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江戸っ子歌い手少女  作者: 水海月
第一章『始まりの音色』
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第一章エピソード10『手を伸ばせば届きそうな場所』

後日、紅葉達一行は花鳥家から出て、劇場への道を進んでいた。

ここら一帯は繁華街で、そこら中の店からスパイスのいい香りが立ち込める。

どの店もとても繁盛していて、外にもたくさんの行列ができている。

紅葉がその様子をよだれを垂らし、目を輝かせながら見ていた。


「ねぇねぇ、凪!三吉鬼!どっかでご飯食べようよ!」


「だーめ。これから天榎ちゃんのところ行くんでしょ?」


「えー。ちょっとくらい良いじゃ~ん。」


凪に寄りかかって手をバタバタさせる。

そんな紅葉の頭を片手で抑える凪。

どんな反応をすればよいか分からず、

それを棒立ちで見ている三吉鬼。

その三人は道行く人々におかしな者を見る目で見られていた。

それに気づいた凪が渋々「はぁ、分かったわよ。どこがいいの?」と聞いた。

紅葉の目がパーッと光る。


「やったー!えーっとね、じゃあ....」


そう言って周りの料理店を見回す。

その中でも特に香ばしい匂いがした店を選び、指を指した。


「じゃあ、あそこがいい!」


「分かった。じゃあ行きましょ。ほら

あんたも行くわよ。」


三吉鬼にそう言った。


「え、あー分かった。て、えっ!?」


どうやら三吉鬼は、ぼーっとしていてすぐには動かなかったので

後ろの首元の部分を凪に引っ張られて引きずられているようだ。


「お、おい歩けるから!」


三吉鬼がどれだけ手足をじたばたさせてもびくともしない。

手を無理やり引きはがそうとしてもびくともしない。


「はいはい、分かったわよ。」


歩けると言ってもこちらを振り向かずにまだ引きずっている。

おそらく一刻も早くこの場から立ち去りたいと思って、後ろを振り返る余裕が無いのだろう。

そんな凪の事はあきらめて、道行く人々を絶対に視界に入れないようにして、

早く店についてくれと祈るばかりであった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ん~!たまらん!」


「っかあ~!うまい!ここの酒はかなり質のいいもんがそろってんじゃねぇか。

まっ、琥珀亭にはかなわないけどな。」


目の前に座っている紅葉は目の前の料理を満面の笑みで食べていて、

三吉鬼は相変わらず酒ばかり飲んでいる。


「もう満足した?」


頬杖をついて呆れ顔で紅葉に聞く凪。

本当はそのまま劇場へ行きたかったが、あの有様だとさすがに恥ずかしいので

私の中では一旦どこかへ逃げる必要があった。


「まって、最後にかき氷食べたい!すみませ~ん!」


紅葉が店員を呼んだその時、隣の席から何か話が聞こえてきた。

それに気づいた紅葉がこっそりとその会話に耳を傾ける。


「ねぇねぇお母さん!明日の体験楽しみだね~!」


それはまだ6歳ほどの小さな少年とその母親の会話だった。


「そうね。あんたずっと前から行きたい行きたいって言ってたもんね。

本当に今回行けてよかったわ。」


「早く劇場の楽屋見てみたいね!」


「ええっ!?」


それに驚いた紅葉が思わず声をあげてしまった。

紅葉の大声に驚いた周りの客たちがこちらを振り返る。

先程の子供の母親はどう反応すればよいか分からないといったような困った顔で

こちらを見ていた。少年は不思議そうな顔でこちらを見つめている

それにすぐに気づいた凪が慌てて周りをなだめる。


「す、すみません何でもないです。うちのお馬鹿さんが失礼しました・・ハハッ・・」


先程の愚かな行動をした自分を恨む。

なんで苦笑いなんかしちゃったんだろう・・

そう思うと恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。


「え、ええっとありがとう?」


さすがに話しかけづらくて変な風にしかお礼を言うことができなかった。

おそらく本当は謝った方がよいのだが、なんだか凪の恥ずかしさを加速させるような気がしたので、

やめておくことにした。


って、こんなことしてる場合じゃないさっきの話をもう一回聞かないと─────


そう思ってもう一度親子の話に耳を傾ける。


「まさか1日世話方体験ができるなんて思わなかったわよね。

本当によかったわ。」


その話を聞いた紅葉はしめた!と思い、

二人にもう店を出ようと促したのだが・・・


「あ、あの~・・・」


横を向くと、そこには先程呼んでいた店員が居た。

どうやらさっきから呼んでいてくれたらしい。


「あ!、すみません!話しかけづらかったですよね?

本当にすみません。」


紅葉が頭をペコペコ下げながら注文をした


「かき氷一つ。桃でお願いします。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


店員はそう言って厨房へと向かった。

反応せずに困らせてしまったけれど、最後は普通の顔に戻ってくれてよかったと

安心した。


その後紅葉がかき氷を食べ終わって店の外へと出た。


「今度こそ行くわよ。」


そう言って凪が劇場へ行こうとしていたのを引き留める。


「ちょっと待って。さっき隣の席の男の子がお母さんと話してるのを盗み聞きしちゃったんだけどね、

今度あの劇場で世話方体験をやるらしいの。だから無策で劇場に行くよりもそれに応募して行った方がいいと思うんだ。私天榎ちゃんと一緒に演奏したいから助けられる確率が高い方を選びたい。」


「なんだ!だったら早く言ってくれればよかったのに!

じゃあとりあえず劇場に行ってからその世話方体験に応募して、

それから当日になってからまた劇場に行きましょ。」


「へぇ~あの劇場ってただ公演するだけじゃなくてそういうのもやってるんだな。

知らなかった。まあ俺は酒があれば何でもいいんだけどな。」



その後、三人は劇場に行ってから体験の応募をして、

後日世話方体験のためにもう一度劇場へ向かった。

今回は何もイベントが起こらずちょっとつまんなかったかもですが、

来週からは本格的に行動を開始するので楽しみにしていてください。


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