良いな」


「はい」


「よし。その拳銃は5発しか撃てぬ。撃ち、離れたら、すぐ水鉄砲の魔術か、壁を作って一旦外に出よ。最中に弾薬を込め直す時間はないぞ。残り2発は保険だ」


「はい」


「我は勇者祭の参加者でないゆえ、助けてやれぬぞ。死ぬなよ」


「はい」


 皆が黙ってラディとイザベルのやりとりを見つめている。


「・・・」「・・・」「・・・」


 マサヒデが気不味そうに小さく手を挙げ、


「あのですね、まだ斬り合いになるって決まった訳では」


 くるりとイザベルがマサヒデに向いて、


「マサヒデ様。お言葉ですが、それは油断では」


「はい。そうです」


 ぺこりとマサヒデが頭を下げる。


「サカバヤシ道場でも、勇者祭の参加者はおられたと存じます。サカバヤシ様がマサヒデ様とご懇意であられたゆえ、襲われずとも済んだのではありませぬか? 稽古を理由に、実際のマサヒデ様の様子見という事もありえますが」


「はい。全くその通りです」


「首都の神誠館では門弟共が待ち構えておりました。お忘れなく」(※首都編44話)


「はい」


 これではどちらが主だか分からない。まるで駄目君主が側役に叱られているようだ。

 アルマダが苦笑して、


「イザベル様、その辺で許してあげて下さい。マサヒデさんはこれでも常住坐臥というつもりなんですから」


「は。言葉が過ぎました。申し訳もございません」


「あ、いや・・・いや、何のことやら。さあ行きましょうか」


 マサヒデが、ぽん、とシズクの腕を叩いて、


「じゃ、一番手頼みますよ。今度は弓はないと思いますから」


 シズクは不満そうに口を尖らせ、


「えー! 剣でも服は破れちゃうってー。寒いじゃーん」


「そしたら経費で新しいの買ってあげますよ」


「あ、分かった。じゃ行く」


 いそいそとシズクが玄関に歩き出す。


「わざと服だけ斬らせるとか駄目ですよ。見てますからね」


「・・・ちっ」


 びし! とクレールがシズクを指差し、


「あっ! 今、舌打ちしましたよ!」


「お見通しですよ。ほら、行った行った。あなたの立ち回りはこういう役じゃないですか」


「はーい」


 ばさばさと雪を踏んで、皆が玄関の前に立つ。

 クレールとラディは門の左右で顔を覗かせている。

 ささ、とマサヒデとカオルが玄関の脇に立つと、シズクが頷いて、


「おはようございまーす!」


 と、がらりと玄関を開けると「続けろ」と声が聞こえた。ナガタニの声だ。

 道場の戸が開いて、ナガタニが出てくる。


「おはようございます。トワダ道場へようこそ」


「ども! おはようございます! 勇者祭の人、居ます? 私、マサちゃんの所の鬼だけど」


 ばさりとシズクがフードを取る。


「マサちゃん? あっ、ああ! トミヤス殿?」


 ナガタニが首を伸ばして、シズクの後ろを見る。

 アルマダが笑顔で軽く手を挙げて会釈している。左右に綺羅びやかな鎧を着た騎士が2人。


「どうも」


 ひょいと玄関の横からマサヒデが顔を出す。


「あっ!」


 ナガタニが声を上げて手を付き、


「昨日の今日でお越し頂けますとは!」


「あ、ああ、そんな。それで、入っても良いですかね? 出来れば外でやった方が良いかと思うのですが」


 マサヒデが刀の柄に手を乗せ、くいくいと上げる。


「あいや、そちらは大丈夫ですが」


 シズクを挟んで反対側のカオルを見ると、カオルも頷く。

 マサヒデが門の方を向いて、手で招くと、クレールとラディも入って来た。


「では、ちょっと多いですが、失礼致します」


 シズクが後ろのイザベルの方を向いて、


「なあんだ! ほら、イザベル様! 何もなかったじゃん!」


 ふん、とイザベルが鼻を鳴らし、


「シズク殿。分からんぞ。稽古中に刺される事も考えておけ。ナガタニ殿も騙されておるかもしれぬ、という可能性は無ではないのだ」


「大丈夫だってえー」


 では、とマサヒデが框を上がった所で振り向き、


「そうですよ、シズクさん。ナガタニさんは大丈夫って言いましたけど、これ、道場の中で斬り合いになっても、うちは大丈夫ですって意味かも知れないんですから」


 と、ナガタニの頭の上を何かが飛んでいった。


「?」


 ナガタニが振り向いた所で、わ! と声が上がった。

 ごとん、ごとん、ころころ・・・


「げえっ!?」


 じりじりと小さく火花を鳴らしながら転がる筒。あれは導火線!?

 マサヒデは何事もないかのように、玄関を上がった所から道場を見ている。


「ほら。シズクさん、見てみなさい。あの人、真剣持ってますよ」


「あ! ほんとだ!」


 ばたばたと駆け回る音、倒れ込む音、庭に飛び降りる音。


「すみません。一旦出ます」


 マサヒデが框に腰掛け、蒼白な顔のナガタニの横で脱いだブーツを履き直す。

 ナガタニが動けずに目を見開いて爆弾を見ていると、導火線がどんどん短くなっていく。


「うっ!?」


 頭を抑えて土間に跳び下り、地に張り付く。


「大丈夫ですよ」


 そう言って、マサヒデが玄関を出て行く。

 玄関の前から誰も居なくなった所で、恐る恐るナガタニが顔を上げ、道場の方を向くと、筒が転がっているだけ。


「あれは竹筒に導火線をつけただけです」


 後ろから女の声がして、はっとナガタニが玄関の方を向くと、少し離れた所でアルマダがにこにこ笑っていた。


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